ZUU onlineが開催している、『Withコロナ時代の「大」資本改革』をテーマにしたZoomによるウェビナー。7月22日、日本総合研究所 調査部 主席研究員の河村小百合 氏に、『コロナ危機下の米英にみる政府・中銀の役割分担とわが国の課題-危ぶまれる日銀の財務運営』を聞いた。
※以下、河村氏談。7月22日開催のウェビナーの収録内容を書き起こし、3回にわたりお届けします
目次
リーマンショック時以上の手厚さで中小企業の資金繰りをサポートした米国
日本総研の河村と申します。今日は私の方から少しお話をさせて頂いた後、議論させていただければありがたいと思っております。まず、どういう対応をこのコロナ危機下でアメリカとイギリスがやったのか。「両国」と言ったのは中央銀行だけがやったわけじゃありません。そこが今日のポイントとなります。
次にじゃあ日本はどうか。何をどうやっていたのか。政府は一体どうしているのか。そこで、どういう問題が出てきているのか。そして最後に今後求められる対応を一緒に考えていければと思います。
まず、アメリカです。皆様ご存知の通り、今年大変なことになりましたね。あっという間に(新型コロナウイルスの)感染者が広がってしまって、アメリカ経済は大変なことになったと。ソーシャルディスタンスを取らないといけないということで、いろんなビジネスに影響がでました。
それでアメリカは何をやったかと言うと、アメリカの場合、中央銀行と政府とで役割分担を考えながら、中央銀行に何ができるかっていうことなんですけれども、この前、パウエル議長がアメリカの議会に呼ばれて「お金を貸すことはできる(We can lend money.)。だけど、お金を使うことはできない(We cannot spend.)」と言っていましたね。お金をどう使うか、は議会の役割だ。自分たちができるのはお金を貸すことだ、と。
その言葉に象徴されていたと思います。ビジネスの環境が大きく一変する中で、アメリカにも資金繰りに苦労するような企業はたくさんあるんですね。日本と同じような感じで、企業が出す短期の資金調達であるCPであるとか、社債を買うというのもありますし、それ以外にペイチェック保護プログラムなんていうのもあります。そういったいろんなファシリティを発動しています。
肝心なのは、お金を貸すということは、お金が返ってこれは何の問題もないんですが、このような厳しい環境ですので返ってこない可能性もある。その場合どうするか、ということはちゃんと考えて、政府がきちんとリスクを負担するということで(アメリカは)やっていった。実は、後ほど話しますが、日本はこういったことがないんですね。
実は、同じようなことで、リーマンショックの時にやったのが、表の白抜きの部分で、今回はそれをやってさらに黄色の部分もやっている、ということになります。
ダラダラと資金を貸し続けることはしない米国
ちなみにリーマンショックで緊急支援をやった時、たくさんお金を貸していますが、そのあとスーッと落としていますよね。アメリカの考え方はこうです。いつまでもダラダラと、大変だからといって何年も何年もお金を貸し続けたりはしない、っていうことです。
ちなみに今どうなっているかってことなんですけども、Fed(連邦準備制度)の今のバランスシート、リーマンショックからどうなっているのか?を見たのが次の図です。
左側に2009年のところがあります。緊急支援はこの図で赤とかオレンジで塗ってある部分。一時、増えましたけど、その後減っていますよね。その後は、濃い青であるとか水色のところが増えていっていますけど、これはいわゆる量的緩和というやつで、Fedがいろいろ国債を買ったり、住宅ローンの債券を買っていったりしたものです。
それを危機も過ぎて正常化させて減らしていたんだけれども、足元、グラフがピーンと上がってるのをご覧頂けると思います。これだけ今、Fedはお金を供給しているということだと思います。
ちなみに、そこで足元どうなっているか、というのが次のグラフになります。
1月から3月の半ばまでは動きがなかったですけど、そこから急にわっといろんな貸し出しをして資産規模を増やしているのが分かると思います。
ただ、よく見ると足元はもう少し下がってきましたよね。危機の峠は過ぎているのかなというところです。
米国の「メインストリート貸付プログラム」は設計ミス?
次の何々ファシリティがどれだけ使われてるのかっていうところですけど、まあそれなりに使っています。
右から二番目の「Peak Outstanding」にピーク時、今年の3月から今までのところの値、その左の「Amount Outstanding」が7月1日現在の残高。ピークより落ちているものが多いですね。
まぁアメリカもそれなりに問題があって、メインストリートレンディング(貸付)プログラムって日本でもよく報道されてましたけど、中小企業向けに貸し出しをするっていうやつなんですが、貸し出しがゼロになっていますね。ちょっと制度設計に問題があったんじゃないかということで、今いろいろ改善されているところであります。
これを数字に表すとどうなるかということですが、いろんなファシリティ、全体としては増えていますが、ものによっては、特にマネーマーケット向けのものはピークを過ぎて、今もうだんだん一息ついて減少しています。
それに対して、今度はそれ以外のところへの貸し出しが増えている状況ではないかなっていう風に思います。
貸し倒れても資金の用意はそれなりに
順番が前後しちゃって申し訳ないんですけども、Fedも全然リスクとってないわけでもなくて、全額財務省(頼り)というわけでもないんですね。
一部、社債だったりお金貸したのが返ってこないかもしれない、というのを承知の上でやっていますので、Fedとしても損失を吸収する必要はあるかもしれないんですが、それを判断する上では、それだけ普段金融政策運営やっていく中で、どれだけ利益が出たら財務省に納付します、国の予算に納付しますからどれだけできているのか、というのを見たのがこのグラフです。
今、少し減ってきてはいますけれども、2008年、2009年のリーマンショックの頃に比べればまだまだ多いです。ある程度、Fedもこういう緊急対応やって損が出れば負担するかもしれないけど、まあそれの用意はそれなりにあるかなと思います。
政府と中央銀行が書簡でやり取りする英国の手法
次にイギリスの話をさせていただきます。
イギリスはアメリカと同じように、リーマンショックの時に量的緩和を行ったったんですけど、それは誰が決めるかというと、ちょっと独特な文化を持っています。
中央銀行はもちろん政府とは独立して政策を決めるんですけれども、政府(財務大臣)ときちんと相談する枠組みができています。目標も政府が決めることになっています。それって政府の言いなりじゃないか、という気もしますがそんなこともなくて、それで一つのやり方かなっていう感じが私はします。
お互い、イングランド銀行の総裁と財務大臣が意見を言い合って、それをちゃんとお手紙の形で交換するんですね。それで政策運営を決めていく。
出口戦略を考えた量的緩和政策
ここにある表は、リーマンショックの後にイギリスがそれまで全くやっていなかった量的緩和をやって行く時に、いくらまで買っていいことにするか、というのを、イングランド銀行総裁と財務大臣との間で、どう上限を決めていったかという推移を表したものです。
イギリスの場合、すごく特筆すべきなのは、こうやって景気が悪い時に国債などを買ってくれたら、誰でも国民は喜びますよね。金利が上がらないで済むから。でもそんな甘い話じゃないんだよ、と。
景気が悪くて買っている時はいいかもしれないけど、いずれ売らなきゃいけなくなる時にどうでしょうか。景気がいい意味で回復して成長率が上がればそれに伴って金利も上昇します。債券の価格と金利って逆の関係にありますので、高値で買った債券を、値下がりして売らなきゃいけなくなるかもしれない。
出口の話を全然考えてないと日銀は以前から言われていますけど、出口の話を最初から考えて、財務大臣もこれだけの額まで、イングランド銀行は量的緩和で買ってもいいよ、けれどその金額の限度までだったらもし万が一、出口の局面で損失が出たら大変だから、イングランド銀行が絶対に赤字になったり、債務超過になったりしないように、きちんと政府の方で補填しますってことを、例の公開書簡で約束して決めてやってきた、というのがイングランド銀行、イギリスの金融政策面のやり方です。
中央銀行の損失を国が補填するのがグローバル・スタンダード
イギリスやアメリカの経験から言えるのはどういうことかというと、特に危機の時に異例のファシリティを発動して、金融市場にお金が流れるようにしてもらうけれども、損が出た時にどうするかってことをちゃんと考えている。
そして中央銀行に損を押し付けることは絶対しません。損がでるようなこともやらなきゃいけないかもしれないけど、万が一の時はちゃんと財務省が責任をとります。それが両国に限らず、国際金融界でとられている考え方かなと思います。
(#2へつづく)