「中国株に興味があっても、かかる税金の仕組みがよくわからないから手を出しづらい……」という人もいるだろう。そこで、二重課税を防ぐ方法など、中国株の売却や配当受取りの際に現地で支払う税金と国内で支払う税金について、わかりやすく解説していこう。

目次
1,中国株にかかる現地と国内での税金は?
2,二重課税を回避する仕組み、「外国税額控除」とは?
3,確定申告による外国税額控除の3つの注意点 控除限度額など
4,中国株取引における損益通算、2つの方法
5,中国株の売却益にかかるコスト
6,中国株の配当金にかかるコスト
7,中国株取引でも低コストと節税で利益の最大化を

1,中国株にかかる現地と国内での税金は?

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(画像=Xuejun li/stock.adobe.com)

国内現物株式の取引で発生する税金は、取引手数料にかかる「消費税」と、売却益にかかる「所得税と復興特別所得税15.315%」と「住民税5%」である。

中国株取引に関しては、以下のとおりだ。

・現地……売却益は非課税、配当は10%
・日本国内…‥売却益、配当ともに20.315%

中国株取引で支払う税金の内訳

収益の
種類
現地 国内 備考
売却益
(譲渡益)
非課税 ・所得税15%
・復興特別所得税0.315%
・住民税5%
 
現金配当 香港株
の一部と
本土株に10%
・所得税15%
・復興特別所得税
0.315%
・住民税5%
・現地で課税されるのは、
H株とレッドチップ株
の一部、A株、B株
・香港、バミューダなどが
登記地の香港上場銘柄は非課税
株式分割
(株式配当)
香港株の一部と
本土株に10%
非課税 ・株式配当の原資が
利益剰余金の場合

それぞれにかかる税金について、詳しく見ていこう。

売却益に対する課税

中国株の売却益(売却価格から取得価格と費用を差し引いた利益)に対しては、中国国内では課税されず、日本国内だけで課税される。

現金配当に対する課税

現金配当に対しては、日本国内の課税に加えて、中国国内でも配当金額の10%が課税される場合がある。

現金配当に課税されるのは以下の銘柄であり、全上場銘柄の3割程度だ。

・「H株」……登記地が中国本土にある香港上場株
・「レッドチップ株」……中国本土企業の香港法人など
・「A株」……上海、深セン市場の中国本土株、主に中国国内投資家向け
・「B株」……上海、深セン市場の中国本土株、外国人投資家向け

なお、香港で登記されている上記以外の企業や、バミューダやケイマン諸島などに登記されている企業などが支払う現金配当は非課税である。

株式配当に対する課税

H株、レッドチップ株、A株、B株が実施する株式配当(無償交付)のうち、利益準備金が原資の株式配当は、現金配当と同様に10%が課税される。

2,二重課税を回避する仕組み 「外国税額控除」とは

外国株の取引において、現地と日本国内での二重課税を回避するのが「外国税額控除」である。

外国税額控除は、中国株の現金配当の受け取りに際して、日本と中国の両国で源泉徴収されている場合に、確定申告によって所得税額から中国国内での源泉徴収分を控除する制度である。

3,確定申告における外国税額控除の3つの注意点 控除限度額など

確定申告で外国税額控除を申告する際に、控除額や控除されない場合など、あらかじめ知っておくべき注意点がある。具体的な要件をそれぞれ確認していこう。

ポイント1,外国税額控除には限度額がある

中国株の配当に対して中国国内で源泉徴収される税金は、必ずしも全額が外国税額控除の対象になるわけではない。

税法では、1月1日~12月3日までの1年間に日本国外で支払った所得税額に対して、以下の2つの控除限度額を設けている。

①「所得税の控除限度額」=所得税額×(国外での所得金額/所得総額)
②「復興特別所得税の控除限度額」=復興特別所得税額×(国外での所得金額/所得総額)

ポイント2,中国株配当金の源泉徴収額が全額控除になる場合とならない場合は?

・全額控除になる場合
中国株の配当金の現地での源泉徴収額が「所得税の控除限度額」に満たない場合は、中国株の配当金源泉徴収額の全額が外国税額控除の対象となる。

・全額控除にならない場合
中国株の配当金の現地での源泉徴収額が「所得税の控除限度額」を超える場合は、「所得税の控除限度額」と、以下の(1)または(2)のうち、いずれか少ないほうの金額との合計額が外国税額控除の対象となる。

(1)配当金の現地源泉徴収額から所得税の控除限度額を差し引いた残額
(2)復興特別所得税の控除限度額

この場合の外国税額控除額は、(1)と(2)のいずれのケースでも、所得税の控除限度額との合計額が現地での源泉徴収額を超えることはない。

注意点3,中国株をNISA口座で取引すると外国税額控除は適用されない

NISA口座はもともと非課税口座なので、配当金にかかる国内での所得税と復興特別所得税15.315%と住民税5%を納税する必要がない。NISA口座で買い付けた中国株の配当金への課税は、中国国内で源泉徴収される10%だけだ。

外国税額控除は現地と日本での二重課税を回避する制度であるため、配当金に課税されないNISA口座で受け取る中国株の配当金は、外国税額控除の対象にはならない。

中国国内で配当金に対して源泉徴収される税率は10%、日本国内での税率は20.315%である。外国税額控除で現地での源泉徴収分の全額が所得税額控除されたとしても、国内で源泉徴収される20.315%の課税額は変わらない。

外国税額控除が適用されなくても、NISA口座を利用すれば現地での10%の納税で済むので、NISA口座を利用するほうが節税効果は高い。中国株でも積極的にNISA口座で取引して、節税しながら実質的な利益を増やしていくのが賢いやり方だ。

4,中国株取引による損益通算 2つの方法

損益通算とは売却損などの損失が発生した際に、所得金額の計算にあたって一定の範囲内で他の利益から損失を控除できる制度のことだ。損益通算によって、すでに源泉徴収された税金の一部が還付されるため、節税効果がある。

中国株取引でも損益通算ができるので、仕組みを理解して最大限に活用したい。

方法1,特定口座(源泉徴収あり)内で損益通算

証券会社で口座を開設する際は、特定口座(源泉徴収あり)、特定口座(源泉徴収なし)、一般口座の3種類の口座から選ぶことになる。

特定口座(源泉徴収あり)は所得税や住民税が源泉徴収され、証券会社が納税を代行してくれる確定申告不要の口座だ。国内株式や外国株式、投資信託、債券などの売買はもちろんのこと、国内株式や外国株式の配当金、分配金も受け取ることができる。

特定口座(源泉徴収あり)では、口座内で損失が出ると自動的に同じ口座内の他の利益と損益通算して、口座に還付金が戻される。

これは中国株を含む外国株も対象で、特定口座で取引すれば国内株式などと譲渡損益や配当金などを損益通算できる。外国株取引の際に発生する為替差益についても、自動的に源泉徴収される。

確定申告の手間がかからず節税にもなるので、通常使う口座としては特定口座(源泉徴収あり)を第一に考えるといいだろう。

方法2,複数の特定口座の場合は確定申告で損益通算

複数の証券会社の特定口座間でも、確定申告をすれば損益通算ができる。1つの特定口座内で損益通算しきれないほどの大きな損失が出た場合は、他の証券会社の特定口座との損益通算を行えば節税になる。

それでも損失を相殺しきれない場合は、3年間の繰越控除を受けることができる。大きな損失が出た場合は、手間を惜しまず確定申告をするといいだろう。

ここまで、中国株取引をする際の税金や節税方法などを紹介してきたが、次は実際に中国株取引をする際にかかるコストがいくらになるか、見ていこう。

5,中国株の売却益にかかるコストとは?――国内の取引手数料と所得税などだけ

ネット証券で中国株を売却する際に支払うコストは、以下のとおりである。

・国内取引手数料(下表参照)
・国内取引手数料にかかる消費税(10%)
・売却益にかかる国内での所得税(15%)、復興特別所得税(0.315%)、住民税(5%)

これ以外に、現地手数料や香港政府への印紙税(売却時のみ)、取引所税なども発生するが、あらかじめ取引手数料に含まれているか、ネット証券がこれらの手数料を負担しているため、投資家が別途負担することはない。

証券会社によって違うのは、主に国内取引手数料である。中国株を扱うネット証券3社の「中国株の取引手数料」と「為替レートに含まれる為替スプレッド」について、以下の表で確認しておこう。

ネット証券3社の中国株取引手数料(税込)と為替スプレッドの比較

証券会社名 取引手数料
(約定代金に対する料率)
為替スプレッド(片道)
香港ドル 中国元
SBI証券 0.286%
最低手数料51.7香港ドル
上限手数料517香港ドル
15銭
楽天証券 0.55%
最低手数料550円
上限手数料5,500円
15銭 20銭
マネックス証券 0.275%
最低手数料49.5香港ドル
上限手数料495香港ドル
15銭
※各社ホームページの中国株取引ルール(取引手数料、為替スプレッド)を参照

香港株はSBI証券、楽天証券、マネックス証券の3社が取り扱っている外国株であり、取引通貨は香港ドル。日本円と香港ドルの為替スプレッド(片道)は15銭で横並びだ。

手数料は、マネックス証券が最も安い。そのため、香港株の売却にかかる実質的なコストが最も安いネット証券も、マネックス証券ということになる。

中国株の売却益が出たときの税金シミュレーション

マネックス証券を介して買い付けた香港証券取引所上場のA社株式(H株)を売却して、売却益が出たときの税金を計算してみよう。

【取得時条件】
・売買単位100株
・1株500香港ドルで100株購入
・買付約定時の香港ドル/円TTSレートは1香港ドル=13.30円
・取引手数料0.275%(税込)

【売却時条件】
・1株510香港ドルで100株
・売却約定時の香港ドル/円TTBレートは1香港ドル=13.00円
・入金確認時の香港ドル/円TTSレートは1香港ドル=13.30円 ・取引手数料0.275%(税込)

【取得価格と費用】
・香港ドルベースの約定代金:500香港ドル×100株=5万香港ドル
・取得時の取引手数料(税込):5万香港ドル×0.275%=137.5香港ドル
・取得時費用:5万香港ドル+137.5香港ドル=5万137.5香港ドル
(・円換算の必要資金:5万137.5香港ドル×13.30円=66万6,829円、小数点以下切り上げ)

【売却価格と費用】
・香港ドルベースの約定代金:510香港ドル×100株=5万1,000香港ドル
・売却時の取引手数料(税込):5万1,000香港ドル×0.275%=140.25香港ドル
・売却価格:5万1,000香港ドル-140.25香港ドル=5万859.75香港ドル
・売却益:5万859.75香港ドル-5万137.5香港ドル=722.25香港ドル

【国内での源泉徴収額】
・円換算の売却益:722.25香港ドル×13.00円=9,389.25円
・所得税と復興特別所得税:9,389.25円×15.315%=1,437円(小数点以下切り捨て)
・住民税:9,389.25円×5%=469円(小数点以下切り捨て)

【売却益の手取り金額】
・香港ドル換算の所得税など:1,437円÷13.30円=108.04香港ドル(小数点第3位切り捨て)
・香港ドル換算の住民税:469円÷13.30円=35.26香港ドル(小数点第3位切り捨て)
・手取り金額;722.25香港ドル-108.05香港ドル-35.26香港ドル=578.94香港ドル

このケースでは、以下の税金が外国株取引口座の預り金(円貨)から源泉徴収される。

・所得税と復興特別所得税→1,437円
・住民税→469円

売却益の手取り金額は、578.94香港ドル(円換算、小数点以下切り上げで7,527円)となる。

売却益がわかったところで、次は配当金にかかるコストをシミュレーションしていこう。

6,中国株の配当金にかかるコストとは?――現地と国内の源泉徴収税など

ネット証券で中国株の配当金を受け取る際にかかるコストは、以下のとおりだ。

・現地での現金配当にかかる所得税(一部の香港上場株と中国本土株、10%)
・国内での配当金にかかる所得税(15%)、復興特別所得税(0.315%)、住民税(5%)
・現金配当の場合の現地徴収費用(証券会社による)
・権利取得費用(有償増資の際の権利取得で発生、1.50香港ドル)※マネックス証券のみ

中国株の配当金受取に際しては、国内取引手数料は発生しないため、コストは税金と配当金徴収手数料のみだ。

ネット証券3社で違いが出るのは、現金配当を現地で受け取る際に発生する徴収手数料だ。以下の表で現地配当金徴収手数料と、必要に応じて支払いが必要になる手数料を比較してみよう。

中国株の配当金 徴収手数料の比較

  現金配当徴収手数料 その他手数料
SBI証券 ・配当金額の0.5%
(香港ドルベース)
・徴収手数料の消費税
(円ベース、10%)
楽天証券
マネックス証券 ・配当金額の0.12%(消費税なし) ・権利取得費用(有償増資の
権利売却の代行手数料)
→1.50香港ドル
・企業の私有化に伴う
強制買取手数料
→単元株ごとに0.80香港ドル

現金配当徴収手数料は、現地で現金配当を受け取るたびに証券会社に支払う手数料である。

SBI証券とマネックス証券の徴収手数料を比べると、マネックス証券のほうが料率が低く、消費税もかからないので、SBI証券よりも安く済む。

楽天証券では、取引手数料と税金以外は同社負担であるため、現金配当徴収手数料を支払う必要がない。

マネックス証券では、有償増資の際の権利売却代行手数料や強制買取手数料が取引手数料とは別に設定されている。これらは頻繁には発生しない費用なので、あまり考慮しなくてもいいだろう。

楽天証券は、現金配当徴収手数料やその他の手数料が無料なので、非常にお得に見える。しかし、国内取引手数料も含めて総合的に判断すると、マネックス証券が最も低コストで中国株投資ができると言える。

中国株の配当を受け取ったときの税金シミュレーション

マネックス証券を介して、香港証券取引所上場A社(H株)の現金配当を受け取ったときの税金を計算してみよう。

【現金配当金受取時の条件】
・保有株数100株
・1株500香港ドル
・現金配当は1株当たり1香港ドル
・配当金入金時点の香港ドル/円TTBレートは1香港ドル=13.00円
・入金確認時点の香港ドル/円TTSレートは1香港ドル=13.30円
・現地配当税は配当金額の10%
・現地での徴収手数料(Collection Fee)は配当金額の0.12%(消費税なし)

【現地での配当金や源泉徴収額など】
・現地で受け取った現金配当総額:1香港ドル×100株=100香港ドル
・現地での源泉徴収額:100香港ドル×10%=10香港ドル
・現地での徴収手数料(Collection Fee):100香港ドル×0.12%=0.12香港ドル
・現地での配当所得:100香港ドル-10香港ドル-0.12香港ドル=89.88香港ドル

【国内での源泉徴収額】
・円換算の配当所得(国内課税基準):89.88香港ドル×13.00円=1,168.44円
・所得税と復興特別所得税:1,168.44円×15.315%=178円(小数点以下切り捨て)
・住民税:1,168.44円×5%=58円(小数点以下切り捨て)

【現金配当の手取り金額】
・香港ドル換算の所得税など:178円÷13.30円=13.38香港ドル(小数点第3位を切り捨て)
・香港ドル換算の住民税:58円÷13.30円=4.36香港ドル(小数点第3位を切り捨て)
・手取り金額;89.88香港ドル-13.38香港ドル-4.36香港ドル=72.14香港ドル

このケースでは、以下の税金が外国株取引口座の預り金(円貨)から源泉徴収される。

所得税と復興特別所得税→177円
住民税→58円

現金配当の手取り金額は、72.14香港ドル(円換算、小数点以下切り上げで937円)となる。

7,中国株取引でも低コストと節税で利益の最大化を

外国株投資に慎重になっている人の中には、為替スプレッドや税金などがネックになっている人もいるはずだ。それならば、成長企業が多く、為替スプレッドが安く、現地で配当課税されない香港の地場企業や海外の香港上場企業、GEM市場上場銘柄(配当課税のあるH株とレッドチップ株以外)を探してみてはどうだろうか。

もともと中国株は、売却益に対して現地で課税されない。大半の香港株は、配当も非課税だ。香港ドルのまま運用を続ければ、為替スプレッドも最初の1回だけで済む。

さらに、NISA口座を使って中国株を取引すれば、国内で所得税などが源泉徴収されることもない。NISAを使わなくても確定申告で損益通算することができるし、配当については外国税額控除を申告して還付金を受け取ることもできる。

将来性のある中国企業を探して低コストで取引し、節税しながら大きく育つのを待つのも楽しいはずだ。

執筆・近藤真理
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。

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