企業が経営活動を継続する上では、資金繰りが重要とされている。事業を赤字にしてはならないことは多くの経営者が分かっているであろうが、資金繰りが悪ければ、黒字であっても倒産するリスクがある。今回は、資金繰りの意味や重要性、資金繰り表を用いた分析について説明する。
資金繰りとはなにか?
まず、資金繰りとはなにかについて説明する。
「資金」とは、現金や普通預金、当座預金、郵便貯金などのように、会社としてすぐに支払いができる金銭を指している。これに対して、すぐに売却して資金化できない株式や棚卸資産などは資金に含まれない。
「資金繰り」とは、会社が所有している資金に関して、金銭の収入や支出を管理・運用していくことである。資金繰りの最終的な目的は、資金の管理をすることによって、支払いに必要な金額を必要なときに用意できるように、金銭の出入りを調整することである。
資金繰りと収支の違い
経営者の中には、「収支」と「資金繰り」を同じものと捉えている人も多いかもしれない。しかし、両者は似て非なるものである。
「収支」とは、売上と費用(経費)が発生したこと、つまり、売買やサービスの提供によって発生した金銭の授受の事実を数字で表しただけのものであり、実際に行われた金銭の授受の内容ついては考慮されていない。
一方で、資金繰りは、実際に金銭の授受があったり、これから起こり得る金銭の出入りについて行うものであり、金銭の動きを把握するものである。
資金繰りとキャッシュ・フローの違い
決算書の一つとして、キャッシュ・フロー計算書がある。キャッシュ・フロー計算書には、キャッシュ・フロー、すなわち現金預金が期間中にどのように動いたかが記載されている。
金銭の動きという点で一致しているので、キャッシュ・フロー計算書に記載されているキャッシュ・フローは資金繰りであると考えがちだが、その視点が大きく異なっている。
キャッシュ・フロー計算書に書かれているキャッシュ・フローは、決算期間が終了した後に、貸借対照表や損益計算書を基にして金銭の流れについて書いていくものであり、いわば金銭の動きの結果について書くものである。
一方で資金繰りは、経営において今後必要となる資金を探るために、これまで発生した金銭の流れだけではなく、これから発生する金銭の流れについても把握するものである。
キャッシュ・フローは過去に着目し、資金繰りは将来についても着目するという点で異なっているのだ。
資金繰りはなぜ必要か?
資金繰りについての基本は理解いただけただろうか。ここでは、資金繰りが会社経営においてなぜ必要なのかについて説明する。
黒字でも倒産することがある
一般的に、会社は赤字になると倒産するものと思われがちであるが、必ずしもそれだけとは限らない。
東京商工リサーチが調べたところ、2019年の間に発生した倒産のうち、赤字の会社は全体の52.8%となっていた。つまり、倒産することに赤字である必要はなく、黒字の会社であっても倒産することがあるということである。
それでは、なぜ黒字経営にも関わらず、倒産という憂き目にあってしまう会社があるのであろうか?
倒産するのは資金がショートするとき
黒字倒産の会社の事例をいくつか見てみたい。2020年に発生した各種倒産を伝える記事から、一部文章を抜粋した。
- …資金繰りが悪化。このため、2月には取引金融機関へリスケを要請し、…
(旭東電気株式会社の倒産速報(帝国データバンクより一部抜粋)
- 多額の金融債務が重荷になっていたことから3月には金融機関に対して返済緩和を要請し、立て直しを図っていたものの、
(WBFホテル&リゾーツ株式会社の倒産速報(帝国データバンクより一部抜粋)
- …しかし、近隣ホテルとの競合などで厳しい経営が続き、資金繰りが悪化。…
(上越、タカダキャッスルホテルが倒産(新潟日報より一部抜粋)
これらの倒産事例の文章の中には、資金繰りの悪化やそれを連想させる文言が必ずといっていいほど記載されていることが見て取れる。
赤字の発生は倒産の一つの要因となっているが、赤字である事が直接倒産に結びつくわけではなく、資金繰りの悪化によって倒産が起こり得るということだ。
帳簿上の利益があって黒字の会社であっても、手元に現金が無ければ資金繰りが悪化することになるのだ。
資金の流れを抑える必要性がある
倒産を防止するためには、資金繰りの悪化を防ぐことを念頭に置かなければならない。そのためには資金の流れをきちんと抑えておき、資金繰りが悪化する兆候が見て取れたら、それを防ぐための手立てを取らなければならない。
資金繰りが苦しくなるかどうかは、取引きの内容や資金の流れを的確に、かつ定期的にチェックすることが重要なのだ。
資金繰り管理ツールとしての資金繰り表
資金繰りを悪化させないためのツールとして「資金繰り表」がある。ここでは、資金繰り表の目的や中身はもちろん、どう作ればいいのかについて説明する。
資金繰り表は、現金の流れをまとめた表である。
資金がいつどれだけ必要になるかを把握することによって、いついくらの資金が不足するかも把握できる。これらを把握することで、資金繰りにおいて危険を示す兆候があるか否かをフォローすることができるのだ。
資金繰り表の内容は?
資金繰り表には特定のフォーマットはなく、基本的に自社の資金繰りの判断に活用できる内容であれば問題ないが、記載すべき項目がある。
ここでは、一般的なひと月単位での資金繰り表の記載内容について説明する。
1.前月繰越金額
前月に残っている資金の金額を記載する。
2.経常収入
事業の通常の活動による収入を記載する。例えば、現金での売上や売掛金の入金、手形の売却が経常収入に該当する。
3.経常支出
事業の通常の活動による支出を記載する。例えば、以下のものが挙げられる。
・仕入れにおける、現金で行った仕入れ、買掛金の支払い
・販管費における、給与の支払い、家賃の支払い、水道光熱費の支払い等
・借入金の利息の支払い
・法人税の納付、または中間納付
4.差し引き金額
経常収入と経常支出の差し引きの金額を記載する。
この金額を把握することによって、事業活動によって資金が増加するか減少するかがわかる。
5.財政収入
会社の営業に直接関係しない部分での資金の収入について記載する。
例えば、借入金の借入、固定資産の売却、定期預金の解約などが該当する。
6.財政支出
会社の営業に直接関係しない部分に関しての資金の支出について記載する。
例えば、借入金の返済、固定資産の購入、定期預金の預け入れなどが該当する。
7.次月繰越金額
最終的な収支の結果、つまり次月に向けて残る金額を記載する。
資金繰り表は、記載項目の区分についても明確な決まりがない。例えば、ここでは手形の売却は経常収入としたが、財政収入として記載するケースもある。
資金繰り表の作り方
次に、資金繰り表の作り方について説明する。
月単位の資金繰り表であれば、単月ではなく数ヵ月単位など複数期間分を作成するケースもある。これは、資金繰りが過去のみならず、将来にも渡って把握すべき事柄であるためである。
資金繰り表の作成にあたっては、最初の月の前期繰越金額の欄に、月初にある資金や予定資金の金額を書く。記入する資金は、現金や普通預金、当座預金を使うことが多い。
次に売上について記載する。売上の実績や見積もりについて、現金売上は当月の欄に、掛売上については決済される月の経常収入の欄に記載する。
仕入れについても実績や見積もりに応じて記入する。現金仕入れは当月の欄に、掛での仕入れは決済される月の経常支出の欄に記載する。経費に関しても、請求月ではなく支払を行う月の経常支出の欄に記入する。
借入金の返済について分かっているものは、元本を財務支出の欄に、利息は経常支出の欄に記載する。
把握できているものについて一通り記載した後は、各月の残高を計算する。マイナスかそれに近い数字があれば、資金がショートする可能性が高いので、借り入れやファクタリングといった債権の資金化を早める措置を取ることを考慮し、実施項目を資金繰り表に反映させる。
最後に、資金繰りに無理がないか、資金が十分に足りるかを改めてチェックして、資金繰り表を完成させる。
資金繰りを円滑にする2つの対策
資金繰りの悪化傾向などが把握できても、対処法が分からなければ倒産の危機を防ぐことはできない。ここでは、資金繰りの対策方法について説明する。
1.損益計算書を見て利益確保をする
資金繰りを把握するには資金繰り表が有効ではあるが、資金繰りの対策をするためには、損益計算書を確認して、会社に資金を獲得するだけの能力があるか見極める必要がある。
損益計算書から分析する際には、売上に対して売上原価は適切か、人件費が適切か、過大な投資はしていないかなど、従来の財務分析で行う方法となんら変わりはない。分析を行った上で、無駄な経費の削減などの施策を行い、資金を獲得できる体制を整えることが重要となる。
2.資金繰り表を見て資金確保をする
損益計算書で財務分析を行った後は、資金繰り表を活用する。事業の継続運営に必要な資金はもちろん、売上の減少などの突然のアクシデントにどれだけの期間耐えられるのかといったことについても、資金繰り表を参考に確認を行う。
資金繰り表は一度作れば終わりというものではなく、定期的に資金の出入り実績と比較するなどして、当初の予定と比べて差がないかどうかについて検証する必要がある。
もしも当初の予定からとのズレが生じて、資金ショートの危険性が出てきた場合には、新規借り入れや債権の早期現金化といった資金調達の検討を始めなければならない。
新型コロナウイルスのような突発的な事象により資金繰りが苦しくなった場合には、通常の借り入れよりも有利に借り入れることができる制度もある。
突然のトラブル発生時には、国や地方自治体の助成金や補助金制度にも目を向けて欲しい。
資金繰りを把握するには管理体制の構築から
事業を行う上で重要であるのにも関わらず見落としがちな、資金繰りについて説明した。企業経営においては、収支管理を行うだけでなく資金繰りの管理も必要となる。
資金繰りの管理に効果的なツールである資金繰り表を、継続的に作成及びチェックした上で、紹介した資金繰りの強化方法を活用していただきたい。(提供:THE OWNER)
文・中川崇(公認会計士・税理士)