1 はじめに

固定資産税の特例の拡充・延長
(画像=チェスターNEWS)

多くの新型コロナ緊急経済対策が掲げられていますが、その中の一つとして、「『生産性革命の実現に向けた固定資産税の特例』の拡充・延長」があります。

これは、新型コロナウィルス感染症拡大防止で事業縮小や撤退に至る事業者も多い中、新規に設備投資を行う中小事業者等を支援するべく設けられたものです。

特例制度の適用対象が「中小事業者等の認定先端設備等導入計画に位置付けられた一定の事業用家屋及び構築物」に拡充されたことの他、生産性向上特別措置法の改正を前提として、適用期限が2年延長されました。

それでは、まず、「生産性革命の実現に向けた固定資産税の特例措置」について、簡単に説明した後に、今回の緊急経済対策について説明いたします。

2 生産性革命の実現に向けた固定資産税の特例措置について(地法附則15[47]、生産性向上特措法36等)

「生産性革命の実現に向けた固定資産税の特例措置」は、平成30年税制改正により創設されました。そして、この特例は、生産性向上特別措置法(平成30年6月6日施行)に基づいて、地方税法の償却資産に係る固定資産税の特例措置が講じられたものです。

Ⅰ 生産性向上特別措置法

経済産業省HP

ここで、生産性向上特別措置法とは、ICT分野における急速な技術革新の進展により、産業構造や国際的な競争条件の急激な変化に対応すべく制定されたものです。2020年までを「生産性革命・集中投資期間」として、生産性を短期間で向上させるために必要な支援措置が講じられることとなりました。

この特別措置法では、主に、以下の3点が規定されています。

ⅰ プロジェクト型「規制のサンドボックス」制度の創設

参加者や期間を限定すること等により、既存の規制にとらわれることなく新しい技術等の実証を行うことができる環境を整備する。

ⅱ データの共有・連携のためのIoT投資の減税等

データの共有・連携を行う取組を認定する制度を創設し、こうした取組に用いる設備等への投資に対する減税措置等の支援をする。

一定のセキュリティの確認を受けたデータ共有事業者が、国や独立行政法人等に対し、データを要請できる手続きを創設する。

ⅲ 中小企業の生産性向上のための設備投資の促進

中小企業者が、市町村の認定を受けた計画に基づいて先端設備等を導入する際の支援措置を講ずる。

Ⅱ 生産性革命の実現に向けた固定資産税の特例措置の概要

この特例は、各市区町村が策定する「導入促進計画」に基づいて、「先端設備等導入計画」の認定を受けた中小事業者等に対して、各市区町村の判断によって固定資産税の特例を受けることができる仕組みです。

ⅰ 対象者

〇中小事業者等
→個人の場合:常時使用する従業員数が1,000人以下
(租税特別措置法施行令第5条の3第9号に規定する中小事業者に該当する個人)

→法人の場合:資本金の額等が1億円以下の法人のうち従業員数1,000人以下の法人
(大法人の子会社を除く)
(租税特別措置法施行令第27条の4第12項に規定する中小事業者に該当する法人)

ⅱ 対象設備

〇機械装置・器具備品等の償却資産(従来どおり)
〇事業用家屋・構築物(←今回の緊急経済対策により拡充)

ⅲ 適用期限

〇令和5年3月31日まで(生産性向上特措法の改正を前提に2年延長)
(←今回の緊急経済対策により延長)

ⅳ 特例率

〇投資後3年間、固定資産税の課税標準をゼロ~2分の1
(市区町村の条例で定める)

※導入促進基本計画を策定した1,647市区町村のうち、99%超にあたる1,642市区町村において償却資産の固定資産税の特例率をゼロとしています(令和2年3月末時点)。

ⅴ 対象地域

〇導入促進基本計画を策定している市区町村

3 特例制度の拡充・延長の概要

Ⅰ 適用要件(対象設備)

今回の特例によって、「事業用家屋」と「構築物」が適用対象に追加されました。

ⅰ 事業用家屋

→取得価額の合計額が300万円以上の先端設備等とともに導入されたもの
→一の事業用家屋の取得価額は120万円以上
→具体的には、非居住用家屋であって、工場などの新築の事業用建屋等が想定されます。

ⅱ 構築物

→旧モデル比で生産性が年平均1%以上向上するもの
→一の構築物の取得価額は120万円以上
→具体的には、門や塀、看板(広告塔)や受変電設備などが想定されます。

Ⅱ 適用時期

改正地方税法等の施行日(令和2年4月30日)から令和5年3月31日まで適用されます。

現行の生産性向上特別措置法の期限は令和3年3月31日ですが、この期限が2年間延長されることについては、今後、法改正がされる予定です。

Ⅲ 留意点

ⅰ 事業用家屋については、税理士などの認定経営革新等支援機関に以下の4点について確認を受ける必要があります。

① 家屋が盛り込まれた先端設備等導入計画案
→先端設備等導入計画に新築予定の家屋が盛り込まれていることを確認

② 新築の家屋であること
→建築確認済証で、新築の家屋であることを確認

③ 家屋に先端設備が設置されること
→家屋の見取図で、生産性向上要件(年平均1%以上)を満たす設備等が設置される家屋であることを確認

④ 設置される設備の取得価額の合計額が300万円以上であること
→先端設備の購入契約書で、設置される設備の取得価額の合計額が300万円以上であることを確認

認定経営革新等支援機関から確認書の発行を受けた後、市区町村への計画申請時に確認書を添付することになります。

ⅱ 新たに建築した事業用家屋に既に認定を受けて導入した先端設備等を設置した場合において、事業用家屋についても特例の適用対象になります。

ただし、市区町村によっては事業用家屋を特例の適用対象としない場合もありますので、所在地の市区町村に確認して下さい。

ⅲ 構築物は、従来の機械装置等と同様に、工業会の証明書の発行を受けて認定支援機関の確認を受けた後に市区町村へ同計画を申請することになります。

ⅳ 固定資産税の特例率は、市区町村が条例で規定する特例率によることになります。 改正地方税法の施行後、各市区町村が対応するため、決定時期は市区町村ごとに異なります。

なお、導入促進基本計画を策定している市区町村の償却資産の特例率については、中小企業庁のサイトで確認できます。

ⅴ 事業用家屋を含む計画申請については、順次受付が可能となっています。 ただし、特例率の決定には市区町村の条例の制定が必要となることから、詳細は所在地の市区町村に確認して下さい。

ⅵ 中小事業者等の先端設備等導入計画の延長は、現行の生産性向上特措法により行うことはできないので、今後の法改正により2年間延長されたのちは導入計画の延長も可能となります。

以上、新型コロナ緊急経済対策の一環として拡充・延長された「固定資産税の特例」について解説しました。事業用家屋・構築物が対象となったことで、減税対象となる固定資産税額が拡大し、特例の適用を受けるメリットが増すものと考えられます。これから投資を計画している中小事業者は、この制度の適用について検討の上、進めていくことになると思われます。

(提供:チェスターNEWS