(本記事は、寺岡孝氏の著書『不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有し続けるか。』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

不正融資の実態

ポイント
(画像=PIXTA)

「自己資金ゼロ円」で物件購入

「自己資金ゼロ円でも不動産投資ができます」という謳い文句をよく見かけますが、このセールストークは物件を買ってもらうための常套句です。

この常套句と共に「本当に自己資金なしでもできる」ように思わせる巧みなロジックが展開されます。

例えば、若手サラリーマンが不動産投資物件を買う場合、自己資金を入れて買うことはありません。いわゆる自己資金ゼロ円、フルローンで買わせる場合が大半だからです。

街中などでのアンケートと扮して、大企業勤めの若いサラリーマンに近づき、強引に契約させてしまうケースでの相談事例の多くは、20代や30代前半の方々からのものです。社会経験も浅く不動産に対するリテラシーも低いので、業者から見た場合、“いいカモ”です。そのようなカモを狙って、業者から威圧的な態度で迫られると断れない人々が出てきます。そして、契約するまで帰さないといった強硬手段すら使います。さらには、本来ならば返済能力もなく自己資金がない20代になんとか買わせようと、あの手この手で危険な道も渡るのです。そうして起こるのが、書類改ざんという不正行為です。

自己資金ゼロを狙う不正融資のスキーム

こんな事例をお話ししましょう。

Gさんは上場企業に勤める30歳前半、投資マンションを3戸も買ってしまいました。買った経緯はさておき、物件を買う際の資金はすべてローンで、自己資金はゼロだったそうです。借入金の総額は約5,500万円、そのうち、物件に担保(抵当権)がついていない借入金が300万円ほどありました。

この無担保融資は、後ほどお話しするフラット35の不正融資で話題となったARUHIが窓口となったアプラスのローンで、Gさんの場合は年利5.8%、15年返済が組まれていました。

このローンは「ARUHI提携型サポートクレジット」とか「サポートクレジットS」という名称でARUHIのパートナーと称するローン代理店が窓口となり、不動産投資会社と提携して無担保の融資を出していたのです。

物件を購入する際には、購入用のローンを組むのですが、物件によっては物件価格すべての金額で融資してもらえない場合があります。

例えば、投資マンションの売買金額が2,500万円とし、不動産投資物件を専門に融資するX銀行では2,300万円までしか融資できないとなった場合、X銀行の見立てでは、その物件には2,300万円の価値しかなかったことを意味します。

そこで、不動産投資会社は200万円の無担保融資をARUHIの代理店にお願いし、X銀行の担保不足を補い、物件を買わせてしまうのです。

不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有すし続けるか。
(画像=不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有すし続けるか。)

もともとは、X銀行が出した融資額の2,300万円がこの物件の上限価格であり、実勢価格に見合ったものなのです。

ところが、この物件を仮に2,000万円で不動産投資会社が仕入れた場合、300万円程度の上澄みでは儲からないので、物件価格を2,500万円に仕立てて、フルでローンを組めるように仕組んだのでしょう。

少なくとも、500万円程度は上澄みで儲けを出さないと、不動産投資会社としてはやっていけないということです。

こうしたスキームは、金融機関に提出する書類の偽造がつきものです。

いわゆるスルガスキームに見るように、不動産投資会社は物件価格を引き上げて金融機関の提出用に売買契約書を作ります。

いかにも価値があるように見せかけ、金融機関はその見せかけの価格で融資を出すというものです。

金融機関はリスクのある不動産の融資ですから、リスクヘッジのために高金利で貸付けします。

こういった流れが、不動産投資の世界では当たり前のように横行していました。

自己資金がない20代~30代前半の若手サラリーマンに投資物件を買ってもらうには、こうした手法を使わないと不動産投資会社にとっては仕事にならないのでしょう。

また、こうした物件は、もともとの不動産市況における実勢価格は2,000万円程度、もしくはそれを下回るものでしかないことが大半です。

場合によっては、多額の融資金を引き出すために不動産鑑定士による鑑定書まで添付して融資をしてもらうということもあります。

このように、それほど価値のない物件を、いかにも価値があるように見せて買わせてしまうのが現実です。

したがって、ローンの仕組みと契約書をうまく利用してフルローンで買える仕組みを不動産投資会社が作り、場合によっては、不動産鑑定士や銀行もそれに加担していると言えるでしょう。

フラット35の不正利用

自己用の住宅購入でしか利用できない「フラット35」を使って不動産投資物件を買わせた事例もあります。

本来、フラット35は自宅として利用する住宅を買う際に利用できる住宅ローンです。

この融資は旧住宅金融公庫の融資がベースになっているもので、公的な色合いが強く、現在では住宅支援機構が主体となってその貸付業務を行っています。

フラット35は返済期間がずっと固定金利となるため、借り手にとっては魅力的な住宅ローンです。こうした魅力的な住宅ローンを投資用の不動産購入に利用した業者が明るみに出ました。自己用の不動産購入に限って利用可能なフラット35を、どうやって利用したのでしょうか? そのスキームは次の通りです。

フラット35では、貸付条件のひとつが「購入者自身が買った不動産に住む」というものです。そのため、買った不動産に住んでいるという証明、例えば、住民票や公共料金の明細などが必要になります。

万一、この条件が満たされなかった場合には、融資契約の違反とみなされ、融資金の一括返済を求められます。

居住用であればなんら問題のない条件ですが、投資用で利用する場合には、借り手が一時的に買った物件の場所に住民票を移し、融資が実行されてしばらくしてから、元の住所に再び住民票を戻すという禁じ手が不動産投資会社から指南されます。

また、住民票上では、借り手は買った不動産に住んでいることになっているので、住宅支援機構や銀行からの郵便物はその住所に届くことになりますが、郵便物を郵便局留め扱いにして、差出人に戻らないようにも指南しています。

したがって、住宅支援機構や銀行にはこうした不正行為が見抜けなかったわけです。

これが、不動産投資物件の購入にフラット35を使ってもバレないというスキームです。

このスキームはフラット35の代理店である大手のARUHIを介した事案で、こうした不正行為が発覚してから住宅支援機構は融資対象物件の全調査を行い、そのうち約150人の不正利用者に対して一括返済を求めています。

機構から一括返済を求められたために自己破産に追い込まれるオーナーもいるようです。

実勢価格を大きく上回る価格で物件を購入していますので、当然、物件の売却金で充当は難しく、中には1,000万円以上の負債を負う目にあうオーナーもいると聞いています。

居住用の住宅ローンと知りながら契約したオーナーも落ち度はありますが、一連の不動産投資会社や融資の審査を行うモーゲージバンク、金融機関が絡んでいるので、ある意味、組織的な詐欺行為とも言えるでしょう。

指南した不動産投資会社のふれ込みは「みんなやっているから大丈夫です」と言って買い手を信じ込ませてしまい、機構からの追及には「本人が住むと聞いていたからフラット35を勧めた」と言い逃れをするでしょう。

あくまでも、買った本人の意思であって意図的にフラット35を悪用したわけではないと抗弁することが容易に想像できます。

1物件1法人スキーム

次に、お話ししておきたいのは「1物件1法人スキーム」というものです。

不動産投資物件を買ううえで、「儲けたい」という人は個人の融資だけでは限界があります。そこで、1物件に対して1法人を作り、その法人が金融機関の融資を受けて物件を買うという流れを作り上げました。

法人が融資を受けると、借入れは信用機関に信用情報が載るため、借入上限まで借りればそれ以上は借りられません。ところが、連帯保証人である法人代表の個人は情報が載らないため、新たに法人を作れば借入れのない法人として別の金融機関で融資を申し込めるのです

そのため、数多く買ってほしい不動産投資会社は、ローンを組めるだけ組ませて購入させるために「資産も一気に増えますし、物件数が多いほどローンも加速度的に返済できて、早い段階から大きな収益が入ってきますよ」などと言ってこのスキームを勧めます。場合によっては、金融機関側から勧められることもあります。

短期間に規模を拡大できるこのスキームですが、金融機関にとっては返済できる能力を超えた過剰融資であることから、発覚すれば一括返済や金利を大幅に引き上げられる場合もあります。たいていの場合は、規模を大きく拡大していますから、負債額も数十億円となり、返済できません。

したがって、最近ではこのスキームも金融機関で見破られるケースもあり、新規での融資取り扱いは難しい環境です。

将来、ひとつでもデフォルトが起きれば、連鎖的に共倒れするスキームで、結果的にうま味を得るのはこのスキームを勧めた不動産投資会社だけということになります。

スルガショックとはなんだったのか

疑問
(画像=PIXTA)

すでに報道でスルガ銀行の不正融資のことはご承知のことかと思いますが、少しその内容について触れてみましょう。

ずさんな融資が招いた結果

不動産投資会社にとって、一棟モノのマンションやアパートを売りつけるにはスルガ銀行はとても使い勝手のいい銀行でした。

その理由としては、融資の審査基準が他行よりも甘く、不動産の担保評価も高く評価してもらえ、借り手の属性もサラリーマンでそれなりの収入と自己資金さえあれば融資するというものでした。

中でも「かぼちゃの馬車」の物件に多くの融資をしていたのがスルガ銀行でした。それほど建物に価値がないシェアハウスに融資していたスルガ銀行は、不動産投資会社と組んで不正をしていたことが発覚し、大きな社会問題となりました。最終的には、スルガ銀行に金融庁の調査が入り一部業務停止処分を受けました。

その結果、スルガ銀行からの融資は出なくなり、スルガを頼りにしていた不動産投資会社は投資物件を売れないということに……。

スルガ銀行からは融資が出ず、さらには、金融庁によって各金融機関への不動産融資に対する引き締めが厳格化され、一棟モノのマンションやアパートの融資ができにくい環境となりました。

このような金融機関から融資が出ない状況を不動産業界では「スルガショック」と呼ぶようになったのです。

スルガ銀行をめぐる危険な資金調達

私のところに来られた相談事例をお話しします。

Mさんはある不動産投資会社の誘導で、スルガ銀行のアパートローンを利用して物件を購入しました。

その誘導内容は先ほどと同様に、「自己資金はゼロ円」で不動産投資ができるというスキームになっていました。

購入した物件は1億円ほどの一棟モノの中古マンションで、借入金は約9,000万円。

物件の担保評価はスルガ銀行ならではの高額評価で、言ってみればスルガ銀行でないと9,000万円もの融資付けができない物件だったのでしょう。

このケースではMさん本人が持っていた不動産売買契約書や重要事項説明書とスルガ銀行へのローン申込書の記載内容に整合性がないことがわかり、スルガ銀行に対して「融資申込時における不動産会社からの提出書類の開示請求」をすることにしました。その結果、Mさんが持っていた不動産売買契約書と銀行に提出された不動産売買契約書は、全く異なっていました。また、銀行には自己資金が1,000万円あるということが前提の資金計画でローン申込書が作成されており、手付金は払っていないにもかかわらず、1,000万円の手付金を支払ったとされる領収証のコピーが出てきたり、自己資金の有無を確認する書類でMさんの預金口座の残高がわかる書類は、ネットバンキングからの印刷物で、なんと2,000万円程度の預金がある形になっていました。

当のMさんはこうした不正行為が行われていたのは全く知らず、スルガ銀行に提出書類の開示請求をしてはじめてわかった次第です。

また、スルガ銀行の融資には本来のアパートローンのほかに、スルガ銀行のカードローンの契約と定期預金の契約、そしてスルガが提携している生命保険会社の個人年金保険の契約といった関連金融商品を契約されていました

これは、いわゆる金融商品の抱き合わせ販売で、銀行法に抵触する行為を平然と行っていたのです。

とくに、カードローンは限度額が600万円となっており、不動産投資会社からはこの枠はなんにでも使えるお金と言われていたそうです。確かになんにでも使えるお金ですが、まさか返済義務のあるカードローンとは思いもよらなかったようです。

こうした不正行為は誰がやったのか。おそらくは、物件を売った不動産投資会社がこうした不正行為に手を染めたのだろうと思いますが、この不動産投資会社はすでに消滅しており、担当者への連絡もできない状況でした。

仮に、不動産投資会社が不正行為をしたとしても、その借入れには買主に責任が及ぶ可能性があります。

となれば、買主が虚偽の資料を使って不正に融資を受けたことになり、場合によっては融資金全額の一括返済を求められる可能性を秘めています。

Mさんは物件を買った当初はお金の出入りがうまくいっていると思っていたようですが、なかなかお金が貯まらない状況でした。

そんな矢先、中古物件ですから修繕の費用請求があったり、空室が立て続けに発生したために、入居募集のための広告費がかさみ、あっという間に債務超過に陥るというケースでした。

現在では、ローン金利の引き下げをスルガ銀行にしてもらい、元金の債務免除も検討してもらっている状況です。

金利の引き下げで、ようやく収支はプラマイゼロ、何か大きな修繕や長期の空室が出てしまうと厳しい現実となります。

Mさんは、「不動産投資をすればサラリーマンも辞めて自由な時間で老後を送れる」と不動産投資会社に勧められ、仕組まれたスルガスキームに乗ってしまったのです。

しかも、不動産投資会社の担当からは「私たちの言う通りしていれば、いい物件を買うことができ、しかも自己資金はゼロ円でいけます」ということでした。

この不動産投資会社は、後に説明する「三為業者」でおそらくこの取引で数千万円の儲けがあったのでしょう。

Mさんは物件を購入した当時をこう振り返ります。

「当時は何もわからずに、不動産投資会社の人に言われるがままやっていれば、不動産投資で自由な老後が得られると思っていました。そのとき、僕と同じような人もこの不動産投資会社から物件を購入していました。その人はシェアハウスの新築物件を買うと言っていました。いま思えば、シェアハウスを買わなくてよかったと……この不動産投資会社はスルガ銀行からの融資を受けることで、かなりの儲けがあったのでしょうね。まあ、シェアハウスを買っていればいま頃は破産していたかもしれません」

結果的に物件は買うことができましたが、大きな負債と精神的な苦痛を持つことになり、サラリーマンを辞めて自由な老後は到底、見えそうにもありません。

いまでは、早期にこの不動産投資から退場できるように、物件を売りに出しています。

このように、危うい資金調達をしてしまうと、一歩間違えれば人生を失うに近いトンデモナイことになるのです。

不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有し続けるか。
寺岡 孝
1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅コンサルタント。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、これまでに2000件以上の相談を受けている。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローン、不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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