(本記事は、寺岡孝氏の著書『不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有し続けるか。』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

アフターコロナの不動産投資はどこに向けていくべきか

ポイント
(画像=PIXTA)

アフターコロナでは不動産投資はどこに向けていくべきなのでしょうか。

不動産ビジネスには開発、賃貸、売買、仲介、管理といったものがあります。

開発で土地を仕入れて、住宅をはじめオフィスビルやホテル、商業施設や物流センターなどを建設し、その中のモノを売ったり貸したりして利益を得るというビジネスです。

アフターコロナでコロナの収束が進んだとしても、在宅ワークの常態化や一定の社会的距離を保つことが必要となれば、不動産業界には大きな影響を及ぼすことになります。

例えば、都心のオフィス需要は減少し、それに伴い都心のマンションも需要は減るという流れ、あるいは宿泊需要やインバウンド需要の減少でホテル事業の縮小は余儀なくされるでしょう。

逆に、都心から郊外への移住が増え、戸建ての住まい需要は増加する可能性があります。

概ね、都心からのアクセスが1時間程度で行けるエリアの需要は、今後、増える可能性があるでしょう。

このように、不動産に対する需要の変化が起きれば、その投資の矛先を変えることになります。

いままでは都心一辺倒の不動産投資だけでは難しい時代になり、投資先の選択をバランスよく持っておなかないと厳しいでしょう。

また、過去のバブル崩壊やリーマンショックのように、不動産価格の下落が起きる可能性もあります。

都心のオフィス需要やマンション需要、あるいはホテルなどの宿泊需要が大きく減少すれば、収益があげられないので、儲からない保有不動産を売却してお金に換えてしまおうという流れになります。

誰もが、損はしたくないから早く不動産をお金に換えようと思い始めると、売りが売りを呼んで不動産価格の暴落が起きてしまいます。

こうした時期が来れば、手元資金が豊富な投資家は「出物を安く買う」という行為に出ますが、サラリーマン大家などごく一般の投資家は保有不動産を売ることだけしかできないでしょう。

こうした背景を踏まえると、やはり不動産投資の対象は居住用の不動産需要に対するものが強いことがわかります。

居住用不動産は人の住まいですから、人口減少はあるものの、ある一定の需要はなくならないものです。

こんな実例があります。

都内の利便性の高いエリアでよく賃貸のマンション建設を見ますが、オーナーには1階は貸店舗を勧めてくる不動産会社や建設会社が多々います。

それは、店舗の方が賃料を高く取れることができ、居住用の部屋よりも利回り的にはよくなります。

しかも、「1階の賃貸住居は嫌われる傾向にあるから店舗の方がいい」とセールスの人は常套句を言います。

しかしながら、ここ最近の数カ月で竣工した小規模の賃貸併用ビルにある1階貸店舗にはなかなか借り手がつきません。

物販にせよ飲食にせよ、店舗の需要はコロナ禍ではかなり厳しいものになりました。

お客様のうちのあるオーナーは不動産会社や建設会社に言われるがまま貸店舗にしましたが、これでは賃貸の部屋でワンルームにでもした方がよかったとこぼしていました。

貸店舗では家賃保証はしないので、店舗ぶんの収入ゼロが続けば今後の収益が不安だとのことです。

コロナの収束がいつになるかはいまのところ未知数です。ワクチンや特効薬がすぐにできればいいのですが、その見通しもいまだ立っていません。

そうした環境下で今後の不動産投資を考えると、都市部に対するものとそれ以外のものに分散した形で対処することが賢明ではと思われます。

また、投資対象は手堅い居住用の不動産需要で考えるべきでしょう。宿泊需要や店舗、オフィスなどの事業系の賃貸需要はコロナの影響で一気に飽和状態になりつつあります。利用者や借り手がいないという状況となれば、当然、投資対象にはなりません。したがって、今後の不動産投資は慎重に考えるべきでしょう。

コロナ禍で迷走するサラリーマン大家

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(画像=turgaygundogdu/Shutterstock.com)

コロナ禍で緊急事態宣言が出されてから、あらゆる業種、業態で大きく影響が及んでいます。

首都圏の不動産業界では営業自粛が続き、街中の店舗ではひとりで対応に追われています。そのため、賃貸や売買も取引は相当数減少しており、今後、どれだけ影響を及ぼすかは計り知れないものです。

不動産を賃貸に出している大家、とくにサラリーマン大家の大半は物件をローンで購入しているために入居者からの家賃が返済の原資になっています。その入居者もここにきて家賃が払えない状況になるケースが散見されるようになりました。賃料が安価な物件ほど家賃の滞納が増えていると聞きます。

いずれこうした家賃滞納は今後、増えていく傾向になろうかと思われます。

「うちはサブリースで家賃保証してもらっているから大丈夫」と思っているサブリース大家も多いかと思います。しかし、サブリースを運営している不動産業者が倒産や破綻をしてしまえば、家賃の支払いは滞ることになるので注意が必要です。言い換えれば、3章でお話しするシェアハウス破綻のスマートディーズと同じことが自分にも起こり得るのです。自身の家計も脅かし、安易に考えているととんでもないことになってしまいます。

こんなケースもあります。

病院勤務のドクターYさんは、同僚から節税対策にと勧められ、新築の投資マンションを買い始めて複数戸保有しています。その全てはローンを組んで購入し、借金の総額は約1億3,000万円。年間で130万円の持ち出し金が発生しています。「節税できるからいいだろう」とあまり気にせず、安易に考えていました。

ところが、このコロナ禍で家賃滞納や空室リスクも起こり得ることを知り、自分の投資内容を検証してみました。するととんでもないことになっている実態に気がついたのです。Yさんは持ち出し金があることは知りながらも、それが月に10万円以上もあるとは思ってもいませんでした。

家賃はローン返済口座に入金されます。ローン返済日と家賃の入金日の間には、それなりのタイムラグがあるため、一時的に「通帳にお金が残っている」と思ってしまいます。そして、自分の投資はうまくいっていると錯覚してしまうのです。

Yさんは、結局のところ、年間で130万円以上の持ち出し金があり、すでに3年間で約400万円の累積赤字となっていました。所得税の還付金でその半額は回収していますが、それでも200万円の累積赤字となります。なんのための投資なのかと後悔の念を感じていると言います。

この投資案件の場合、賃料は年間で約500万円の収入があります。しかし、ローン返済は1年で約550万円もあり、さらには管理費や修繕積立金、固定資産税などの経費を加えると年間約630万円もの支出が発生します。

仮に、家賃保証が頓挫すると、最悪の場合、ローン返済や経費を丸々手持ち金で支払う格好になります。そうなれば、自分の給与収入の過半をこの支出に充てることになってしまい、自己破産の道を歩んでいるとさえ言えるでしょう。

購入当初は全く想定しなったことが現実となってしまうのです。

「物件を売ればいい」と考えても、不動産は今日明日でお金に換えられものではありません。たとえ換えられたとしても、ローン残債を上回る金額で売れるとは限りませんし、ましてやYさんのように新築物件が大半を占めていれば、売却できたとしても戸当たり数百万の持ち出し金が必要なります。

このように、新築物件を市況より高値で掴まされたサラリーマン大家は下手をすれば八方塞がりになります。

不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有し続けるか。
寺岡 孝
1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅コンサルタント。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、これまでに2000件以上の相談を受けている。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローン、不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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