(本記事は、寺岡孝氏の著書『不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有し続けるか。』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

サラリーマン大家は、なぜ破たんするのか

ポイント
(画像=PIXTA)

三為業者問題

サラリーマン大家の流行と破綻の背景を語るうえで、欠かせない点のひとつに不動産投資会社が転売でピンハネする構造、いわゆる「三為(さんため)」の問題があります。

業界的に三為は儲かるビジネススキームとして広く使われており、第三者のために契約を行う転売業者を略して「三為業者」と呼んでいます。

三為業者はどのような流れでビジネスを行っているのでしょうか。

三為専門の不動産投資会社は、レインズなどの不動産サイトに掲載されている物件や仕入れ専門業者から底値で買い、買った価格に少なくとも2、3割乗せて、サラリーマンやドクターなどのエンドユーザーである第三者に転売するというものです。

一般的に不動産物件を購入した場合には、買主に所有権の移転登記をする必要がありますが、三為の場合には自社の所有権移転登記を省略して、エンドユーザーに転売してしまうのです。

また、買主は登記費用や不動産取得税を払う必要がありますが、三為の場合には省略された取引のため、自社で登記費用や不動産取得税を払うことはなく、エンドユーザーに高値で転売すれば、ピンハネしたぶんは丸々儲けとなるのです。

三為業者のビジネススキームの事例を図示すると、下図のようになります。

不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有すし続けるか。
(画像=不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有すし続けるか。)

売主のAさんと物件購入者であるCさん、そして第三者である不動産投資会社B(三為業者)がいます。Aさんから不動産投資会社Bが区分マンションの物件を1,500万円で購入します。そして不動産投資会社BはCさんに1.4倍の値である2,100万円で物件を即日転売します。

本来ならば、不動産売買を行う際には必ず物件の所有権移転を行う必要があります。ところが、AさんとCさんの売買契約として、その中間の所有権移転を省略してもよいとする「中間省略」によって、三為業者は登記する必要はなく、登記簿にもその経緯は載りません。そのため、転売者である不動産投資会社Bは、購入した際に発生する不動産取得税や登記免許税などを払わないまま、ピンハネした売値でCさんに買わせれば、丸々600万円を儲けられるというわけです。

Cさんからすれば本来なら1,500万円で買えた物件を600万円もの余分なカネを出して購入したことになります。

不動産投資会社が三為業者かどうかを見抜くのはなかなか難しいものですが、取引した不動産の登記簿謄本を見て、元の所有者(図の場合はAさん)から最後の買主(Cさん)に所有権移転がなされていれば、その間にいる不動産投資会社は三為業者であることがわかります。

このように、三為業者である不動産投資会社を介して買った物件は、市況の実勢価格からはるかに乖離しているため高値掴みとなります。しかも、物件の管理と賃貸借も三為業者によるサブリースと家賃保証というスキームが使われますので、買った人は儲からない仕組みになっています。

つまり、三為業者から物件購入すれば、購入価格でピンハネされ、物件を貸し出す際に賃料などもピンハネされてしまうので儲かるはずがありません。

おそらく、「サラリーマン大家」と称する人の大半はこのスキームで不動産投資会社から物件を買っていると思われます。

また、三為業者は自社で物件を買うことはありません。したがって、会社としての資金力は微弱と言えます。おそらく、仕入れ物件の契約の際に支払う手付金ぐらいしか手元資金がないのでしょう。

そのため、彼らと契約する場合には売主が預かる手付金が過少です。そこには、過少な手付金を放棄して契約解約というような高いリスクも存在しています。

三為業者は物件の売買契約後に、買ってくれる第三者を探さなくてはいけません。売買契約の決済日までに第三者が見つかればいいのですが、見つからない場合には自社で物件を買うという契約に大半はなっています。ところが、決済日の2、3日前に「物件が自社で買えないから決済日を繰り延べしてほしい」というようなケースがありました。買主はいわゆる業者ですからプロのはずなのに、素人みたいなことを言ってきたのです。この業者は、結局のところ1カ月後に決済日を迎えましたが、万が一のことを想定して、当初の決済日までに違約金に該当する金額を中間金としてもらうことにしました。

このように、三為業者自体は非常に危うい会社運営をしている可能性があります。

不動産投資会社依存のサラリーマン大家

世の中のいわゆる転売屋と同じ構造が不動産投資にはあります。例えば、一棟30戸のマンション建物を第1社が建て、建物一棟を丸々第2社に売る。その第2社が1戸ずつ区分所有マンションに区分けして、値段を吊り上げて第3社、第4社、第5社と売っていく。転売に次ぐ転売を経て購入者が買う頃には本来の価値よりも大きく上回る販売額になっているのです。

こうなると、転売屋から買わずに元の売主から直接買いたいところですが、残念ながら元の売主が誰かなどという情報はエンドユーザーにはわかりませんし、投資用のローンを組むことが前提になると、不動産投資会社が提携している金融機関からしかお金が借りられない場合があり、結局のところ、不動産投資会社から買わざるをえないのです。

資金力があれば、このジレンマと直面する必要もなく、セミプロやプロの大家たちは転売屋のカモになることはありません。しかし、「ローンを最大限にフル活用する」ことがメリットと謳われるサラリーマン大家は情報弱者であり、三為業者のいいカモにされてしまいます。サラリーマン大家の大半は投資用ローンを借りないと物件は買えません。そうなると、不動産投資会社を介した物件しか購入できないため、いい高値で価値のない物件を買っているのです。三為を専門とする不動産投資会社に依存する代償は、資金力も知識もないサラリーマンにとってはあまりにも大きいと言えるでしょう。

私のところに相談に来られたサラリーマン大家は不動産投資会社に言われるがままにローンを組み、高値で物件を買って、サブリースで運用している方が大半です。

投資用マンションを8戸も9戸も買って借金は2億円、毎年の持ち出し金を200万円も出さないといけないなど、投資スキームは破綻しています。

自分では気がつかないうちに自己破綻への道に進んでいるのです。

不動産投資会社のタイプを見極める

選別
(画像=PIXTA)

転売構造からも見えてくるように、不動産投資会社と一口に言ってもタイプがあります。大きく分けて次の3つのタイプがメインとなります。

仕入れ業者

土地などを安く買い取って建物を建設して売るのが仕入れ業者です。仕入れ業者は、広告などの宣伝や売主への飛び込み営業、競売物件などによって土地の仕入れをしています。エンドユーザーである物件を購入してオーナーとなる人からすれば、この仕入れ業者から直接購入できれば、先ほどの三為業者のような転売による高値よりも本来の価値にできるだけ近い購入額で物件を得られる、と考えるのが自然でしょう。

しかし、基本的に仕入れ業者は同じ業界にいる販売業者に規模の大きな物件を売るものなので、仕入れ業者からすれば小さな規模を求めるエンドユーザーに応えてくれるような仕入れ業者はほとんどなく、見つけることは至難の業なのです。

とはいえ、土地や建物の品質にかかわるわけですから、エンドユーザーにとって決して無縁の存在ではありません。

販売業者

エンドユーザーの一般的な購入先が、販売を生業とする不動産投資会社です。不動産投資会社のタイプの中でも最もメジャーなタイプと言えます。不動産売買において一番美味しい蜜を吸えるのは三為業者ですから、小規模の会社も多く存在しています。

三為業者からすれば、可能な限り物件価格を水増しすればそのぶんだけ利益になるわけですから、あの手この手を使って売ろうとします。そのため、不正行為が横行し、販売業者によるトラブルも多いのです。

一貫業者

建築・売買・不動産管理まですべて同じ会社が行う一貫業者も不動産投資会社にはいます。販売会社よりも安全に物件を購入できるというイメージにもつながるため、不動産投資会社からすればアピールポイントにもなるでしょう。コマーシャルで目にするような不動産投資会社の多くは、この一貫業者のタイプだと言えます。

このくらいになると、会社規模も大きく大手企業になりますが、大手だからといって安心できるというわけではありません。販売している物件の表面利回りは決して高くなく、儲かるわけではありません。また、業者側にしても、レオパレスのように手抜き工事による施工不良問題のリスクもあるのです。

結局のところ、エンドユーザーがなるべく損を出さずに不動産投資をしたいのなら、自分で物件を探して購入し、自分で管理することが最も儲かります。

これまでにお話ししたような地主の不動産賃貸業も、お金を借りるなら地元のJAや信金、人の出入りがある場合は街の不動産屋をいくつか尋ねて募集をお願いし、賃貸契約を済ませ、家賃も入居者から直接受け取っていました。シンプルですが、最も着実に儲けが出るプロの方法です。

自分が把握できないところで様々な業者を経て、わからぬままに契約を交わすのではいいカモになるばかりです。

不動産投資の曲がり角で、どうする? ーー損切りするか、保有し続けるか。
寺岡 孝
1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅コンサルタント。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、これまでに2000件以上の相談を受けている。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローン、不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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