AI技術の進展はこの社会に、淘汰される恐怖とチャンスへの期待とが交錯する状況を生み出している。チャンスをつかむ側に回るために求められるのは、変化を先読みする力ではないだろうか。
企業の長期戦略立案のプロであり、先読み力が問われるクイズの世界でも活躍する鈴木貴博氏が世界で席巻するアマゾンがこの先に与える影響を予測する。
※本稿は『THE21』2020年6月号より一部抜粋・編集したものです。
2020年代後半に小売店が淘汰される
アマゾンエフェクトとは、インターネット通販の市場拡大の影響を受けて、アメリカで大手小売店などのアマゾンの競合企業が次々と破たんに追い込まれている現象です。
日本のインターネット通販の成長段階は、アメリカのEC市場の大きさと比較すると、4~5年遅れぐらいのタイムラグがあります。そのタイムラグを考えると、私は日本でアマゾンエフェクトによる小売店淘汰が本格的に起きるのは、2020年代前半だと予測しています。
では、具体的にどの小売業態が危ないのでしょうか。未来予測の手掛かりとしては、「アマゾンのヘビーユーザーがどのようにアマゾンを利用しているのか」を見ることが重要です。
その視点を通じて、「今後、そのようなユーザーが増えてくる」ことが想定でき、どのような小売り需要からアマゾンエフェクトの痛手を受けていくかが類推できるのです。
アマゾンにもっとも食われやすい買い物とは
アマゾンのヘビーユーザーの話を聞いてみると、前提としてほぼ全員が入会しているのが年間4,900円(税込 ※2020年7月時点)のアマゾンプライムです。
アマゾンプライムの会員になると、お急ぎ便の配送料が何度使っても無料になる。ここが、アマゾンエフェクトが消費者に広がる入り口で、年会費を払っているとはいえ体感的に送料が無料、しかもアマゾンの場合、返品手続きがとても楽にできることから、とりあえず買うという消費行動が増えるようになります。
中でもアマゾンに食われやすいのが、「買い物自体が楽しくない買い物」です。例えば、(自分のためではなく)家族のためにビールや靴下や肌着を補充するとか、プリンタ用紙やインクカートリッジが切れて買わなければいけない、といった買い物需要です。
これが送料無料になると、外に買いに行くのが面倒なこともあり、アマゾンプライム会員はアマゾンで買うようになります。これが第一段階で、ホームセンター、ドラッグストア、GMSといった小売りチェーンストアの基礎的な売上をアマゾンが削り取るように奪っていきます。
パソコンの周辺機器が店頭で買えなくなる!? 次に小売店にとって痛手なのは、めったに買わない特別な、ただし金額は数千円程度の小さな商品の購入です。私が最近買った例でいえば、パソコン2台のモニター切り替え機とか、簡易型のタイヤチェーンとか、室内で素振りをする運動器具みたいなやつです。
こういう商品は小売店から見ると、買い手の商品知識がないので、利幅がとれる価格で売ることができます。例えばビックカメラで言えば、大画面テレビやドラム式洗濯機のような高額商品よりも、OA消耗品のほうが利幅は取りやすい。
それで今までは、顧客が店頭にやってきて、「こんな用途のプリンタ用紙はどこにありますか?」と尋ねて買ってくれていた。しかし、それが徐々に、ネットのほうが情報も集まるし、製品の選択の幅もネット通販のほうが広い、という状況になってきたのです。
アメリカではこの状況はもっとひどくて、例えばパソコンの周辺機器はもうリアルな店舗で買うことができなかったりします。
実際、昨年のアメリカ出張でうっかり日本からUSBハブを持っていくのを忘れ、ノートパソコンでの作業で不便を感じたことがありました。
現地で調達できると思ったのですが、ショッピングモールとウォルマートのようなディスカウントストア、どちらに行ってもUSBハブは見当たらない。スマホコーナーはあっても、パソコン周辺機器コーナーがそもそもないのです。
こうして、「一部の消費者がたまにしか買わないような商品」はネットに需要が移り、需要がネットに移ったことで小売店が扱わなくなるという悪循環が起きます。小売店にとって売り場効率を上げているうちに、知らず知らずのうちに利幅の大きい商品群の売上げが消滅する。そんな現象が第二段階として起きます。
こうして家電量販店、しまむらのようなアパレル量販、スポーツ用品店などの業態でも売上高が2割、3割と削り取られてリアル店舗の収益性が低下していくのです。