多くの国ではコロナショックにより経済が大きく落ち込んだにもかかわらず、株価の回復が早い。その背景として、中央銀行の金融緩和策により「カネ余り」の状況が生まれ株価を押し上げているとの指摘がある。
そこで本稿では、金融緩和策による株価上昇について、どのような構造となっているかをシンプルに考えてみたい。
まず、中央銀行が金融緩和策を実施し、通貨(≒個人や一般企業の預金)を増やすには、(1)中央銀行が市中銀行の預金を増やし、(2)市中銀行が(中央銀行に口座を持たない)個人や一般企業の預金を増やすという2段階のステップを踏む必要がある。個人や一般企業まで預金がまわってくるかは、中央銀行が決めるのではなく、個人や一般企業がお金を借りたいと思い、それに対して市中銀行がどれだけ貸出等を行うかに依存する。
この前提の上で、シンプルなモデルで金融緩和策について考えてみたい。
登場人物は、中央銀行、市中銀行、食堂経営のAさん、Aさんの土地を保有している大家さん(Bさん)、ある株を保有している株主(Cさん)の5人とする。
さて、当面の運転資金確保に困っていたAさんが、中央銀行の金融緩和策のおかげでお金が借りやすくなったとしよう。
そこで、Aさんは当面の運転資金(100万円)とBさんへの地代支払(50万円)を市中銀行から借り入れる。
Aさんは当面の運転資金(100万円)は銀行に預金しておき、Bさんには50万円の地代を支払う。
Bさんは地代収入50万円のうち、30万でCさんの保有している株を購入し、残りの20万円は預金することにする。
Cさんは、株売却収入の30万円を預金することにする(下図)。
この経済の「通貨量」は150万円(Aさん預金100万、Bさん預金20万、Cさん預金30万)で、「株価」は30万円である。この経済における株価はBさんがいくらで株を買いたいかによって決まり、「通貨量」は関係がないように思える。
では、Bさんはいくらで株を買うだろうか。例えば、株を発行した会社が、ずっと配当を払ってくれるとすれば、いくらで株を買ってもいつかはもとをとれるという考え方ができる。一方で、現実には会社が倒産するリスク、配当がもらえないリスクなどがある。これらの株を保有することのリスクに対してBさんがいくらなら支払っても良いと考えるか、換言すればどの程度の報酬が欲しいかによって決まる。
ここで再び通貨量を考えてみたい。経済の中にある預金(≒通貨)が多く、各人が当面必要となる以上に預金があれば、報酬が少なくても、預金として置いておくよりは、儲かるかもしれない株式を購入しておきたいと考える人が増えるだろう。つまり、通貨量と株価の関係は機械的に決まるわけではないが、通貨量が多くなれば、経済全体としては株が高値でも買われやすい状況になる。
特に、コロナ禍の各国の金融緩和策では、企業に対する資金繰り支援のため、中央銀行による社債の購入や、中央銀行が市中銀行の貸出増加に対してインセンティブを与えており、(1)(中央銀行→市中銀行)の資金の流れと(2)(市中銀行→個人・一般企業)の資金の流れが密接になっている。さらに、政府による個人・企業への給付金も個人の預金を増やすことになる。その財源を国債の発行で賄い、発行した国債を市中銀行経由で中央銀行が買い取るとすれば、中央銀行→政府→個人と資金が流れることになる。
こうした状況下では市中の預金が多く、これまでより割高でも株を買っても良いという状態、つまり「カネ余り」の状態になりやすいと言える。
例えば、図表の状態から、登場人物として政府を加えて、Aさん、Bさん、Cさんにそれぞれ給付金を10万支払ったとする(預金がそれぞれ10万円増える)。Bさんが預金は少しだけで良いと考えた場合、株を40万円でも購入したいと思うかもしれない。Cさんも給付金10万円をもらったので、株として持っていたいと考えたら、BさんとCさんの株売買はさらに高値(例えば50万円)でないと成立しないかもしれない。
今回、日本でも給付金が支給されたが、投資に充てようと考えている人は、改めて株価が決まる仕組みについて考えてみるのも面白いのではないだろうか。
高山 武士 (たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
・誰が株価を上げているのか-シンプルにコロナ禍での株価上昇について考える
・失ったGDPは戻ってこない?-シンプルにコロナ禍と経済活動自粛の影響を考える
・世界各国の金融政策・市場動向(2020年9月)-「フィンセン文書」をきっかけに、ドル高が進む
・新型コロナウイルスと各国経済-コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か? 50か国ランキング
・新型コロナウイルスと各国経済-封じ込めは限界?コロナとの共生を模索する各国