(本記事は、2020年ノーベル平和賞を受賞した国連世界食糧計画(WFP)の職員である佐藤しもん氏の著書『寄付金、クラウドファンディングの集め方』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
寄付をする方の特徴
どんな人が寄付をしやすいか。日本と欧米では若干その特徴が異なるが、日本においては、おおむね次のようなターゲットがあげられる。
年齢 :50~60歳 性別 :女性のほうが男性より寄付をしやすい 経済力:中間層以上であれば、寄付をしてくれる可能性が高い 特徴(1):自分以外に興味が向いている方 特徴(2):寄付をする方は、1人で何団体へも寄付をする
ひとつずつ細かく説明していこう。
若い方でも高齢者でも寄付をしてくれる可能性はもちろんあるが、10代20代の若者は、時間や熱意があってもお金がない場合が多く、寄付をいただき難い。また、30代や40代の子育て世代は、まだ自分の子どもにお金がかかるため、高額の寄付は望めない。
50代60代になると、経済的にも余裕がでてくる方が多く、この層から寄付をいただくと、長期的な継続支援を期待できる。70代80代も寄付はしていただきやすいが、オンラインの環境が無い方が多いことと、年齢的に行動範囲も狭まってきて、なかなかこちらからのアプローチがし辛くなる。
性別に関しては、子どもへの支援などは典型的だが、子どもを救うことなどは、母性を刺激しやすく、女性からの支援が受けやすい。多くのチャリティー団体において、男女別の寄付者の比率は、女性が7割、男性が3割など、女性比率が高い。
経済力は、自立した生活を送っている方であれば、寄付をいただける可能性はある。言わずもがな、富裕層からは、もっとも寄付をいただける可能性が高い。
逆に、自分の生活において財政面で心配がある方は、寄付する気持ちはあっても、お金の面で寄付することが困難になる。
寄付をしない方にほぼ共通するのは、自分のオシャレや、自分へのご褒美に興味関心がある方である。自分磨きや自分への投資に勤しむ方は、他者への共感や思いやりに、なかなか時間をかけられない。自分が一番好き、他人より自分、このような方々からは、なかなか寄付はいただけないものだ。
一方、寄付をしやすい方は、他者に思いを寄せることができる方や、困っている人をほっておけない方が多い。
そして、これは意外かもしれないが、寄付をする方は、一人で何団体へも寄付をする傾向にある。「私はもう○○へ寄付をしてるのよ」などと聞いたら、ファンドレイザーは目を光らせるのだ。
優秀なフェイサーやテレマーケティングのスタッフで技術が高い方であれば、3分でも話せば、その方が寄付をしてくれるか否かが、直観でわかってしまう。
最初の3分で、見込み有りと判断したら、沢山の時間を使うが、寄付はいただけそうにない、と判断したら、時間をかけず、かつ、丁寧にお礼を伝えその場を去ることで、相手に好印象を与え、次回に繋げている。
寄付者が寄付をする際に重視する点に関してデータがあるので、ここに記す。
寄付した方の気持ち
寄付をした方で、寄付してお金を損した、と考える方は、まずいない。
大抵の場合、寄付をしたら、世の中に少しでも役に立てた、と嬉しく気分が良くなるものだ。まして、自分の寄付が人の命を救ったなどと、寄付の効果が分かった場合、その喜びは計り知れないものだろう。
本当に社会に必要なことのためならば、寄付をする側も、そのお金を受け取る側も、ハッピーになれるという、ウィンウィンの関係を築くことができる。なので、寄付をお願いすること、お金を集めることに罪悪感を抱く必要など全くなく、お金集めを通じて社会貢献しているのだと、胸を張ってほしい。
クレーム
クレームを全く受けないファンドレイジングの手法などあるだろうか。私はそのような手法を知らない。
どのような施策であってもクレームはつきものであり、比較的クレームが少ないとされるテレマーケティングや街頭募金、クラウドファンディングであっても、クレームはゼロではない。極論を言えば、クレームを恐れていては、寄付集めはできない。
クレームは、発生数ではなく、発生率とそのクレームの内容が重要である。
100件のアプローチをして1件のクレームを受けた場合と、1万件のアプローチをして9件のクレームを受けた場合を比べると、クレーム内容が同様のものであれば、後者のほうがクレームは発生し難いアプローチだったと評価されるべきである。しかしながら、9件もクレームを発生させてけしからん、と批判する上司がなんと多いことか。
たとえ1%のクレームが発生しても、そのクレームが団体の名誉にかかわるような深刻なものでなければ、残りの99%から受け取れる寄付や感謝に目を向けたほうが賢明だ。クレームを恐れず資金調達し、もしクレームが入った際には、丁寧に対応して大きなクレームになることを防ぐ。
さらには、クレーム履歴をつけて、クレームが発生しやすい施策、スクリプト、担当者、文章など、細かく分析して洗い出すことで、クレームゼロを目指し、改善に改善を積み重ねていく。
最もクレーム率が高い施策ランキングのトップ3は、自宅訪問型キャンペーン、街頭キャンペーン、そして遺贈のパンフレットを送付した時、この3つであることが多い。日本のクレーム率は海外のそれに比べるとだいぶ低く、クレームを受けやすい街頭キャンペーンでも、1%を下回っている現状である。
これは、私が実際に体験したことだが、毎年のように高額の寄付をくれる支援者に、遺贈のパンフレットを送った際、「私に死ねというのか!」と大クレームを頂戴したことがある。すでに何度もお会いしており、パンフレットを郵送で送っても大丈夫だろうという甘い認識から発生した大クレーム。すぐに電話し訪問、直接の謝罪をし、その後に自筆の手紙を送ることで難を逃れたが、苦い失敗経験である。
海外の事情
アメリカ人は日本人の3倍以上寄付をする。
個人の平均寄付額や、直近の1ヵ月で寄付をした人の割合などを比較すれば、日本人の3~5倍、アメリカ人のほうが寄付をする。イギリス人と日本人を比べても、大きく差がある。また、海外の富裕層は、日本の富裕層に比べて、けた違いであり、アメリカなどでは、個人で一度に10億円もの超大口の寄付をする方が結構いるのも事実である。
大口の寄付が見込める方を、国際協力の現場や、難民キャンプの現場に招待し、支援の現場を実感していただくことで、その後の大口寄付に繋げる、といったインスペクションツアー(視察旅行)を実施している海外の団体もある。視察にかかる旅費などを払っても10億円の寄付をいただければ、ROI=10以上という脅威の数字を達成できるからだ。
寄付をする人の割合とその寄付額この2つをとってみても、日本は先進国の中でも寄付をしない国と言えるが、一方で寄付文化がこれから根付く可能性がある国とも言える。
ファンドレイジングの世界でも、欧米の手法がだいぶ先をいっており、日本は一周遅れといったところだろうか。街頭キャンペーンを例に挙げると、欧米は30年ほど前から、この活動をしており、歴史が長い分、今では飽和状態となっていることも多々ある。一方、日本の街頭キャンペーンは10年ほどの歴史しかなく、まだまだこれからの伸び代に期待ができる。
寄付文化が進んでいる海外での成功事例をいち早く入手し、それを日本で実施すれば、成功する可能性は高いことは言うまでもない。そのために海外で開かれるファンドレイジング大会などに出席し、海外のファンドレイザーと情報交換ができる関係作りを行うと良い。
海外の進んだ手法やデータから事例を学び、その中で日本でも使えるものや、日本人に適したアレンジができれば大きな寄付を集めることができる。例えば欧米の人は寄付をしてくれる割合は高いが、長く継続する割合は低い。
また、大学に入る際も、課外活動としてのボランティア活動の経験を問われたりするので、10代や20代といった若者も積極的に寄付やチャリティー活動を行っているため、若者の利用率が高いデジタルでの寄付集めが主流になっている。
一方、日本の寄付者は、一度寄付をすると長く継続してくれる方の割合が高く、若者よりも、年配の方からの寄付が高い。この点からも、日本では若者より年配の方をターゲットにし、長期の継続支援を促す手法を取り入れると良いことが学べる。
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