(本記事は、2020年ノーベル平和賞を受賞した国連世界食糧計画(WFP)の職員である佐藤しもん氏の著書『寄付金、クラウドファンディングの集め方』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)

やってはいけない12のこと

正解
(画像=PIXTA)

今や日本でも5万を超えるNPOがあり、NPO以外の非営利団体を含めると10万以上の法人が存在する。例え薄給でも、社会をより良くしたいと、強い思いを持って働いている方々は、本当に素晴らしく、もっと多くの人が非営利活動に携わることになれば、社会がより良くなるスピードは、加速していくだろうと思う。

非営利活動に従事している方々に、私は強い共感と尊敬を抱いている。

しかし、多くの非営利団体において、民間企業で活躍してきた方や、ビジネス経験がある方が少ないがために一般的には非効率とされる行動を、平然としており、誰もそれを注意しないという大問題があることを指摘させてほしい。

非効率な仕事は、社会を良くするスピードや支援のスピードを遅くしてしまう。非効率であればあるほど、本来の目的である社会貢献からは遠ざかってしまうのだ。

非営利団体で働く方々は、このことを理解し効率的な仕事をしてく必要があるはずだ。

非効率な行動を避け社会をより良くするスピードを加速させるために、非営利活動をしている団体にありがちなNG行動やNG思想をまとめておこう。

◎良い行いしてます感

非営利団体で働く方やボランティアでも活動に関わる方は、この良い行いしてます感をまず捨てることからはじめよう。

多くの第三者や業界以外の人たちから見ると、良い行いしてます感は、無性に鼻につくからだ。

非営利で働いていると、その活動の性質から、素晴らしい仕事ですね、尊い仕事をされていますね、と賛美されることが多くある。そのため、自分のしている行為は素晴らしいと感じてしまうのは理解できるが、私はあなたより良い行いをしてるという態度を初対面で見せつけられたりしたら、またはその匂いが少しでもしたら、その人と仲良くなりたいとは思わないはずだ。

世の中には、非営利団体で働いてなくても様々な形で社会貢献をしている方が多くいる。職業に貴賤なしだ。

国民的人気番組・笑点を作った落語家の立川談志にはひとつの哲学があった。

「全ての人間の行為は不快感からはじまる」

人がボランティアをするのも、ボランティアしないと自分が不快だからしている、という理論に基づいた哲学である。社会に貢献することが、自分にとって快である、裏を返せば、社会貢献しないことは自分にとって不快であるから、ボランティアをするわけだ。

いずれにせよ、ボランティアは自分の為にやっていることであり、その点において談志の哲学は間違っていないだろう。

慈善事業は自分がしたいから、(もしくは、自分がそれをしないと不快だから、)自ら進んでやるものであり、人の為にこんな良いことやってる私って素晴らしいでしょ、という態度は禁物である。

◎ボランティアが資金集めの責任者

日本には5万団体以上のNPOがあるが、その7割以上は財政難であり、資金集めは大きな課題となっている。

その資金集めの責任者は、非常に責任が重く、重要なポジションであることは言うまでもないだろう。非常に小さな団体であれば、ボランティアがファンドレイザーの責任者として活躍することもあるが、ある程度の規模の団体となった場合、必ず資金調達の職員をつけることをお勧めする。

最初は事務局長が兼務しても構わないが、財政的に人を雇える余裕があれば、ファンドレイザーを雇い、財政面での安定化を構築すること。

◎内輪ウケ

これもありがちである。内輪のみでしか盛り上がらないイベント、内輪でのみ熱くなっている議論。他者を寄せ付けない雰囲気。これらはすべて仲間を遠ざける。

この業界に3年もいれば、知らず知らずのうちに業界外の方に、平気で専門用語を使っていたり、業界外の方を自分達とは違う外の人ととして認識し、その声を聞かなかったりしてしまうものである。

業界に染まることなく、常に、一般的にはどうなのか、一般の偏差値50はどこにあるのかを探し、一般の方や支援者の目線で物事を進めていけば、最も多数の方からの共感を得ることができるはずだ。

◎内輪モメ

夢がある者は、他人と争っている暇はない、との名言を残したのは、歴代の米国大統領の中で最も偉大とされるエブラハム・リンカーンだ。

組織内の内輪モメなど、まさに無用の長物、時間の無駄である。

社会を良くしたいという夢を持ち、社会に貢献するために働いているのならば、内輪モメなどしている暇などあろうはずがない。

内に向かって労力や時間を割くのではなく、外に向かって発信し、共感や仲間を集め、お金を集め、明日も見えぬ貧しい方たちを救うのだ。

◎KPIが定まっていない

KPI(Key performance indicator)は、重要業績指標である。

ひとつのプロジェクトを実行する上で、KPIが定まっていないことは、広い海の上で方角もわからず、ただただ舟を走らせるようなもの。

必ずKPIを定め、目標まで今どのあたりにいるのかを把握し、プロジェクト終了後の効果測定にもつなげること。

◎費用対効果を測らない

ROI(Return on Investment)は、投資に対してどれぐらいのリターン(利益や効果)があるかを示す値、費用対効果だ。

ROIは様々な場面で使える値であり、むしろROIを計測できないプロジェクトの方が少ないと言っても良い。

されど、非営利団体の活動においては、使ったお金に対してどれだけの戻りがあるのか、収支計算すらまともに行っていないプロジェクトが実に多い。かけられるお金には限りがあり、だからこそ、定量的な根拠を持って、正しい意思決定をしていく必要があり、そのためにもROI算出は必須である。

◎やればやりっぱなし

先ほどのKPIやROIの話とも重なるが、プロジェクトの企画を起こし実行するが、分析も改善もしない団体が多くある。

イベント参加者が何名だったか、アンケート記入者はそのうち何名だったか、費用対効果はどうだったかなど、そのプロジェクトを実行したことによる結果のデータすら、ろくにとらない。これは、平たく言えば、PDCAサイクルのPとDしか回し切れていない状態だ。

それでは、プロジェクトが成功だったか、失敗だったかが見えず、やりっぱなし状態と言われてもしかたあるまい。

PDCAサイクルを回し、次回はさらに良い結果を出せるように努めることは、ビジネスの世界では常識であり、基本のキであることを覚えておこう。

◎ブラックである

毎日、深夜まで残業し、その残業代もまともにもらえない。

そんな働き方は、労基法に違反しており、体を壊すことに繋がりサステイナブルではない。

ましてや、非営利団体は、社会貢献活動をしている団体なので、社会に対して、こんな不平等があるのですよ、改善していきましょう、と呼びかけている側である。

そんな呼びかけている側に立つ非営利団体が、社会のルールを守れずにいるのであれば、誰がその言葉を信じるのだろうか。

働く環境がブラックかホワイトかは、経営者、トップの判断で決まり、トップの責任である。非営利団体のトップに立つものは、自分の団体が民間に比べて働きやすい環境であるか、法令に準じているか、常に気を配り、働きやすい環境整備を行う責任があるのだ。

◎給料が低すぎる

大好きな仕事だから手取り10万円でもやります。

この考えが、そもそも2つの点において間違いである。まずもって、労基法は遵守しなければならず、最賃を下回るような給料で働かすことはできない点、もうひとつは、社会をより良くするスピードを速めるという点においても逆行しており低すぎる給料は、持続可能(サステイナブル)ではない。

「非営利団体の給料は、民間企業の2割引き」というのが、長らくこの業界で言われてきたことである。世界的にも同様で、それゆえに非営利団体の活動成果が限定されており、社会を良くするスピードを遅くしている。

このことは、インターネットでも視聴できる世界的な講演会・TEDカンファレンスで、アメリカの実業家ダン・パロッタが伝えているので、動画サイトで検索し一度視聴すると良い。

世界に革命が起こり、非営利企業で働く者には、今の2倍の給料を出す世界となったらどうなるか想像してみよう。

多くの優秀な人材が、人道支援や社会貢献活動をする団体に転職し、その結果、資金が潤沢に集まり、活動が大幅に活性化され、世界の貧困や飢餓で苦しむ多くの人々が救われるだろう。

不平等で不条理な世界を変えたい、そう本当に思うのならトップは非営利団体で働く者の給料や環境を改善していくことが必須である。

◎準備不足

参加者全員が手ぶらで会議に参加してしまうなど、民間企業ではありえないことが、非営利団体では度々起きてしまう。誰が議事録をとるのだろう。

お手伝いをしてくれるボランティアの方や支援者を事務所に受け入れる際、机や椅子の用意すらできておらず、慌てて用意したら、お茶を出すのを忘れてしまった。これなどは、まだかわいいものであり、大人数の前で行うプレゼンの資料や準備を本番当日までやっていない。などという散々なこともある。

会議の際、支援者に電話する際、プレゼンする際、全てにおいて準備が必要なのは言うまでもないが、その準備ができていない団体が多い。

広義に解釈すれば、戦略を立てることも分析を行うことも、目標を達成するための準備と言えるが、戦略もなく、分析も行わず、準備不足な団体が少なからずある。

準備なくして、成果なしである。

このことは、神話から学ぶことができる。

アキレス腱で知られるギリシャ神話のアキレスは、不死身の体を持つ一騎当千の強者だ。しかし、彼は、その不死身の体に甘んじることなく、最強の鎧と最強の槍を装備し、準備して戦いに挑むことで連戦連勝を重ねたのだ。

神話から現実に話を戻すと、「木を切る際に8時間を与えられたら、そのうち6時間は斧を研ぐことに使う」と言ったのは、かのリンカーンである。

米国史上最高の大統領と称されるリンカーンでさえ、斧を研ぐという準備に時間を費やし、英雄と呼ばれた不死身のアキレスでさえ、最強の武具を用意するという準備を怠っていなかったのだ。

いわんや凡人の我々においてをや、である。

◎情報発信をしていない

活動の報告などをニュースレターやウェブサイトを通じて行っていない団体が多く見受けられる。寄付をいただいたからには、その寄付の使い道や活動の成果報告をしてしかるべきである。

分かりやすい情報発信をしっかりすることは、認知度の向上、ブランディング、新しい支援者の増加、既存の支援者の退会率低下に繋がることから、ファンドレイジングと広報活動は車の両輪と考えて良い。積極的に情報を発信し、更なる資金調達を目指そう。

◎マーケティング思考がない

支援者や寄付者の目線で物事を考えない団体がなんと多いことか。

その業界で3年も働けば、その業界の専門用語を意識せず使うようになり、感覚も一般の方とは離れてくるのは仕方がないことであるが、寄付額の最大化を目指すファンドレイザーや、団体をまとめるトップにとっては、常に寄付者目線、支援者目線で物事を判断していくことが求められる。

マーケティングのプロになる必要はないが、分析や数値的根拠に基づく戦略など、基本的なマーケティングは覚えておきたい。

寄付金、クラウドファンディングの集め方
佐藤しもん(さとう・しもん)
国際連合世界食糧計画WFP協会マネジャーNPO法人全日本育児普及協会代表理事、会長世界最大の人道支援団体でマネージャーとして勤務するかたわら、子育て支援のNPOを創設する。ファンドレイザーとして、国内では数少ない、10億円の寄付金を集めた実績を持つ。海外のイベントや、内閣府、教育委員会からも依頼を受け、講師として登壇多数。二児の父。

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