(本記事は、2020年ノーベル平和賞を受賞した国連世界食糧計画(WFP)の職員である佐藤しもん氏の著書『寄付金、クラウドファンディングの集め方』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
ヒーローになれる
海外の空港での入国手続きは、待たされるし、スタッフの態度は悪いしネガティブな印象を持っている方も少なくないだろう。多くの皆様同様私も入国手続きは好きではなかった。ある事をきっかけに、嫌ではなくなった。
当時、私は世界的な人道支援団体に勤務しており国際会議出席のためイギリスに向かった。イギリス入国手続きの際、手続きを行う男性のスタッフから職業を聞かれ自分の所属している団体名を伝えた時彼は、Honorable job . You are my hero(素晴らしい仕事だ。あたなは僕のヒーローだ)と言ってくれたのだ。
民間企業に勤めていたときも何度となく海外出張をしてきたが空港の職員から、そのようなことを言われるのは初めてであり、改めて社会貢献活動を職業としてきて良かったと感じたものである。
一昔前は、仕事を選べない時代があったが、経済が成長するにつれて好きな仕事を選べる時代へと変わった。これからはさらに先へと進み、楽しく働けて人のためになり人から称賛される仕事をする時代だろう。
ファンドレイジング
大学や病院、非営利団体のために、資金調達を行う事をファンドレイジングという。ファンドレイジングに従事する人をファンドレイザーと呼び、プロの専門職として欧米では定着している。
日本では一般的にまだ知られていない職業であるが、欧米の国ではファンドレイザーは人気の職業でもあり、平均年収は800万円ほどである。また、世界でもトップレベルのファンドレイザーになると年収で1億円を超える場合もある。
ファンドレイジングは日本語にすると資金調達であり寄付額の最大化を目指すものであるが、単にお金を集めるだけの行為ではない。お金を集めながらその活動を世の中に広げ、人々を巻き込むことで仲間を増やし社会を良くしていく行為なのである。
ファンドレイザーになるには特別な資格は必要ない。人種、性別、年齢、学歴にかかわらず学生でも高齢者でも外国籍の方でもなれる。だれでもファンドレイジングをすることはできるが、ある程度のコツや知識を持っておくとお金は集まりやすい。
ファンドレイジングの基本的な知識やファンドレイザーになる心得を学べる民間の資格があるのでお金集めの活動を本格的にする際は、ファンドレイジングの資格を取っておくことをお勧めしたい。
高級車を宝くじに
だいぶ昔の話になるが、300万円の高級車をプレゼントされた女性がいた。
女性はその高級車を賞品として宝くじを開催することを思いついた。
宝くじはすぐに完売。1,500万円の売り上げとなったが、その全額は寄付にまわされた。その15年後に長年にわたる貧しい人々への奉仕活動が認められノーベル平和賞を授与されることになる女性の名前は「マザー・テレサ」である。
高級車をプレゼントされたとき、その高級車を300万円で売って寄付をするという手もあったがマザー・テレサは、宝くじを企画することで、その3倍に当たる1,500万円の寄付を集めたのだ。そして金額の面だけではなく、このファンドレイジングは、後世に語られ続けるほどの広報効果を生んだことを強調しておきたい。
この「マザー・テレサのチャリティー宝くじ」なるファンドレイジングは彼女の死後何十年経った今でも彼女の残した偉業のひとつとして、歴史に刻まれ人々にインパクトを与え続けているのだ。
繰り返しになるがファンドレイジングはただお金を集めるだけではなく、人々にインパクトを与え社会に貢献していくものである。マザー・テレサの事例はこのことを証明していると言えるだろう。
ファンドレイザーに向いている人
戦国武将で最も有名な武将を一人挙げよ、と言われたら「織田信長」と答える方が多いだろう。冷酷無比な切り捨ては現代社会におけるパワハラの極みなどとネガティブな印象が先行している節はあるが、彼ほど最速で天下統一まで迫った武将は他にはいない。ここでは、なぜそんな功績を短期間で残せたのか?この一点にだけ着目してみようと思う。
彼のエピソードで、三間半の槍、というものがある。
当時の槍の長さは二間半が一般的で、この二間半の長さが戦では最も強いとされていた。しかし彼は、槍は長い方が有利だと槍の長さにこだわり続けた。何度も何度も長さを調整し実験しては失敗の連続、その度うつけ者だとバカにされる。しかし、決してあきらめない。
一対一の戦いでは、二間半の短い槍が勝つが、団体で戦ったらどうか、槍を突くのではなく振りかざしてみたらどうか。研究に研究を重ねそしてついに大勢でチームとなって固まり突くのではなく振り下ろして攻撃する、というやり方であれば相手がいかに槍術に優れていたとしても長い槍が勝てることを実証する。
「槍は突いて攻撃する」 「勝負は1対1で行う」これらの概念をまるきり変えてしまったのだ。
ここに見られるのは、とことんまでこだわる執念ともいえる情熱、やり抜く力である。
どの仕事にも当てはまるだろうがファンドレイジングにもこのやり抜く力情熱が大切でありこれを持っている方はファンドレイザーとしても成功できる。
ファンドレイジングの仕事は民間企業に例えると営業職やマーケティング職に近いので、営業経験がある方やマーケティング部で働いていた経験がある方はファンドレイザーとして成功しやすいと言える。また、日本より10年ほど先をいく欧米のファンドレイジングを理解するために海外のファンドレイザーとの情報交換を行える語学力があれば有利である。
では、マーケティングを理解しコミュニケーション力があり、英語を話すことができればファンドレイザーとして成功できるかと言えば必ずしもそうではない。
ファンドレイザーはお金を集めることのみが使命ではなく、共感や仲間を増やすことを使命としているので、社会を良くしたいという熱い気持ちや強い信念や情熱が大切であることは重ねて伝えておきたい。
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