(本記事は、2020年ノーベル平和賞を受賞した国連世界食糧計画(WFP)の職員である佐藤しもん氏の著書『寄付金、クラウドファンディングの集め方』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
1,000円 vs 100万円
設定金額、訴求金額の話をここで少し深堀しておく。
これは、クラウドファンディングに限らずの話になるが、お金を集める上で「沢山の方から少額をいただく方が良いのか、それとも少数の方に高額をいただく方が良いのか」という質問をよくいただく。ここでお金集めの原理原則である「お金はあるところからいただく」を思い出してほしい。
集まる総額でいうと、沢山の方から少額よりも、少人数から高額をいただくほうが効率的で多くのお金が集まりやすい。1,000円の寄付を多くの人からいただくより、100万円の寄付を一人からいただいたほうが集まる金額としては多く、また、リソースもかからずに済む。
シンプルな例をあげれば、1,000円の寄付を依頼した場合は1,000人から寄付をいただいてようやく100万円に到達する。それよりも、1人の方から100万円をドンといただいたほうがはるかに楽である。
「なぜ、透明な募金箱に1万円をあらかじめ入れておくのか?」の問に対する答えもここにある。
個人で高額を寄付していただいた方には大口寄付者として十分なリソースをかけて特別な待遇をし、将来のさらなる支援につなげていく。
少額の寄付や今回の事例でいうところの、1,000円といった寄付をしていただける方を多く集めた場合のメリットも、もちろんある。多数の方たちの名前や住所、メールアドレスなどの情報を手に入れることができ、その情報をリストとして持って置き、将来的な寄付のお願いや定期寄付につなげることができるのは大きなメリットである。
リストの数が1万近くたまれば、その中で定期寄付をしてくれる方の人数がある程度は把握でき、将来の寄付額が想定しやすくなる。一方大口寄付者1人だけの場合だと、その方が寄付をしてくれるか否かによって寄付額が大幅にぶれてしまい、将来の寄付額が想定しにくいというのがデメリットである。
その場の寄付額か将来の寄付想定のしやすさか、どれだけリソースをさけるかこれらを考慮した上で、多数の少額か少数の高額か、または両方をバランスよく狙うかは戦略を練った上で行動すること。
助成金の活用
民間企業で働いている方や専業主婦の方にとって、助成金という言葉はあまりなじみがないだろう。しかし、サラリーマンであっても主婦であっても、助成金を受けて何かしらの活動をすることができ、クラウドファンディングと併用して助成金をうまく活用することもできる。
「サラリーマンをしながら土日を使って地域のゴミ拾いをしたい」 「大学生だけど学習塾に通えない子どもを対象に無料で勉強を教えたい」
これらは社会的に意義がある活動なので助成金への申請が通りやすく、助成金を使って活動をすれば活動した分、お金がいただける。助成金は人件費にも適用されるものが多くあり、社会貢献活動をした時間だけ人件費や謝金としてお金を得ることができる。
ボランティアとして無償で活動をすることも大変素晴らしいが、ボランティアでは長く続けられない活動も人件費や謝金として、いくらかのお金が入れば、無償でやるより長く続けられる可能性が高まり持続可能な活動となるだろう。
また活動する人件費のみならず、活動に必要な道具や交通費なども助成金でカバーできることが多い。地域のゴミ拾い活動で助成金を得た場合、その活動をした際の人件費ゴミ拾いに必要なトングなどの道具を購入する費用、活動する際に着る作業服代金、活動場所までの交通費、これらすべてをカバーできる助成金もあるのだ。
日本には助成金を出す基金や団体が数多く存在し、助成金の中には法人格を持っていなくても申請ができ、書類審査のみで助成金を受け取ることも可能な助成金もある。
例えばある助成金は、法人格は問わず2人以上の仲間で活動をする任意団体やサークルなども助成の対象としているし、他にも個人の研究に対して助成をする基金は沢山ある。
また、助成金は、借りるものではなく活動資金として提供されるものなので基本的に返金する必要はない。
ネットで助成金、活動、募集、などと検索すれば、助成を行っている基金や、助成金検索サイトが多く出てくる。それらを見れば分かるが、日本全国で毎週のように助成金の公募がされている。
クラウドファンディングの活動と合わせて、助成金を申請するのも良いし、これから何かしらの活動をしたいが、最初のお金がないという個人の方で法人格を持っていない仲間内の集まり、立ち上げたばかりの小規模な団体は、最初の資金を助成金で賄うことを検討しても良いだろう。
助成金を受けるには
助成が受けられるか否かは基本的に書類審査によって決まる。
50万円以上の助成金になると書類審査のみではなく、書類審査に加えて面接審査が含まれることが多いが、30万円以下の助成金であれば大抵は書類審査のみの一発勝負である。
また、金額の大小にかかわらず、申請書の提出は必須であることから、助成金の獲得は申請書を書くことから始まる。
まとめると、助成金の申請は分かりやすく活動内容を丁寧に説明した申請書作りをすることが最初の作業であり、最も重要な作業でもある。
私事になるが、数年間日本で最大級の助成金を扱っている基金において、その助成先と助成額を決める審査委員をしていたことがある。一団体に年間1、000万円という高額を複数年連続で助成するもので、金額面で日本最大級というインパクトから応募団体が多く、審査は困難を極めた。
この審査の経験と自身でもいくつかの助成金を受けてきた経験を基に、申請書を書く際の注意点と助成金を手に入れるコツを紹介する。
◎活動内容が助成の趣旨とあっているか
これは意外と間違えてしまう方がいるのだが、いくら素晴らしい活動であって書類も完璧に用意したとしても、助成の趣旨と申請した活動内容が異なっているものはNGである。
助成する側が、国内の子ども支援に繋がる活動に対して助成を行う、と言っているのに海外の環境汚染に対して活動を行いたいと熱心に訴えたところで助成を受けられるはずがないのは、容易に想像できるだろう。
まずは応募する助成の趣旨と条件をきちんと理解し、自身の活動と合致する助成金を探し出して応募すること。
◎不十分な申請書では通らない
やっている活動の内容もしくはこれからしたい活動の内容は非常によさそうなのに、説明や言葉が足りず審査員側に伝わらないものが多く見受けられる。
申請書に活動内容が2行しかかかれていないものなどはまず通らないと考えてよい。特に申請書の枚数制限がない場合は、あらゆる情報を書類に書き込むことが大切である。数行しか活動内容を書いていない不親切で不十分な申請書より、5ページにもわたって詳しく表やグラフなどを使い、丁寧に活動内容を申請書に書き込んでいる団体に審査員は情熱を感じるものだ。
とにかく沢山の角度から自分の活動を説明し、なぜこの活動が必要なのか、この活動により世の中がどのように良くなるのか、できる限り詳しく書くこと。言わずもがな、審査員は人間であり情熱は申請書からも伝わって届く。
同じ言葉や説明をくどくどと何度もリピートして行数を増やすようなことはしてはいけないが、あらゆる情報を素人の高校生がその申請書を読んでもわかるぐらい丁寧に書くこと。情報が多すぎて落とされることはないので心配いらない。
助成金の申請書はまさに大は小を兼ねるのだ。
◎過去の授与団体や合否確率を調べる
その助成金が過去においてどの団体を助成先として選んだのか?その選ばれた団体の活動内容は何であったのか?最低でもこれぐらいの情報は調べておくべきである。
大抵の場合、選ばれた団体の活動内容や申請書がウェブサイトに掲載されていたりするものだ。それらを見れば、審査員がどのような活動を選びたいか傾向がわかってくるし、申請書を書く際にも、アピールするポイントを間違えずに済む。
◎どの額を狙うか
30万円以上の助成金を狙うことをお勧めする。
もちろん5万円の助成金であっても活動資金の足しになることもあるが、きちんとした丁寧な申請書を書くだけで数時間はかかるので、5万円という小さな額だと使った時間の割に入ってくる金額が少なく、結果的に労力ばかりがかかってしまう可能性があるからだ。
◎助成される確率
非常にざっくりとした数字になるが、100万円を超える助成金には当然多くの団体が手を上げてくるので、応募した団体数に対して、10%ほどしか、助成金を受けることはできない。
例えると、基金側が、5団体に助成すると募集したところ、50団体から応募が殺到している状態であり、45団体が書類や面接審査で落とされて、助成金を受けずに終わるわけだ。
しかし、50万円以下の助成金になると、競合が少なく、平均するとだいたい25%選ばれると考えてよい。
この25%の確率を、あなたならどうみるか。
25%しか選ばれないとあきらめるか?
あるいは25%ということは4回に1回は受かるから、この助成と似た倍率の助成をあと3つ探し出し、合計4つの全てに応募すれば数字の上ではどれか1つは受かる、と考えるか。
後者のように直観で考える方はお金集めのプロであるファンドレイザーになることをお勧めする。どうすれば成功できるかを前向きに考えることができているからだ。
話を元に戻すが、受かる確率より落ちる確率のほうが高いのだから、沢山の助成金に応募しておき決して過度な期待をしないこと。よしんば、応募した助成金全てに落選しようが、助成金を申請する前に戻ったと考えればどうってことはない。他の助成金を探し出し再チャンレジすればよいのだ。
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