(本記事は、越川慎司氏の著書『新時代を生き抜くリーダーの教科書』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

セルフマネジメント力を育てる

リモートワーク,メリット,デメリット
(画像=LStockStudio/Shutterstock.com)

●在宅勤務でサボる社員の94%は職場でもサボる

「社員がサボっているのではないか」という質問が多数あります。確かに社員の14%は在宅勤務中にサボっています。しかし、そのうち94%は出社していてもサボっていたのです(筆者が経営するコンサルティング会社クロスリバーの独自調査)。

問題は働く場所ではなく、職責、適切な目標設定と評価制度です。リーダーは細かく管理することを避け、成長の機会を提供するタスクを与え、正しく評価する義務があります。メンバーに重要なプロジェクトを任せ、主要な組織プロセスに関与させることで、メンバーの貢献を評価し、より強固な信頼関係を築くことができます。そして、メンバーは自分を律するセルフマネジメント力を磨かなければいけません。

●衝動性vsセルフマネジメント

セルフマネジメントを理解するには、その反対の概念である「衝動性」を知っておくと良いです。衝動性とは、例えばダイエットをしている人が目の前のお菓子についつい手を伸ばしてしまうとか、明日早く起きなければいけないとわかっているのにゲームで夜ふかしをしてしまうなど、後で得られる結果よりも、即時的な目の前の結果を優先してしまうことです。

セルフマネジメントとは、この衝動性に抗い、後で得られる結果(体重が減るや翌日ちゃんと起きられるなど)を選択する能力のことです。これがあれば、自分をコントロールできるので、細かく管理しなくても成果を出し続けることができます。

上司の目の前でスマホを使いゲームを始めれば、ゲームの楽しさを上回る嫌な出来事が生じてしまうでしょう。会社にいればテレビや漫画等などの娯楽行為を誘発する刺激も少ないはずです。出勤時間にせよ、仕事への取り組み方にせよ、職場の環境は衝動性に抗うという意味でとても効率の良い仕組みだと思います。

ところが在宅で働くようになると、この様相が一変してしまうわけです。職場からの強制力が弱くなり、様々な衝動性に自分の工夫で抗う必要があります。よって、セルフマネジメントが大切になるのです。

●3つの方法で衝動性と戦う

今までの職場であれば適切な行動でポジティブな反応を得たり、不適切な行動でネガティブな反応を得たりしていたはずです。相手は上司であったり同僚であったりお客様であったりと、「人同士の反応」によって、人の行動は適切な範囲に収まるようになっています。ところが、仕事環境が自宅になってしまうと、こういった人同士の反応が今までよりも圧倒的に少なくなってしまいます。

一生懸命に仕事をしても、声をかけてくれる人がいないかもしれません。寝坊をして仕事始めが遅くなっても、怒る人がいないかもしれません。ちょっとした雑談をする相手が近くにいないかもしれません。様々な行動に対し、それまであったメリットやデメリットがなくなってしまうのです。その難しい状況下で自分を律する力を身につけさせるための施策は、以下の3つです。

(1)「行動と記録」

改善すべき具体的な行動を定義し、その行動に関する記録を取ることです。ダイエットであれば、「食事のメモを取る」という行動を決定した上で、その効果を検証するために体重を記録したりすることでしょう。変えるべき具体的な行動の決定がとても大切です。セルフマネジメントでは行動を変えるための様々な工夫をしますが、どの行動を変えるかがはっきりしていなければ工夫のしようがありません。

また記録を取らなければ、その工夫の効果を検証することができません。行動と記録の枠組みは、セルフマネジメントにおける基本中の基本です。ただし、この記録を毎日のように提出させるのは避けてください。著しく効率が落ちますし、記録をごまかすメンバーも出てきます。業務進捗が見える仕組みを作れば細かい報告は不要です。

(2)「自己強化」

行動は何らかのメリット(良いことが生じたり嫌なことを避けられたり)が伴えば、くり返し習慣になっていきます。反対に、行動に何らかのデメリットが伴うと、行動することを「積極的に避ける」ようになります。あるいは、行動にメリットもデメリットも伴わないのであれば、その行動が定着することはありません。このような状況では、自分で工夫して適切な行動には何らかのメリットが生じるようにしていく必要があります。これを「自己強化」と言います。

ちょっとした工夫から導入してみると良いでしょう。例えば、仕事中にコーヒーを飲む習慣がある方なら、まず1時間仕事をやったらコーヒーをいれても良い、といった自分への約束事を作ってみても良いです。そうすれば、1時間の仕事に対して「コーヒーという報酬」が生じるようになります。

あるいは、仕事の中間成果物をビジネスチャットに投稿して、メンバーの反応をみるのも良いでしょう。あるいはスケジュール上の締め切りではなく、仕事を前倒しするために、ビジネスチャットで「来週水曜までに資料を仕上げます」と宣言してみるのも良いかもしれません。セルフマネジメントというと、自分で自分の行動をコントロールするかのようなイメージがあるかもしれません。しかし、前述のように他人をうまく巻き込んでいくことも立派なセルフマネジメントです。他者からの反応が乏しくなるテレワークだからこそ、うまく他者の反応がわかるような仕組み作りが必要です。

(3)「自己評価」

自己評価とは、何か改善したいことがあった時、その活動についてのパフォーマンス目標を設定し、実際に取り組んだ後にその基準と比較してどうだったかを自分で評価することです。自己評価の結果、事前に設定した基準に達しているのであれば、十分なパフォーマンスが発揮できたことを自覚できます。基準に到達できるよう、行動自体や行動を左右する環境要因等を調整することができたかを振り返ります。もし何か工夫した結果、以前よりも基準に近づいているのだとすれば、その改善の方向性は妥当です。

自己評価の枠組みにおいては、このように自身の活動をどのように進歩させたいのかという意図を反映したものであるべきで、意図に沿った妥当なレベルのハードルとして、リーダーがパフォーマンス目標を設定すべきです。この枠組みをうまく使いこなせれば、メンバーにとってちょうど良いペースで前進することができます。

新時代を生き抜くリーダーの教科書
越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表取締役社長。国内通信会社および外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2015年にマイクロソフトに入社。業務執行役員として最高品質責任者、PowerPointやMicrosoft365などの事業本部長を務める。2017年に働き方改革のコンサルティング会社であるクロスリバーを設立。ITをフル活用してメンバー全員が週休3日を3年以上継続。延べ605社に対して、無駄な時間を削減し社員の働きがいを高めながら利益を上げていく「儲け方改革」の実行を支援。メディア出演や講演は年間200件以上。著書に『超・時短術』(日経BP)、『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)、『ビジネスチャット時短革命』(インプレス)、『働く時間は短くして、最高の成果を出し続ける方法』(日本実業出版社)などがある。定額制オンライントレーニングサービス「Smart Boading」にて特別講座提供中。

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