(本記事は、越川慎司氏の著書『新時代を生き抜くリーダーの教科書』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

「最近どう?」はNGワード

部下ノート,望月禎彦,高橋恭介
(画像=fizkes/Shutterstock.com)

クロスリバー(筆者が経営するコンサルティング会社)では29社から業務委託を受け、総計16.3人の行動変容と儲け方改革を支援しています。また、605社に対して個別に対応し、18業種27部署のリーダーたちから多種多様な課題を伺い解決してきました。それぞれの企業でビジネスモデルや企業文化、環境が異なります。したがって「これをやれば大丈夫」という一般的なルールがあるわけではありません。どの企業にも通用する成功ルールなどないと断言できます。

しかし、大量で多様なデータがあれば、その法則をもとに失敗する確率を下げることはできます。そこで、我々のような第三者が客観的に社員の行動や成果を見つめ、数字やデータを持ち込んで、正しい振り返りができるのです。

そのひとつのデータ収集として行ったのが「部下が嫌がる上司の声かけ」です。空気を読んで相手との距離感を確認しながら慎重に発言する日本人にとっては、関係性を築く上で最初の一言がとても大切であることが2.3万人の調査でわかりました。その調査では「あなたのモチベーションを下げる上司からの声かけは何ですか?」という設問に対して記入形式で回答してもらいました。

もちろん、セクハラやパワハラに当たるような発言が嫌なことは当然です。「お前はいつまでも結婚しなくて大丈夫なのか?」とか、「俺の言うことを聞かないとわかってるだろうな!」という発言は論外です。そういったハラスメントの発言を除いた上で、嫌がる声かけを聞いてみました。回答結果は、AIやクロスリバーの専門家によって分析を行いました。

その答えがあまりにも意外でした。このアンケート結果は大きな気づきとなり、その後のリーダーシップ研修でも役立つことになったのです。またこのアンケート結果から、部下との関係構築において本質的な課題を見出すことができました。

アンケート結果の第3位は「ダラダラやってない?」でした。

「否定から入らないでほしい」「決めつけないで」というコメントが寄せられました。そもそも性悪説でメンバーを上から目線で見ること自体がNGです。また、「ダラダラ」と言われると、無駄に労働時間が長いことを指摘されているようにも思えます。

リーダーとメンバーの関係、上下の関係、つまり、指示を出すと受けるの関係では成果を出し続けることが難しくなります。お互いの距離感を縮めて、一緒に考え一緒に行動していくことが求められます。ですから、リーダーからの「上から目線」「頭ごなし」はNGなのです。また、「ダラダラ」「でも」「どうしても」……といった「ダ行」で会話を始めるのもNGです。ダ行の音が相手を不快にさせてしまいます。

私は前職のマイクロソフト時代に500件を超える謝罪訪問をしましたが、その際にダ行で話し始めることを極力避けていました。「でも」「どうしても」といった言葉は言い訳にも聞こえますし、音として相手の感情を不快にさせてしまうことに気づいたからです。

ダ行を避けたら相手の怒りが収まるということではありませんが、マイナス要素を減らすことはできます。ダ行を避けた謝罪訪問によって修羅場を乗り越え、結果的に30 %以上の顧客が謝罪訪問後に追加契約をしてくれました。ダ行を避けることは日常のコミュニケーションでも活かすことができます。

第2位は「最近、忙しい?」でした。

「勤務票見ればわかるでしょ」「忙しいとは言いづらい」というコメントが続出しました。労働基準法が改正され、会社は法令遵守のために労働時間を減らすことにピリピリしています。リーダーはメンバーと1対1の会話をする時は、事前に勤務票を見て直近の勤務時間や休日出勤の様子を確認しておきましょう。

そして、驚くべき第1位は「最近、どう?」です。

「適当な感じがする」「私に関心を持ってない感じがする」という意見でした。これは私にとってもすごく衝撃でした。「最近どう?」は英語でいう「How are you ?」の意味で「元気ですか?」というニュアンスの挨拶です。実際に私もメンバーたちに「最近どう?」と話しかけていました。

しかし、メンバーからするとこの声かけには恐怖や失望を感じるそうです。リーダーから「最近どう?」と聞かれると、「あれ、えーとプライベートのことかな、それとも来週の資料のことかな……」と思いを巡らせてしまうそうです。様々なことを想像して、とっさに答えが出ないそうです。

そして冷静になって考えると、「あっ!この上司は適当に私に話しかけているな」と気づくのです。つまり「自分に興味・関心を持っていないな」と感じてしまうのです。これが関係構築の本質です。メンバーは自分に関心を持ってもらえるかどうかが心を開く上で大切な第一歩になります。メンバーに「どうせ私なんて……」と思わせるとモチベーションが上がらず、自主的に行動することはないと後の調査でわかりました。

では、正しい問いかけは何なのでしょうか。追加調査と実証実験でわかったことは、正しい言語化がポイントとなることです。「最近どう?」の前に言葉を追加することによって相手のモチベーションを下げないことが判明しました。

例えば、「最近どう?」と言うだけではなく、「先週の土日はどうだった?」「来週の経営会議の資料はどんな感じ?」と目的語をしっかり言葉に出して質問することです。メンバーに具体的に聞くことによって、相手は無駄な妄想をする必要がなくなります。

また、リーダーが先に腹を割って話すと、メンバーも腹を割って話してくれることもわかりました。例えば「私は先週末にサッカーを観に行ったのだけど、君はどうだった?」と聞いてあげるのです。自分のことを話してから相手に質問すると、返答が返ってくる可能性が1.4倍以上に上がることが実証実験でわかりました。

リーダーにとっては面倒なことかもしれません。しかし、何について聞いているのかその対象を明確にすること、そして相手に関心を持ち自己開示してから質問すること、この2つを気に留めておくだけで不要な誤解を避けることができます。

新時代を生き抜くリーダーの教科書
越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表取締役社長。国内通信会社および外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2015年にマイクロソフトに入社。業務執行役員として最高品質責任者、PowerPointやMicrosoft365などの事業本部長を務める。2017年に働き方改革のコンサルティング会社であるクロスリバーを設立。ITをフル活用してメンバー全員が週休3日を3年以上継続。延べ605社に対して、無駄な時間を削減し社員の働きがいを高めながら利益を上げていく「儲け方改革」の実行を支援。メディア出演や講演は年間200件以上。著書に『超・時短術』(日経BP)、『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)、『ビジネスチャット時短革命』(インプレス)、『働く時間は短くして、最高の成果を出し続ける方法』(日本実業出版社)などがある。定額制オンライントレーニングサービス「Smart Boading」にて特別講座提供中。

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