(本記事は、越川慎司氏の著書『新時代を生き抜くリーダーの教科書』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)
リーダーが持つべき6つのマインドセット
●1 フェイルファースト
変化の激しい時代に成功するリーダーは、俯瞰的な視点で大局を見据え、曖昧な状況の中で自らの責任で決断をします。もちろん、セキュリティーやコンプライアンスの遵守は必須です。しかし、その守りだけの意思決定だけでは世の中の変化に適切に対応することができません。
個人プレイヤーとして優秀な人が優秀なリーダーになるとは限りません。優秀な人は意外と保守的で、挑戦しないことが多いです。特に、高学歴でIQの高いエリートリーダーには弱点があります。エリートは学生の頃から優秀で、褒められて育ってきていることが多いものです。努力ではなく結果を褒められて育った彼らは、失点のリスクとなる難しい課題にチャレンジしなくなる、という現象が起こります。
例えば100点をとった子に「100点とって偉いね」と褒めていると、その子は期待に応えようと100点をとることばかり考えるようになるのと同じです。いつも褒められている人は、失敗することによる不安のほうが大きいそうです。そういった子は、100点をとっていないと嘘をついたり隠したりするそうです。
これまでの(ジョブ型とは正反対の)メンバーシップ型の評価制度では、エリートは組織のトップに就くことが多く、失敗しないようなタスクばかり選びがちです。すると、そこでは誰も失敗しませんからますます失敗がしにくい空気になり、新しいことはやりにくくなります。
仮に失敗してしまったら、ウソをついて隠そうとする人も出てくるでしょう。「前例に従う」とか「前例にないからやらない」というのは、エリートにとっては保険であり、挑戦をしないための言い訳なのです。これは、失敗に対して寛容でない空気が日本に充満している理由のひとつだと思われます。
理想のリーダーは不確実で曖昧な状況の中でも、己の信念と直感を信じて前へ進みます。そして、良かったかどうかをしっかりと振り返ります。変化の激しい時代を生き抜くには、デメリットばかりにフォーカスしていては、退化することになります。新たな挑戦には必ずデメリットがあることを理解して、進む・振り返る・進むをくり返していかないといけません。
しかし、デメリットよりもメリットが大きければその挑戦をすべきなのです。早期の失敗はリカバリーが可能で、早く失敗することが人と組織を成長させます。失敗から学ぶことが、一番の経験になるのです。
高度成長期のように、どうしたら成功するかという方程式がある時は、そこから逸脱しないやり方が賢い方法だったでしょう。しかし、時間や人の労働資源を投下すれば、それに比例して成果が出ることは少なくなってきています。小さな失敗から小さな成功へ、そして小さな成功から大きな成功へ。苦労と経験を積み重ねていくことが必要です。
試行錯誤をくり返しながら、小さな成功体験を重ねていくことで、組織が成長していくのです。「早く失敗すれば早く学ぶことができる(フェイルファースト)」と肝に銘じて、すぐに実行をする癖をつけましょう。
●2 レジリエンス(復元力)
『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著池村千秋訳東洋経済新報社)では、100年人生で蓄えるべき資産は(1)生産性(2)活力(3)変身(変化対応力)と提言しています。変化への対応力が生き抜くための能力として必要ですが、その変化への対応力で重要なのがレジリエンスです。
このレジリエンスは、ゴムのように引っ張られてもすぐに戻るという自己復元力という意味です。今後さらに激しくなる変化に対して、予想以上のストレスがリーダーに襲いかかるでしょう。しかし、そういった変化によってダメージを受けることがあったとしても、頭を切り替えて次へと向かう気構えが必要になります。
働く上で完全にストレスから解放されることは不可能です。ですから、自然災害の対策と同様にインパクトを少なくするように準備しておくのです。何かストレスがあっても精神的なインパクトを和らげ、もとに戻れる方法を用意しておくのです。いわゆる「逃げ」を作っておきます。トラブル対応後のフルーツパフェや没頭できる趣味、汗をかくスポーツなどによって、ストレスを緩和しレジリエンスが高まるわけです。
医学的にも、ダラダラと週末を過ごすより思いっきり遊んでリフレッシュしたほうが、月曜日の精神衛生状態は高まります。また、読書などによって知識を増やすこと、家族との食事など平穏な安堵した日々を過ごすことによっても、レジリエンスを高めることができます。
今後様々なチャンレジをする上で、挫折することもあるでしょう。苦境に立たされても、それを回避できる気構えを持てると強いリーダーになれます。
●3 ミクロとマクロの視点を持つ
顧客の複雑な課題を解決するためには、ひとつの組織が対応するのではなく、組織横断的なプロジェクトによって解決するというプロジェクトワークが増えていきます。
また、テレワークなどの多様な働き方により、物理的にも離れているメンバーを束ねることも出てきます。その中で課題の特色を見つめ発生原因をたどること、同時にその課題を抱える顧客の取り巻く環境全体を見渡して解決策を見つけ出すことが求められます。
このように発生原因を見つけるミクロの視点と、プロジェクトメンバーを束ねるためのマクロの視点が共に必要になってきます。先頭を切って後から部下について来させることでもなく、最後尾からお尻を鞭で叩いて走らせることでもありません。
集団の一歩高いところから全体を見渡して、メンバーのエネルギーを高めながら正しい方向へ導くことが求められています。この高い視点と広い視野、そして様々な視座を持つことが新時代のリーダーなのです。
組織としての一体感があるというのは我々日本人の特性ではありますが、一方で同調圧力や過剰な忖度、閉鎖性といったリスクも抱えています。ボーダレスなビジネス環境で、国内外の競合相手と戦っていくには一体感だけでは不十分です。階層組織から一歩抜け出し、企業と個人が雇用といった従属関係にあるのではなく、パートナーとしてのメンバーがお互いのベネフィット(利益)を高めていくことが求められます。
つまり、企業と個人は共存関係になっていくのです。その関係性の中で、真ん中に位置するリーダーは上からの指示を下に伝える橋渡し役ではなく、会社の方針やビジョンを深く理解した「マクロの視点」が求められます。
今後、少子高齢化が進み消費行動が大きく変化していく中で、稼働時間で報酬を得るというスタイルは廃れていきます。少ない人員と労働時間によって成果を出し続けることができるかということが焦点になり、現場のアイディアと行動が成功のカギになります。
企業ブランドと機能で売っていたモノ消費時代は終わり、機能が生み出す価値や体験に対してお金を払うというコト消費へと変わっています。このコト消費時代にイノベーションの起点となるのは、研究開発室や役員室ではなく、顧客や市場に近い現場のメンバーたちとなるわけです。メンバー各人の強みと弱みを理解し、組み合わせることで効率を高めます。「1+1=5」や「6」にするために、「ミクロの視点」でメンバー各人と向き合うことが必要です。
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