(本記事は、越川慎司氏の著書『新時代を生き抜くリーダーの教科書』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

リーダーが持つべき6つのマインドセット

リーダーシップ
(画像=Leckamon/Shutterstock.com)

●4 順応ではなく適応を目指す

求められるのは順応ではなく適応です。

順応とは「うまく合うこと」という意味です。しかし、外部の環境変化に合わせて考え方や行動を変えていくという意味では同じですが、適応は「自分から変えること」であるのに対して、順応は「自然に変わる」ことです。適応力がある人材は状況に応じて柔軟に行動できるので、どんな環境でも高いパフォーマンスを発揮し、その時々における最善の判断をしていきます。

このような環境変化の中で、会社が生き残り、そしてメンバーとリーダーが幸せに生き残るには、これまでの成功体験を捨て新たな得意分野を見出していく必要があります。外部の変化を感じ取り、自らを磨き続けないと錆びてしまいます。

また、これまでの成功パターンがすぐに通用しなくなるビジネス環境に適応するには、行動を進化させる必要があります。仮説をもとに小規模な行動実験を行い、振り返りによって進化していくことが求められます。例えば、相手に一発で「YES」と言わせる資料を作成する能力を身につけたり、既存顧客の満足度を高めるために失敗事例を紹介して信頼を勝ち得たり、行動をアップデートすることで成果を出し続けることができます。

個々のメンバーにこういった行動実験をさせるには、当事者意識を持たせることが大切です。職責をもとにミッションと自由を与え、自主的に考えて行動させます。言われたことをするのでは変化に適応できません。市場の変化を感じやすい現場のメンバーが自主的に行動する仕組みを作らないといけないのです。

●5 異質な要素を組み合わせる

経済のグローバル化も影響したのか、残念ながら新型コロナウイルスが世界に蔓延してしまいました。しかし、今後もグローバル化は進みます。特に日本ではテレワークが爆発的に普及したため、会社に出勤しなくても仕事ができることを実感した社員や経営者は多かったようです。場所にとらわれることなく仕事ができる、ということがわかれば人手不足を他国の人で埋めることもできます。

AI(人工知能)の進展によって自動翻訳機能の精度が高まることで、日本人が苦手とする外国語のハードルは低くなっていきます。ですから、国内の仕事を国外の人に委託したり、国外の仕事を国内で行うといった働き方が浸透していきます。

これからは、どこにいるかわからないようなメンバーが、仮想的な空間の中で一緒に仕事をするようになります。このようなボーダレスな世界が拡大していく中で、様々な能力を持った人たちが結集して仮想空間の中で共同作業をするような仕事のスタイルに変わっていきます。

そうなると、リーダーとしては国籍や性別、価値観や能力の異なる人たちをまとめあげる必要が出てきます。少なくとも、民族や言語、考え方などの同質的な人たちだけでは顧客の複雑な課題を解決できないことは明確になります。そこでリーダーとして避けなければいけないのは、「異質=悪」という考えです。

不確実性の高い社会になり、顧客や市場のニーズは複雑化していきます。テクノロジーの進展によって、異業種の参入も進むでしょう。そこでビジネスを成り立たせるためには、様々なバックグラウンドや能力を持つ異質な人たちをより多く集め、その強みと弱みを組み合わせることによって顧客の課題をスピーディーに解決していくことです。つまり、これまでの同質のメンバー同士が仲良しクラブを作るだけではビジネスに貢献できなくなります。

もちろん、日本人だけのメンバーで気合や努力で難局を乗り越えることも必要でしょう。しかし、努力といったプロセスだけでなく、成果といったアウトプットを評価する社会に変わっていきますから、どうやったら成果が出せるかという考えに変わらざるをえません。ビジネスが成り立たなければ、組織として存続をすることができず結果として仲良しクラブが崩壊することになります。

ダイバーシティー(多様性)とは女性役員の比率を上げることではなく、「異質を避けないこと」です。イノベーションは技術革新と訳されてしまいましたが、本来は「新結合」という意味です。異なるバックグラウンドを持っている人たちがつながって、新しいアイディアを生み出すことがイノベーションです。

リーダーに求められるのは「異質を避けない」という心構えです。これからはひとつの組み合わせでしか課題が解決できなくなってきますので、むしろ異質を歓迎するマインドセットが必要になってきます。イノベーションを生み出すためには、異質なメンバーの集合体から出た多様なアイディアを組み合わせる必要があります。

私は前職のマイクロソフトを含めグローバル企業で14年以上働きました。グローバル企業では異質を避けないという考え方が組織に定着していました。確かに、人種差別的な見方をする人はゼロではありませんでしたが、会社全体としては多様性を認め異質を組み合わせることが風土として根付いていました。このような風土が根付いていれば、仮に会議の中で異なる意見が出て衝突してもマイナスには考えません。新しい構想は摩擦から生まれるということを理解しているからです。

これまでの延長線上にイノベーションはありません。努力して思いもよらない成果が出るのではありません。異なる要素同士を組み合わせることで、経験したことのない新たな価値を生み出すのです。

●6 WHY思考

多くの企業の取り組みを聞いて、うまくいっていない企業の特徴は、(1)成功の定義が決まっていないこと(2)働き方改革をすること自体が目的となっていることの2つです。何をもって成功とするかが決まっていないと、いつまで経っても成功しているとは言えません。また、働き方改革という手段を通じて目指すべき頂上は、会社が成長することと社員が幸せになることの両立です。

「早く帰ろう」「残業をなくそう」「休みを取ろう」というポスターの掲示を多くの企業で見ました。確かに残業は少しずつ減っています。しかし「うちの会社は働き方改革に成功しています!」と明言できる企業は12%しかありません。何かモヤモヤを感じながら働き方改革に取り組んでいる企業が88%もあるのです。

残業を削減することの意義がわかっていないと、現場のメンバーは真剣に取り組まないでしょう。これは働き方改革を成功させる秘訣と一緒で、「どうやってやるか?」の前に「なぜやらなくてはいけないのか?」をしっかり考えることが重要なのです。「どうやって残業を削減するか」と方策を考えるのではなく、「なぜ残業する人が多いのか」といった原因を突き止めなければいけません。

失敗企業は、どうやって(HOW)をすぐに考えてしまう傾向があります。働き方改革がうまく進んでいない企業の原因は、その目的が現場のメンバーたちにしっかり伝わっていなかったからです。残業抑制は自分にとって何のメリットがあるのかを「腹落ち」しないと、いつもの行動習慣を変えようとはしません。

例えば、夜7時になったらオフィスを消灯するのは短期的に残業抑制の効果があるかもしれません。しかし、残業を減らすだけでは売上げも社員のモチベーションも下がります。職場の消灯をして「ノー残業だ!」と叫ぶだけでは近くのカフェで“隠れ残業”をするメンバーが続出するだけです。

一方で、12%の成功企業は「WHY」と「HOW」を整理して社員に伝え続け、まずはじめに「腹落ち感」を醸成することに努めています。つまり、なぜ働き方改革を推進するのかという明確な理由と、どういう状態が成功であるかが明確に定義され、それを経営陣と社員が納得しているということです。

言葉にすると簡単ですが、実は「WHY」すらはっきりさせていない「働き方改革」が大半なのです。「政府が働き方改革をやれと言うからやる」。案外、その程度の認識だったりします。「うちの会社にはこういう理由があるから、働き方改革を実施しなければダメなんだ」と経営責任者が理解しているかどうか。これが最も重要なのです。

働き方改革の成功例として、私がかつて所属した日本マイクロソフトの名前が挙がることが多いのですが、まさに、この「腹落ち感」を持たせて「WHY」を浸透させることを実践していました。そこが成功のカギだったと言っていいでしょう。

HOWではなくWHYを先に考えるというのは、デザイン思考とも呼ばれます。デザイン思考は、新たなものを生み出す思考スタイルで、世界で著名なスタートアップ企業を多数輩出した米国シリコンバレーでよく用いられた手法です。本質的な問題を見つめ、その発生原因までたどり着きます。その上で解決策を考え、プロダクト(試作)していくというスタイルです。いきなり100%の完成品を何年もかけて作るのではなく、目標を明確にしてから仮説をもとに試行し改善を重ねるのです。

資料作成でも同じことが言えます。全てを文字で表現して、文字埋めして作ったPowerPointを5万枚以上も見てきました。中には資料を作成することが目的となってしまっているケースも多々ありました。「なぜ資料を作成するか」を理解しないまま、膨大な時間を作業に費やしてしまったのです。

資料の目的は、相手を思い通りに動かすことです。ですから、いくら時間をかけてたくさんの文字で資料を埋め尽くしても、相手が動かなければ全く意味がありません。WHY思考がなく、HOW思考で作業をこなすことが目的となってしまった失敗パターンです。

私は日本で826名の意思決定者に700時間以上のヒアリングを行い、情報ぎっしりのPowerPoint資料がいかに嫌われるかということをよく知っています。実際にこういった意思決定者が動いたのは、重要なことがシンプルにまとまっている資料です。調査の結果、78%以上の意思決定者は、10秒以内にその資料の趣旨は何か、その情報を記憶に残しておくべきかどうかという判定をします。

リーダーがメンバーに「腹落ち感」を持たせるためには、WHYから入りましょう。どうやったらうまくいくか(HOW)を考えるのではなく、なぜうまくいかなかったのか(WHY)を考えさせるのです。まず、方法の「HOW」ではなく、現状の課題を把握して「WHY」を繰り返す。そうすれば根本原因にたどり着いて「腹落ち」し、自ら行動を変えることができます(図1)。

2-1
(画像=『新時代を生き抜くリーダーの教科書』より)

リーダーはメンバーたちに「働きがいは何か」「なぜ働くのか」を考えさせ、チームのあるべき姿を一緒に考えます。その上で、何(WHAT)をやるかを決めます。メンバーと肩を並べて一緒に考えることで、新たな行動のきっかけを与えるのです。

新時代を生き抜くリーダーの教科書
越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表取締役社長。国内通信会社および外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2015年にマイクロソフトに入社。業務執行役員として最高品質責任者、PowerPointやMicrosoft365などの事業本部長を務める。2017年に働き方改革のコンサルティング会社であるクロスリバーを設立。ITをフル活用してメンバー全員が週休3日を3年以上継続。延べ605社に対して、無駄な時間を削減し社員の働きがいを高めながら利益を上げていく「儲け方改革」の実行を支援。メディア出演や講演は年間200件以上。著書に『超・時短術』(日経BP)、『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)、『ビジネスチャット時短革命』(インプレス)、『働く時間は短くして、最高の成果を出し続ける方法』(日本実業出版社)などがある。定額制オンライントレーニングサービス「Smart Boading」にて特別講座提供中。

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