本記事は、小林弘幸氏監修『最先端医療の人生を変える7つの健康法』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています

眠りの質を高めるために

世界一睡眠不足,日本人,影響
(画像=Kamil Macniak/Shutterstock.com)

どのようにすれば、よく眠れるのでしょう。

よい睡眠のために必要なのは、深部体温を下げ、脳への無駄な刺激を避けることです。いい換えれば、交感神経を優位にしない、アドレナリンを上げない。具体的には、食事と入浴は早めに終える。睡眠に入る90分前にはすませるようにしてください。

そして寝る前の90分はスマホやパソコンを見ない。SNSのチェックもブルーライトも脳に強い刺激となります。手元にあるとつい見てしまう人は、寝室には持ち込まないくらいのつもりでいてください。寝室には何もおかずに寝具だけ、というくらいがベストです。

明かりは完全に消して、カーテンも遮光性のあるものに。温度(22℃ぐらい)や湿度(50%ぐらい)は一定にしておくのが理想的です。

一般的に日本人は寝室の環境に関して無頓着で、それが日本人の睡眠の質を下げる要因にもなっています。もし騒音や明るさなどが遮断できない環境であれば、良質のアイマスクと耳栓を用意してほしいと思います。私も実際に、いろいろと試してみました。その中で一番効果のあったもの、それは瞑想です。瞑想をすると、脳への無駄な刺激を避けることができる。

ちなみに、脳が一番高ストレス、一番負荷がかかっている状態は、どんなときだと思いますか?何かに夢中になっているとき?嫌なことをしているとき?答えはNOです。脳は、そういうときこそ目的に向けてほかの要素をそぎ落とし、効率よく動かすようになっています。無駄な負荷はかかっていない、いわばエコモードの状態です。

一番負荷がかかるのは、じつはぼーっとしているときです。脳はつねに活動しているので、本人が何かしらの意思を持てばそれに集中すべく働きますが、何も考えずにぼーっとしていると、脳はあっという間にどこからともなく押し寄せてくる雑念でいっぱいになります。好むと好まざるとにかかわらず、脳波がフルモード状態になり負荷もマックスに。

似たような状況として、寝る前に何も考えていないつもりでいても、あれこれ雑念がわいてきて、結局眠れなくなってしまうという経験は、誰もがあるのではないでしょうか。

これを避けるのが、瞑想です。瞑想といっても、特別にストイックなものではなく、脳が睡眠モードに入るための準備をするのです。具体的には、まずは自分の呼吸に集中すること。ほかの刺激を閉ざすイメージです。常に呼吸をしながら自分の身体に意識を向けます。

このとき、身体をスキャニングするようなイメージを持つと集中しやすくなります。方法は、1分間ゆっくりと「吸う」「吐く」を繰り返しながら、「頭」「目」「鼻」「口」「胸」「お腹」「お尻」「ふともも」「ひざ」「足」……と、順にゆっくりと意識を向けていくのです。

慣れないうちは、気が緩むとすぐに雑念が入り込んでくるものですが、そのときも慌てずに、ゆっくりと呼吸に集中しましょう。拡散と集中を繰り返すうちに、集中に導くことができるようになります。

寝る前の90分間の過ごし方も大切ですが、起きてからの90分もゆったりと過ごしたいところです。覚醒モードから睡眠モードに入る際にクールダウンが必要なように、睡眠モードから覚醒モードにシフトする際も、ゆっくりとしたウォーミングアップが必要なのです。

朝はどうしてもあわただしくなりがちですが、その日に大切な予定がある、もしくは今日はよいパフォーマンスを上げたい。そんなときこそ、睡眠の質と同様に、起床時の過ごし方で結果が変わってくるからです。

ちなみに、睡眠から覚醒への移行の際、コルチゾールというホルモンが働き、覚醒するための手助けをしてくれます。起床後30分前後に分泌量がマックスになるのですが(起床時コルチゾール反応)、毎朝起きる時間が決まっていたほうがスムーズに分泌が促されます。

休みだからと寝坊したり、反対にその日だけ無理に早く起きようとすると、コルチゾールの分泌時間とずれた時間に起きることになるので、結果的に「すっきり」起きることができず、その日がネガティブなものになりがちです。睡眠時間が不安定な人こそ、少なくとも起きる時間は一定にするようにしましょう。

そして起きたらまず、朝日をしっかりと浴びること。概日リズムが整います。睡眠不足の大きなネガティブ・インパクトである概日リズムの乱れは、逆にいえば、起きる時間を一定にして朝日を浴びることで、かなり解消されるはずです。

また、自分の睡眠の1セットの時間がだいたいわかっている人は、起床時間から逆算して眠る時間を決めるというのも手です。

たとえば自分のノンレム−レムのセットが90分で、毎朝6時に起きる習慣をつけたければ、5セット確保するためには夜の10時半には眠りにつくのがベストです。けれどそれが無理だった場合、慌てて11時に寝るよりは、余裕を持って12時に眠るほうがいい眠りを獲得できると考えるのです。

あえていえば、日中のイベントプランでスケジュール管理をするのではなく、就寝時間と起床時間から、日中のタイムマネジメントを行うというアプローチをしてみる。睡眠の質を上げることで、イベント自体のパフォーマンスが上がるというアプローチです。発想の転換ですね。睡眠の管理をすることが、日中の活動の管理につながります。

下の図はその考え方をまとめたものです。医療的な介入も、睡眠を分析する各段階で可能になるし、介入することでいろいろなことがさらに解明されるでしょう。アップデートされた情報をキャッチすることも大切です。

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(画像=『最先端医療の人生を変える7つの健康法』より)

こうした情報に基づいた睡眠の管理は、30代後半になったら誰もが重要なことだと思っています。もちろん自分のパフォーマンスを上げたいなら、10代でも20代でもしっかりと睡眠の管理をしてほしいですね。若いからといって、徹夜などをしないでほしいです。

睡眠は犠牲にすべきものではなく、活用すべきものです。人生の3分の1は眠っているのに、その時間がネガティブ・インパクトの原因になっていては、あまりにももったいない。睡眠をマネジメントできるか否かで、人生の生涯価値は大きく変わるでしょう。

ただし、そうはいっても、多忙な日々のなか、これまでの生活を変えていきなりノンレムとレム睡眠を5セット確保できるかといえば、そんな人はそうそういないと思います。そのような多忙な人におすすめしたい眠りがあります。仮眠です。

仮眠というと、夜勤中のひと休みというイメージがありますが、ここでいう仮眠は、日中のパフォーマンス低下を防ぐための、昼寝にあたります。日中の仮眠です。

概日リズムにおいて、人間は日中でも自然と眠くなる時間帯が2回あります。おおむね午後1時から2時と午後4時から5時の間ですが、この時間帯のどちらかに、15分から30分ほど仮眠をとるのです。

この午後のショートスリープが、夜の睡眠の1セットに匹敵する効果があることがわかってきました。というのも、短時間ではありますが、活動期の日中にあえて眠ることで、起床時からそれまでにたくさんの刺激を受けて活動を続けている脳を、いったんリセットすることができるからです。酷使して、いわばいっぱい水を吸ったスポンジのようになった脳をギュッと絞ってあげて、再度吸収力を上げるイメージです。

睡眠不足になりがちな人ほど、午後のショートスリープを日課にしてほしいと思います。自覚がないまま意識が飛んでしまうようなマイクロスリープの経験者であれば、なおさらです。

ただし、このショートスリープの効果を上げるためには、睡眠後に必ず日光か強い光を浴びなくてはいけません。しっかり覚醒することで、初めてその後の作業もスムーズにはかどります。

眠るのが難しかったら、瞑想でもかまいません。呼吸に集中して、脳を休ませてあげましょう。ショートスリープほどではありませんが、脳の活動をいったん休ませることで、それまでの雑多な情報をいったん整理して記憶として処理することができます。

睡眠の質がよければ、人生の質も上がります。これからはぜひ、日中の活動と同様に、もしくはそれ以上に睡眠に意識を向けて、自分の人生の可能性とパフォーマンスをよりブラッシュアップしてください。

最先端医療の人生を変える7つの健康法
小林弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。AMWA代表理事。1960年、埼玉県出身。順天堂大学医学部、同大学大学院医学研究科博士課程修了後、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。自律神経研究の第一人者として、アスリートやアーティスト、文化人へのコンディショニングやパフォーマンス向上指導に関わる。腸のスペシャリストとして、順天堂大学に初の便秘外来も開設。自律神経や腸内環境を整える習慣やストレッチなどを考案し、心と身体の健康づくりを提唱。

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