本記事は、小林弘幸氏監修『最先端医療の人生を変える7つの健康法』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています

腸内環境は人間の心身すべてに関わっている

食材,栄養
(画像=marilyn barbone/Shutterstock.com)

腸の話をしましょう。

腸は、脳からの指令がなくても働くことのできる唯一の器官です。腸には約1億個の神経細胞があり、脳とは別に独自の判断をして、自律神経を通して腸から脳へと情報が運ばれています。健康を一番左右する「血液」も、腸でつくられています。

食べものは小腸で栄養素の90%が吸収され、血液はその栄養を取り込み、肝臓を介して酸素や熱、免疫細胞とともに全身に運ばれ、細胞のひとつひとつに届けられます。

血液の質は、よく「サラサラ」「ドロドロ」といった表現で解説されますが、「サラサラ」であれば血行もよく身体の末端まで栄養が届きます。反対に「ドロドロ」の状態だと、流れが滞り全身の細胞に酸素や栄養が行き届かなくなるばかりか、不要な老廃物まで運んでしまうこともあります。その結果、糖尿病、高血圧、高脂血症、認知症へのリスクが高まるのです。

また、腸には免疫細胞の約7割が存在しています。体内に入ってきた有害なウイルスや病原菌を腸内で撃退し、体内に吸収させないシステムを持っていて、さらにこの細胞が血液にのって全身を巡ることで、体内の有害菌も退治しているのです。血液の質が健康にとっていかに大切か、実感できますね。

血液の質のよさを決めるのが、腸内細菌です。

腸内細菌は、腸の粘膜に生息する細菌で、100兆個、ペットボトル1本分はあるといわれています。善玉菌、悪玉菌という言葉はご存じだと思いますが、理想は、善玉菌が2割、悪玉菌が1割、腸の状態によって優勢なほうに変化する日和見菌が7割だといわれています。

腸にダメージを与えるといわれている悪玉菌ですが、最近、悪玉菌は抗炎症性のサインを出していることがわかってきました。将来的には“悪玉”と呼ばれなくなるかもしれません。つまり、腸内細菌はどれもがそれぞれに重要な役割をもっているのです。

ちなみに以前、スリムな人の腸の中に棲む、いわゆる“やせ菌”と呼ばれる腸内細菌を、太っている人に飲ませる(移植する)という実験が注目を集めたことがありました。ところが、最終的にはあまり浸透しなかったのです。なぜか。

それは、腸内細菌が、前の持ち主の“スリム”という特徴だけでなく、その人の病気や性格までみんな持ってきてしまったということが判明したからです。これは恐ろしい話です。腸内細菌にはそれくらいの力があることがよくわかる実例です。

腸内細菌は、ホルモンも生成しています。気持ちを安定させてくれるセロトニンや快楽物質であるドーパミン、人とのふれあいで生まれるオキシトシンなど、いわゆる「幸せホルモン」と呼ばれる物質がいくつかありますが、これらは、かつてはそのほとんどが脳から分泌されると考えられてきました。

ところがいまでは、腸においても生成されていることがわかっています。ドーパミンの半分は腸内細菌によって、腸の神経細胞からはオキシトシンが分泌されています。

不摂生だったりストレスフルな生活をして腸内環境が悪くなると、こうした幸せホルモンの分泌も低下します。便秘になるとイライラしてしまうのもその代表例ですね。一般的に、ストレスはまず脳が受けて刺激となって伝達されますが、実は腸が受けたオリジナルのストレスも脳に直接届くのです。脳は、腸内環境の悪化によってもストレスを受け取るわけです。

このように、腸は身体だけでなく、メンタルにおいても多大な影響を及ぼしています。私は、腸内環境は、人間のすべてに関わっていると思っています。日々の体調や健康はもちろん、性格やパフォーマンスにも影響を及ぼします。腸内環境のよしあしは人生をも左右する、これは過言ではありません。

では、腸内環境をいい状態に保つにはどうすればいいのか。腸内細菌の活性化のために必要なもの、それは食物繊維です。食物繊維は、便のもとになり便の質も決めます。栄養素のうち、大切な腸内細菌のエサになるのは食物繊維だけです。

ところがいまの日本人は、この食物繊維が全く足りていません。

いま、推奨されている食物繊維の摂取量は一日平均、男性で21グラム、女性で18グラムといわれていますが、実際は10グラム程度しかとれていません。

昔の日本人は食物繊維をいまよりもずっと多くとっていました。戦前は平均30グラムも摂取していたのです。この時代、日本人はカロリーの多くを炭水化物からとっていましたが、みんなやせていた。これは食物繊維のおかげです。食物繊維をとると、腸内に短期脂肪酸がつくられて、代謝が上がります。

食物繊維をたっぷりとると、血糖値の上昇や血中コレステロールの増加も抑えてくれるので、糖尿病など生活習慣病のリスクも下がります。最近では免疫力の向上にも関与することが判明しました。

食物繊維には水溶性(きのこ類や海藻類、果物など)と不溶性(豆類、根菜類、玄米など)の2種類がありますが、おすすめなのは、水溶性を多めにということを意識しながら、その両方を摂取すること。どちらにしても圧倒的に足りていないので、毎食、何かしらの食物繊維をとるつもりでいるくらいがいいでしょう。

自律神経と腸内環境、両方を整えるには

最後に、自律神経と腸内環境を上手に整えるために、日常生活で無理なく行えるコツを紹介します。

大切なのは、朝食です。細胞は1個1個に時計がセットされています。朝食を食べることで細胞に朝が来たことを知らせないと、体内時計は夜まで狂いっぱなしです。昼の食事では間に合いません。時計を動かすためには、朝起きてから1時間以内に食事をしましょう。時間がない人は、バナナと牛乳だけでもかまいません。

一度食べたら、次の食事まで6時間あけるのも大切です。食べたものが小腸で消化吸収されるまで6時間かかるからです。腸がその能力を十二分に発揮できるよう、余裕を持った食事時間を設定しましょう。

もうひとつ誤解されがちなのが、入浴です。熱い風呂に肩まで浸かっていると、血液がドロドロになります。理想的なのは、自分で少しぬるいかなと思う温度での半身浴です。胸まで浸かると水圧で心臓に負担がかかり、血行が悪くなってしまいます。入浴のしかたひとつで、自律神経が整うか、乱れるかの分かれ道になります。

自分が30年間続けているのが、日記です。それも、長くダラダラと書くのではなく、3行のみ。これで一日を検証するのです。

1つめは、今日起こった一番悪いこともしくは反省したこと。2つめは一番よかったこともしくは感動したこと。三つめは明日の目標。とくに若い人には3つめを書き出してほしい。年配の人であれば、2日前に食べたメニューを書き出すというのもありです。実にいい訓練になります。一日を毎日振り返るというのは、自律神経を整えるためにとても大切です。

そして常に意識してほしいのが、呼吸です。呼吸はお金がかからないせいか、あまり注目されませんが、とても効果があります。

早く呼吸すると交感神経が、ゆっくりだと副交感神経が優位になります。吸うより吐くことを意識して、1対2の割合で呼吸するようにしましょう。3秒吸ったら6秒吐く、4秒吸ったら8秒吐く。2倍の長さでゆっくりと吐くと、腸内活動も活性化し、血液の質もよくなっていきます。

歩くときも、ゆっくり、ゆったりを心がけましょう。必然的に呼吸もゆっくりになります。忙しいときほど、ゆったりと。そのためには早めに、余裕を持って出ることになります。その余裕が、自律神経と腸に、ひいては血液にいい効果をもたらすのです。

24時間365日、常に行えるのは呼吸だけです。これを利用しない手はありません。自律神経の中で、私たちがコントロールできるのは呼吸だけなのですから。

最先端医療の人生を変える7つの健康法
小林弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。AMWA代表理事。1960年、埼玉県出身。順天堂大学医学部、同大学大学院医学研究科博士課程修了後、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。自律神経研究の第一人者として、アスリートやアーティスト、文化人へのコンディショニングやパフォーマンス向上指導に関わる。腸のスペシャリストとして、順天堂大学に初の便秘外来も開設。自律神経や腸内環境を整える習慣やストレッチなどを考案し、心と身体の健康づくりを提唱。

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