AppleやGoogleといった巨大IT企業が環境問題へ取り組む中、Amazonの環境問題への積極的な活動は目立っていないと感じている人もいるのではないでしょうか。そこで本記事では、具体的にAmazonがどのような活動を行っているかについて掘り下げていきます。

環境問題への取り組みはストライキがきっかけ

環境問題
(画像=iaremenko/stock.adobe.com)

2019年9月20日に米Amazon.comの従業員が同社の環境問題への対策強化を求めてストライキが行いました。この従業員たちは、以前からAmazonに温室効果ガス排出を減らすなどの環境対策を求めており、なかなか目立つ対策が講じられないことからストライキへと動き出したのです。Amazonは「許可なく公の場で同社について発言する場合は解雇する」と警告していたので強行突破した形といえるでしょう。

一方Amazonは、ストライキの前日に突然環境への取り組みを表明しました。

突然発表された環境対策

Amazonは、社会や環境問題に取り組む慈善団体のGlobal Optimismと協力して「気候変動対策に取り組む誓約(The Climate Pledge)」に署名すると発表しました。これは2040年までに二酸化炭素排出量実質ゼロの目標達成を求められるものです。

すでに発表されていた、すべての事業で使用電力を再生可能エネルギーに置き換える目標において2024年までに80%、2030年までに100%とする具体的な時期も表明。他にも物流というAmazonの事業展開とは切っても切れない活動においても以下のような環境対策が発表されています。

2030年までに10万台の電気配送車を導入

2019年9月にAmazonは、米国の電気自動車メーカーRivian(リヴィアン)へ10万台の電気配送車を発注しました。RivianはすでにAmazonが4億4,000万米ドルの投資をしている電気自動車メーカーで、同社の車両を2021年から運用を開始し2022年までに1万台、2030年までには10万台すべてを運用すると発表しています。

これにより2030年までに年間数百万トンの二酸化炭素を節約できる計画です。

Amazonエアーの燃料を持続可能な航空燃料へ

またAmazonは、同社の貨物航空会社「Amazonエアー」が使用する燃料をワールドエナジー社によって供給されるSAF(Sustainable Aviation fuel:持続可能な航空燃料)へ転換すると発表。SAFとは、廃食油や食用にならない動物性や植物性の油脂など環境負荷の低い原料を使う燃料のことです。日本では、ANAが試験的に導入し今後の調達も計画しています。

Amazonエアーでは、SAFを年間契約で最大600万ガロン使用することで炭素排出量を最大20%削減できるとしています。

他社に比べ立ち遅れているAmazonの行動

すでにAppleをはじめとした世界規模の巨大IT企業が環境問題への取り組みを表明しさまざまな対策を実現済みです。しかしAmazonの取り組み表明は、「GAFAの中でも明らかに遅い」「従業員のストと関心を寄せた世論に押された」といった印象が強く残ります。実際にAmazonの活動を伝えるブログの地球環境保護対策を報告する投稿を見ると以下のように動き出していることは事実です。

  • 実用規模の再生可能エネルギープロジェクトを立ち上げた
  • 森林再生に1億米ドルを投資するファンドを立ち上げた

しかし実行はこれからというような状況のため、後手を踏んでいるといわざるを得ません。

先行するAppleやGoogleの活動

AmazonとともにGAFAと称される4つのIT企業のうちAppleとGoogleは具体的な環境対策を積極的に行っています。実際にはどのような活動を行っているのでしょうか。

サプライチェーンも巻き込むApple

Appleは、これまでにiPhone再生ロボットの開発や製造工程での廃棄物ゼロ、世界のオフィスや直営店の電力をすべて再生可能エネルギーでまかなうなどの環境対策をすでに実現しています。また、すべてのサプライチェーンを含めて排出するCO2と抑制するCO2を同じにするカーボンニュートラルを2030年までに達成すると表明しています。

しかも協力する企業へは資金援助を行い「その施設でApple以外の製品を製造しても構わない」という本気度です。この熱量は、GAFAだけでなくその他の企業と比べても突出しているといえるでしょう。

膨大な再生可能エネルギーに注力するGoogle

膨大なデータを扱うGoogleのデータセンターは、電力使用量も膨大です。さらにエネルギーを得る過程で排出されるCO2も膨大になります。そのためGoogleでは、2012年より再生可能エネルギー調達を積極的に実施。 Googleのサービス需要の高まりとともに電力使用量は増え続け2017年で76億kWhにのぼりました。

しかしその100%を再生可能エネルギーで調達することに成功し、さらに使用量の増えた2018年でもやはり100%の調達を達成。ただしGoogle全体で使用する電力の100%調達を達成しているものの地域や時間帯によっては100%に達していないデータセンターもあります。こうした格差を解消するため「データセンターごとに太陽光発電所の電力を購入」「AIを駆使」などエネルギーの効率化を図っているのです。

ジェフ・ベゾス氏は1兆円規模の基金を設立

他社との差を感じたのかAmazonの共同創業者でCEOのフェフベゾス氏は、2020年2月17日100億米ドル(約1兆1,000億円)の私財を投じて「ベゾス・アースファンド」を設立すると発表しました。この巨額の寄付は、地球環境の維持と保護に役立つ可能性のあるあらゆる活動を支援するとしていますが具体的な支援先や活動は明らかではありません。

世界一の富豪とされるベゾス氏にとっても100億米ドルは決して小さな額ではありません。しかし対策の遅さに伴い「環境へ積極的に貢献したい」という意思は希薄に感じてしまう人もいるでしょう。

解決されていない配送の梱包材問題

このように壮大なプロジェクトを表明しているAmazonですが、根幹のネット販売事業において以前より批判の多い過剰梱包材問題はいまだに解決されていません。過剰梱包とは、小さな商品を購入しても大きな箱に入って配送されることで「無駄な資源を使っているのではないか」という指摘です。Amazonのショッピングサイトにある環境への取り組みを伝えるページでは、具体策としてフラストレーション・フリー・パッケージの使用を一番に挙げています。

「環境配慮のために商品の包装を減らしている」としていますが、解説を読む限り利用者がパッケージを開けることに対するフラストレーションを下げることが目的のようにも受け止められかねません。たしかに商品の包装を減らせば環境対策にはなります。しかし小さな商品を大きな箱に入れて配送すれば削減効果は不十分でしかも配送車両を無駄に増やす可能性もあるでしょう。

批判をかわす目的でも効果は絶大

  • ストライキの前日に突然発表された環境対策の目標
  • 唐突に巨額を投じることは表明してもその使途が不明確なベゾス氏のファンド

こういったAmazonの環境への取り組みは、世論の批判をかわしたり他社との差を埋めたりすることが目的のように見えてしまいます。これまで環境への取り組みも希薄で批判の声の多い配送の梱包材も未解決です。本気で環境対策を行っているのか疑問に感じてしまう人もいるのではないでしょうか。しかし意図がどうあれ圧倒的に高い資本力を持つAmazonが本格的に環境対策へ乗り出せば地球環境保護や温暖化対策に大きな好影響を与えるのは確実です。

「誰に向けて行われているものか」については、この際置いておき「取り組みがどこまで実行されるのか」について見守ってみる価値はあるのではないでしょうか。(提供:Renergy Online