環境省も発行を推進するグリーンボンドは、国内においてまだなじみが薄い債券かもしれません。しかし東京都など発行体が徐々に増え、2019年の発行総額は国内で8,238億3,000万円となっています。世界的にも急速に普及するグリーンボンドは注目すべきESG投資先です。

グリーンボンドとは環境改善事業の債券

グリーンボンド
(画像=gunnar3000/stock.adobe.com)

グリーンボンドとは、環境改善を行うグリーンプロジェクトの資金調達をする債券のことです。同市場は、2014~2020年にかけて国内外で大きく成長しています。もとは2008年に国際復興開発銀行(IBRD)がグリーンボンドの名を冠した債券を発行したのが始まりです。その後2014年1月に国際資本市場協会(ICMA)がグリーンボンド原則(GBP)を作成したことから急速に拡大しました。

急増する国内額の市場

グリーンボンドの2019年における世界市場規模は、総発行額が2,575億米ドルでした。018年の1,709億米ドルから約1.5倍へと拡大しています。一方日本国内の企業などの2017年度におけるグリーンボンド発行総額は、2,223億円でした。しかし2018年5,636億7,000万円、2019年8,238億3,000万円と急増しています。

2020年11月時点でも8,367億6,000万円とすでに2019年を上回っている状況です。多少伸びは緩やかになった印象ですが、大きく成長してきたことは確かでしょう。また発行数も2017年は11件でしたが2018年は34件、2019年が58件とこちらも急増しており参入する企業などが今後さらに増えることが見込まれます。

グリーンボンドの4つの要素

グリーンボンドは、GBPに示された以下の4つの核となる要素に適合しているものとされています。

①調達資金の使途

グリーンボンドによって集められた資金は、環境改善へ向けた事業「グリーンプロジェクト」へ使われるものです。グリーンボンドガイドラインにおいて「目的は証券に係る法的書類に記載」「効果は発行体により評価されたうえで可能なら定量的に示す」としています。またグリーンプロジェクトは気候変動の緩和や適応、自然資源の保全、生物多様性の保全などの環境目的に貢献するものです。

GBPに示されている具体的な事業事例には、以下のようなものがあります。

  • 再生可能エネルギー事業(発電、送電、装置、商品を含む)
  • 新築、リフォーム、エネルギー貯蔵などによるエネルギー効率化など
  • 大気排出削減、温室効果ガス管理、土壌浄化、廃棄物発生の抑制など
  • 環境持続型農業や畜産、漁業、水産養殖業など
  • 陸上および水生生物の多様性保全
  • クリーン輸送(電気自動車、ハイブリッド自動車、非自動車式輸送の整備など)

②プロジェクトの評価と選定プロセス

グリーンボンドの発行体は、以下のような内容を投資家へ明確に伝える必要があります。

  • プロジェクトが環境面で持続可能性に係る目的
  • グリーンプロジェクトを判断するプロセス
  • プロジェクトにある潜在的な環境的社会的リスクとその抑制について

③調達資金の管理

グリーンボンドで調達された資金は、追跡可能に管理し未充当資金の残高の運用方法も投資家に知らせるようにするなど資金の透明性を保つことが必要です。さらに資金管理は第三者機関を活用して補完することも推奨されています。

④レポーティング

発行体は、資金の使途についての最新情報を簡単に参照できるように開示し年1度の更新や重要な事象が起きた場合の随時開示が必要です。さらにこのレポーティングにはプロジェクトの概要とともに充当された資金の額や効果が含まれることも推奨されています。

主な国内の発行体

発行体には、直接環境事業を行う企業や地方自治体などはもちろんグリーンプロジェクトへの投資や融資を行う金融機関も含まれます。日本では、金融機関が再生可能エネルギー事業を中心に発行の先駆けとなりました。しかし現在では多くの企業や東京都など多様な団体が発行体となっています。

国内の主な発行体と主要事業

  • 日本政策投資銀行(グリーンビルディング向け投資)
  • 東京都(五輪関連施設の環境対策、スマートエネルギー都市づくり)
  • 三井住友銀行、三菱UFJFG、みずほFG(再生可能エネルギー事業)
  • 日本郵船、商船三井(LNG船、生物多様性に配慮した船舶設備)
  • 三菱地所(東京駅前常盤橋プロジェクト)
  • 住友林業(ニュージーランドの山林資産取得)
  • JAソーラージャパン、オリエントコーポレーション(太陽光発電事業)
  • カネカ(生分解性ポリマーPHBHの製造設備および開発)
  • 三菱重工業(風力発電、水素発電、地熱発電)

発行するメリットはESG投資対応や社会的評価

急速にグリーンボンドが拡大している要因は、増加するESG投資の流れによるものが大きいでしょう。将来へ向けての安定性やリスク回避の点から近年ESG投資が増加しています。そこで求められる環境保護は、グリーンボンドの要素と重なる部分が多く世界的に増加するESG投資家からの債券購入が期待できるのです。

またグリーンボンドを発行することで地球温暖化や環境保全に対する積極的な活動をアピールできるため、社会的に評価され結果として資金調達しやすくなる狙いもあります。特にこの点はまだ十分な団体規模でなかったり事業実績が少なかったりする発行体にとって大きなメリットです。

投資するメリットは環境貢献とリスク回避

グリーンボンドへの投資は、環境貢献度の高い事業への投資です。そのため世界的な流れといえる温室効果ガス削減と脱炭素社会への取り組みに間接的に貢献することができます。またこうした事業への支援を行うことで投資家自身が社会的な支持を得られることも期待できるでしょう。さらにグリーンボンドは株式や債券などの資産と連動性が低いとされています。

そのため分散投資に有効といえるでしょう。

グリーンウォッシュ債券への懸念

グリーンボンドの重要な課題は、ガイドラインはあるもののその基準が法的なものではなくあくまで自己申告制という点です。そのため実際には環境改善への貢献が行われなかったり、調達された資金がグリーンプロジェクトに使われなかったりするなどグリーンウォッシュ債券が市場に出回ることが強く懸念されています。

2018年にICMAより発行された「グリーンボンド原則2018グリーンボンド発行に関する自主的ガイドライン」では、冒頭でグリーンボンドの4つの核となる要素に加え外部評価の活用推奨が表明されました。さらに環境省ではグリーンボンドについての新たなガイドラインを示しています。その中でもグリーンウォッシュ債券がグリーンボンドとして市場に出回ることの防止が極めて重要だと伝えているのです。

さらにグリーンボンド原則との整合性や発行体による情報開示、投資家などによる評価などによってグリーンウォッシュ債券が市場に出回ることをけん制できるとしています。もしグリーンウォッシュ債券が広がってしまえば、グリーンボンド自体の価値と信頼性が低下し市場が縮小する恐れも出てくるのです。

今後のグリーンボンドの課題

今後のグリーンボンドは、発行体が事業を選定したプロセスや環境貢献度をより詳細に投資家や市場に伝えたりICMAなどに推奨されている外部評価をより厳格に行うことが求められるでしょう。一方でこうした選定情報などの発信と外部評価の拡充で、発行体が負う発行コストの増加を招くことが考えられます。

資金使途が限られるグリーンボンドの場合、事業に取り組むことができる発行体は少ないため、発行コストが増えればグリーンボンドの発行に消極的になる団体が出てくることもあるでしょう。市場の拡大にブレーキをかけないようにするためには、低コストとなる発行体の情報開示や外部評価の仕組みを作ることが大きなポイントになりそうです。(提供:Renergy Online