ニトリによる島忠の買収劇があった。両社は経営統合することになり、ニトリの似鳥昭雄会長は「島忠を当社グループに迎え、一緒に歩みを進めたい」と強調する。しかし経営統合は「国際結婚」のようなものだ。ビジョンも文化も異なる2社がお互いを理解し、高め合うのは簡単ではない。

ニトリと島忠の沿革

ニトリ・島忠
(画像=Kristina Blokhin/stock.adobe.com)

まずはニトリと島忠の沿革を簡単におさらいしておこう。

ニトリホールディングスは、北海道札幌市に本社を置く家具日用品大手だ。1967年に創業した「似鳥家具店」から始まり、展開店舗を増やし続けてきた。2002年に東証一部に上場し、2015年には400店舗・売上高4,000億円を達成した。2020年2月時点の店舗数は海外店舗を含めて607店舗に上っている。

一方の島忠は、埼玉県さいたま市に本社を置く中堅ホームセンターだ。1890年に創業した「島村箪笥製造所」から事業史が始まり、東証一部に上場したのは1991年。現在は、関東エリアを中心に約60店舗のホームセンターを展開している。

ニトリによる島忠の買収劇

最終的にニトリが島忠を傘下に収める流れとなったが、「最終的に」と書いたのは、この買収劇が決着する前に、ホームセンター「ホーマック」を展開するDCMホールディングスによる買収提案に島忠側が合意していたからだ。

しかしその合意のあと、一転して島忠側はニトリとの経営統合に舵を切った。商品の企画・製造・販売を自社で全て手掛ける、ニトリのノウハウや海外事業展開の知見などを活用すれば、島忠自身のさらなる成長につながると考えたからだという。

ちなみにTOB(株式公開買い付け)の期間はまだ終了していないが、2020年内には決着する見通しとなっている。

ニトリと島忠の「違い」とは?

ここで話を本題に戻そう。ニトリと島忠はともに消費者の生活に寄り添った小売企業であり、業態は一見してかなり近いように見える。経営統合よるシナジーに期待できるのでは、と感じる人も多いだろう。しかし、ニトリと島忠には明らかな違いがいくつかある。

例えば、島忠は「日用大工用品」(DIY用品や園芸用品など)に力を入れているのに比べ、ニトリは「家具日用品」(家具や寝装具など)の展開が軸だ。経営方針にも違いが見える。ニトリは「規模拡大・自社完結型」路線なのに比べ、島忠は「規模集約・効率化」路線だ。

このような違いがある中で、両社は経営統合後に共に成長していけるのだろうか。もちろん、ニトリも島忠もこれらの違いを認識しており、すでにお互いが事業を拡大していくための青写真を描いている。

ニトリと島忠の経営統合によるシナジー

ニトリは、IR資料の中で「島忠とニトリのシナジー効果」を説明している。

期待できるシナジー9項目

項目数は多いが、経営統合後の両社の行方を見通す上で重要なポイントとなっているので、読んでみてほしい。

  1. 島忠店舗の全国展開による高品質な家具の販売機会の拡大及び幅広い顧客層の豊かな暮らしの実現への貢献
  2. 島忠のホームセンター(HC)商品と当社ホームファッション(HFa)商品との相互補完による販売拡大と、プライベートブランド(PB)商品開発ノウハウ共有による利益率の向上
  3. 物流機能の共同利用によるコスト削減・資産効率改善
  4. 当社グループの有する「製造物流IT小売業」としての各種サプライチェーン上の機能・ノウハウ提供によるコスト削減及び改善スピードの加速
  5. ニトリモール事業、デコホーム事業とのシナジー追求
  6. 首都圏・都心部へのshop in shop型店舗の相互出店、かつより広範な出店戦略
  7. Eコマースでの販売体制の強化
  8. 共通ポイントの導入による相互送客と新規顧客獲得
  9. 海外店舗での島忠の商品の販売、将来的な海外出店の実現

ニトリも島忠もお互いの強みを生かす

まず、取り扱っている製品の違いについては「2」で触れられており、「商品との相互補完による販売拡大」により、島忠とニトリそれぞれで商品ラインナップを増やそうと考えているようだ。

また「4」では、ニトリの自社完結型のサプライチェーンの強みを生かせば、島忠のコスト削減や改善スピードの加速につながるとしている。

「8」では共通ポイントの導入に触れている。ニトリでも島忠でも利用可能な共通ポイントが導入されれば、確実に相互送客につながる。特にニトリは約4,000万人の会員数を誇り、島忠にとっては非常にメリットが大きい点といえる。

ニトリは、すでに海外でも66店舗(2020年2月末時点)を展開しており、「9」では島忠も海外進出を目指すとしている。経営統合により、ニトリは海外進出のノウハウを島忠に惜しみなく提供する考えのようだ。

来年からの両社の動きに関心が集まる

業態が近い企業だとしても、ビジョンや企業文化には必ず違いがある。しかし、そのことを十分に理解した上でお互いの強みを生かし合える関係を作れば、国際結婚的な経営統合もうまくいくはずだ。来年からの両社の動きに関心が集まる。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)