本記事は、永長淳氏の著書『トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ』(ロギカ書房) の中から一部を抜粋・編集しています。

不動産
(画像=PIXTA)

一戸建てを複数人で相続。利用予定がなく手放したい。

※「トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ」では具体的な事例をもとに、“売れない”を“売れる”に変えるノウハウをお伝えします。

東京都墨田区(空家・老朽化・狭小地)

【物件概要】

  • 所在‥東京墨田区
  • 種別‥居宅(空家)
  • 権利‥所有権
  • 概況‥東京メトロ最寄駅から徒歩5分圏内。土地約12坪。建物約14坪。

【経緯】

相続人のK氏(約60代)たちは、長年手つかずになっている一戸建てを所有しています。兄弟のほか、遠い親族を含めた計5名で相続していて、現在の関係は疎遠のようです。

今後利用予定もなく、このままさらに相続が発生し当事者が増える前に、換金したものを分け、自身の代で整理しておきたい、とのことから相談することに決めました。 当事者間で細かい調整をすることが困難なので、できる限り条件が少なく、諸経費がかからないように売却しようと考えます。 相続登記を依頼した司法書士へ相談したところ、当社へ買い取りの依頼がありました。

【課題】

民法によって、建物壁面は隣地境界線から50㎝離さなければいけません。また建物の最小規格が2間(けん)間口、約3.6mと言われているので、約4.6m以上の間口が必要になります。

本件土地は12坪、間口は約3m強でした。現在は敷地いっぱいに建物が建っていて、新築時には同等規模の建物を建築することはできません。しかし建物の老朽化は進んでいるので、大規模改修するには、1,000万円を超える費用がかかりそうです。さらに、そこまで改修を施したあと販売活動を行ったとしても、購入者が住宅ローンを使える商品に仕上がるかどうか難しい状況です。

トラブル不動産SOS
(画像=トラブル不動産SOS)

【商品化への道】

当社はK氏を代表として、本件中古一戸建てを現況のまま購入しました。

当社のような不動産業者が一般消費者に売却する場合、建物の隠れたる瑕疵について2年間の責任を負わなくてはいけません。本件建物を改修したうえで販売を行い、この瑕疵担保責任を負うにはあまりにも老朽化が進みすぎています。

建物を使わず、解体して新築するにあたっては、

  • 狭小かつ間口が狭い
  • 前面道路に歩道とガードレール、そして植栽がある

この2点が障害となります。

新築をするには約3mの間口だと一般的な規格が当てはまらず、設計や建築すべてにおいて特注となるため費用が割増しになります。

また解体や新築工事をする際、前面道路の歩道は封鎖して警備員などを配置します。ガードレールや植栽は撤去や移設しなければならず、通常の工事よりも時間と費用が追加となります。

しかし幸いにもスカイツリーや湾岸バブルにより、墨田区の地価や需要も高まってきていたため、本件についても限定的な需要があると判断し、当社で購入することとします。

K氏を含め相続人全員から、現況引渡しでの購入価格を提示したところ、価格や条件面が折り合いました。

引渡しを受けてすぐに解体と測量に着手できるように、契約締結後、土地家屋調査士と解体業者に連絡を入れて、日程を確保してもらいます。そうしたなか解体業者から、奥側隣接地の駐車場を利用できれば、解体費用が3割程度抑えることができる、との提案を受けました。

引渡しを受けた後、解体と測量を行う前に近隣へ挨拶に行きます。

奥側隣接地にも伺いますが留守が続きます。二度目の訪問時に手紙を投函しておいたため、その日の夕方奥側隣接地のT氏より連絡があります。両親が住んでいた戸建てを兄弟二人で相続しており、どちらも自宅を構えているため、定期的に訪問しているだけで、通常空家になっているようです。

当社からの便りには目を通していて、すでに内容は理解しています。測量は互いに関係することなので全面的に協力し、駐車場に関しても短期間ならば問題ないとのことで、工事期間賃貸してくれることになります。

ここでT氏が「うちも売ってるの知ってる?」と言うのです。

隣接地は50坪を超えるまとまった土地です。当社は購入時、相場や事例を把握するため、同所在はもちろん周辺の販売物件には一通り目を通していました。

それではなぜ知らなかったのか。

本件を含めT氏宅も住宅地に所在していますが、某大手仲介会社によって商業地くらいの坪単価で半年前から販売活動を始めていたのです。流通相場の約2倍程度の価格です。住宅地の坪単価からあまりにもかけ離れていて、幹線道路沿いなどの商業地と勘違いし見落としていました。

奥側隣接地は前面道路の幅員によって容積率に制限があります。本件不動産は幅員が広く制限を受けません。そのため、互いがプラスになるならば共同で一緒に販売活動を行うことも一つの方法として、時間をもらい検証することにします。

さらに詳しく話を聞くと、T氏が所有する土地には2棟の建物が建っており、そのうち1棟はアパートで4件の賃借人に賃貸中です。某大手仲介会社からは賃借人についても「このままで問題ない」と言われ、そのまま売却依頼していたようです。

土地で販売活動を行っているので、売却の契約を締結すると建物解体については互いに協議しますが、賃借人については売主の責任と負担で退去させる必要があります。その点について一切の説明がなかったようです。

当社と共同で売却することになっても賃借人退去は必須なので、T氏には一般的な商品化までの流れを説明することにします。

【結果】

T氏から駐車場を借りることができたので解体費用は抑えられ、測量も全隣接地との立ち会いを完了し、無事に確定測量を終えました。

T氏との共同売却については、検証した結果、

  • 共同でも、単体でも互いにそれほど価格に影響はない
  • 当社は小振りなので、単体では一般消費者に売却しやすい
  • T氏宅はアパート用地などで検討でき、それには当社部分が無駄になる

こういったことから各々個別で販売することにします。

それでも賃借人退去や販売方法については悩むことが多かったようで、T氏が無事に売却するまでのあいだ連絡を取り合いました。

当社は周辺流通相場の約6割程度でK氏らから購入します。解体し、測量を行い、参考プランを作成し、まずは高値の模索として販売活動を行い、多少の価格交渉があったものの、周辺流通相場の約1割増し程度で売却できました。

【対策】

都内近郊においては地価が高いため、狭小地や狭小住宅への需要が高まっています。以前よりも住宅ローンの規定が緩和され、敷地面積や建物面積が小さくても借りられるようになりました。

一個人が更地の状態で現地を確認しても、建物についての想像が上手くいかず、なかなか成約へ結びつきません。そのため、当社では参考プランなどを用意し、イメージしやすいよう準備をします。

その点、本件の購入者は生まれ育ったところで馴染みがあったうえ、仕事が設計関連だったので、当社が作成した建物プランを参考に自身で設計していました。
また、解体や建築に弊害が出るほど狭小な場合は、隣接地からの協力が必要となるケースがあります。本件については解体時の駐車場一時借りでした。

仮に隣接地から約1.6m程度の幅で譲渡の協力が得られると、本件は2間間口の一般的な規格である建物が建築できる土地となります。特注ではなくなり建築費用も抑えられますので、土地の価値が上がります。

そのためには両隣接地どちらでも構いませんが、

  • 分筆しても現在の建物の遵法性に問題が出ないか
  • 分筆するための測量費用の負担
  • 売買価格

これらの負担や決定が必要になります。

トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ
永長淳
株式会社EINZ(アインズ)代表取締役。1978年、北海道帯広市出身。大学卒業後、東証一部大手不動産仲介会社に入社。10年勤務後、転職。2012年不動産会社を設立し独立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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