本記事は、永長淳氏の著書『トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋・編集しています。

不動産
(画像=PIXTA)

空家を相続。利用予定がなく、何もせず手放したい。

※「トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ」では具体的な事例をもとに、“売れない”を“売れる”に変えるノウハウをお伝えします。

東京都世田谷区(法外通路・再建築不可)

【物件概要】

  • 所在‥東京都世田谷区
  • 種別‥居宅(空家)
  • 権利‥所有権
  • 概況‥私鉄最寄駅から約3㎞。バス利用の場合、乗車10分。バス停からは徒歩5分圏内。土地約40坪。建物約23坪。

【経緯】

相談者であるE氏(60代)そして兄弟のR氏(60代)は二人ともに独立し、自宅を所有しています。10年ほど前に父親が亡くなり、昨年母親も亡くなったため、現在は空家になっています。

E氏は大手仲介会社で何度か不動産取引をしていて、全面的に協力して欲しいと仲介会社より直接紹介されました。

【課題】

E氏からは、

  • 老朽化した空家は不用心なので解体したい
  • 建物が建てられない土地だから解体もできない
  • 利用もしないのに固定資産税等の支出もあることから手放したい
  • 相続手続きすら未了の状態なので、諸々解決して欲しい

との相談でした。相手方もあることなので、どこまで解決できるかは分かりませんでしたが、当社ではでき得る限りのところまで協力することにします。

本件は2点大きな課題を抱えています。

  • 相続登記
  • 再建築不可

E氏とR氏は父親が亡くなったあと連絡を取り合うこともなく疎遠となっています。E氏はR氏の電話番号を知らず、過去の郵便物の住所だけが頼りです。

再建築不可については、接道義務を満たしていなかったことが理由です。

前面幅員は5mあり車も何不自由なく通行できます。しかし建築基準法上の道路として認定されておらず、道路ではなく通路という扱いのため再建築ができません。

【商品化への道】

当社はE氏、R氏から中古戸建てを現況のまま購入しました。

まずは前面通路を建築基準法上の道路へ変更するよう動き、変更ができなかった場合は現在の家屋を利用して中古一戸建てで販売する、という流れで事業化できると判断したのです。

E氏とは、相続登記が無事完了できた場合、再建築不可の中古戸建てとして大規模改修して再販売を行うことができる価格で当社が購入する、という約束で協力を始めました。

当社はE氏から教えてもらったR氏の自宅へ、事情を説明した便りを送ります。続けて二度目を送った後、R氏から連絡がありました。

直接会って話をしたい旨を伝えたところ、自宅でお会いすることとなります。 約束の日、自宅へ伺い現状の報告と説明を行います。疎遠となっていたことからR氏は相続していたことすら知りません。

相続に関する一般論や、本件を当社に売却しE氏が自身で支出している分を除いて折半したい、というE氏の意向を伝えます。2時間ほど打ち合わせた後、相続登記への協力とE氏の意向通りでの売却について了承してもらいました。

今後については、本日の内容をE氏へ報告し詳細をまとめた後、改めてこちらから連絡することとして退散します。

E氏にはR氏から大筋の了解を得られたと伝え、相続と売却に関する手続きを進めることにします。相続登記については当社で司法書士に協力を仰ぎます。

E氏、R氏ともに売却について日程などの段取りを組みます。当日までに用意して欲しい書類など、

  • 運転免許証など顔写真つき身分証明書
  • 実印
  • 印鑑証明書

を一覧にして伝えます。

本件は、売買契約を締結し、後日残代金を支払う、という一般的な流れを取らずに、一括決済にしました。

  • 売買価格が高額ではないこと
  • 再建築不可により融資を利用できないこと
  • 同日の午前と午後のような日程を何度も組むことが難しいこと

これらが理由です。

取引日、両人の元へ順に伺い、契約書を取り交わし、それぞれに売買代金を支払います。司法書士にも同行をお願いしていたので、相続登記の手続きと併せて所有権移転登記の手続きも行います。

本件不動産の引渡し完了後、当社は土地家屋調査士に同行をお願いし、本件の前面通路に接する近隣全員のもとへ、挨拶と状況の確認を行うため伺いました。

そこで分かったことが、本件は過去に建築基準法上の道路にするために、役所と協議していました。しかし役所の見解や意向と住民の希望や負担とに乖離があり頓挫しました。

今回もそうでしたが、役所からは段階を踏むよう指示があります。

  • 区道にできるか
  • 位置指定道路にできるか
  • 協定通路や但書で建築できるか

という順番で、まずは区道となるよう打ち合わせたようです。そのためには、本件前面通路の両端に位置する、区道との角を隅切りにする必要があります。角地の負担が出てきてしまうのです。

通路にしか接していない人は再建築できるようにしたいですが、角地の人はすでに道路に接しているので完全なる協力者の立場であるにもかかわらず、負担があるのはおかしいとして話が進みません。

今回このような経緯を踏まえて当社は、区道になって区に管理してもらわなくて構わない、通路に接している土地が建築できるようにしたいだけだ、として役所の理解を求めて手順を飛ばし、位置指定道路へ向けて動き出します。

この位置指定道路にするためにも、最終的には道路として申請する図面に当事者全員の、

  • 実印押印
  • 印鑑証明書添付

という高いハードルがあります。

過去の経緯から疑心暗鬼となっている近隣の方に対して時間をかけて、

  • 皆さんの負担は何もない
  • 負担がある時には当社が負う

と説明し続けます。

現在の通路の形状を変更することなく、通路に対して塀などの一部工作物が越境している点なども建て替えまで猶予してもらえました。役所と最後まで協議してくれた土地家屋調査士の交渉力により、現状のまま何の変更も誰の負担もなく、位置指定道路の申請を行うこととなりました。

その都度生じた誤解を何度も何度も解きながら、私道所有者、接道する土地所有者、建物所有者、これら全員に了承してもらい、申請図面に署名、押印をもらうことができました。

トラブル不動産SOS
(画像=トラブル不動産SOS)

【結果】

位置指定道路になったことで、当社が所有する戸建ても再建築ができるようになりました。防犯面からすみやかに解体に着手します。

当社は本件を再建築不可として、流通相場の約5~6割程度の価格で売却できる前提で購入しました。位置指定道路へ変更し、建築基準法上の道路に接することになったため、周辺流通相場での売却となりました。

【対策】

本件は、当社のような知識を持ち合わせた不動産業者が指揮を取り、土地家屋調査士の全面的な協力があり、当社が測量費用を負担した事実があります。

しかし次の幸運が重なり「たまたま」上手くいった例にすぎません。

  • 当事者全員と連絡が取れた
  • 当事者全員からの了承を得られた
  • 形状を変更しなくて良かった
  • 面積減少等の負担が誰もなかった

そして何より近隣全員の資産価値向上という結果があってのものです。

当社が「自分だけ良けりゃいいや」と、自身の利益だけを追求していては纏まることはありませんでした。

全国から同様の事案で悩んでいる相談を受けます。まずは近隣全員で話す場を設けてみて、全員が同じ方向を向いているならば、早い段階で専門家の意見やアドバイスを取り入れるのが成功する秘訣です。

トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ
永長淳
株式会社EINZ(アインズ)代表取締役。1978年、北海道帯広市出身。大学卒業後、東証一部大手不動産仲介会社に入社。10年勤務後、転職。2012年不動産会社を設立し独立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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