本記事は、永長淳氏の著書『トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋・編集しています。
自宅を相続。建物老朽化。利用予定がなく手放したい。
※「トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ」では具体的な事例をもとに、“売れない”を“売れる”に変えるノウハウをお伝えします。
東京都練馬区(最低敷地面積・分割には1㎡足りない)
【物件概要】
- 所在‥東京都練馬区
- 種別‥宅地(古家付き)
- 権利‥所有権
- 概況‥私鉄最寄り駅から徒歩10分圏内。150㎡弱。最低敷地面積75㎡。
【経緯】
T氏は生家である両親が住み続けた自宅を相続しました。自身はすでに家を購入しているため、今後利用する予定がなく、建物の老朽化も進んでいるので手放すことにします。
不動産の取引を行う際に必要な測量などには可能な限り協力をするので、売却についての最適なアドバイスが欲しいとのことで、大手仲介会社へ相談があり、当社へ買い取りの依頼がありました。
練馬区内の住居地域は概ね敷地面積の最低限度の制限が定められています。これは指定建ぺい率により決定し、本件については指定建ぺい率が60%で、敷地面積の最低限度が75㎡です。
それではなぜ当社に相談があったか、という点についてです。
周辺は最低敷地面積の80㎡程度が、最も需要の見込める規模です。坪単価は200万円前後、新築等の一戸建ては6,000万円から7,000万円で流通しています。
しかし本件土地は登記簿上で149㎡です。149㎡ともなると規模が大きく、仮に同じ単価にすると9,000万円台になります。需要が見込めそうな価格帯まで抑えるならば6,000万円が上限と想定していました。
T氏が相続した空家について専門家に意見を聞くと、
- 昭和56年5月31日以前に建築された(旧耐震基準)
- 区分所有建物登記がされていない(分譲マンションなどではない)
- 相続開始直前まで被相続人以外が一人で暮らしていた
- 相続時から譲渡時まで事業用、貸付用、居住用として利用していない
などの「空き家に係る譲渡所得税の特別控除の特例」の適用を受けられる諸条件をクリアしています。このことも伝え、売却時の譲渡所得から3,000万円を特別に控除する方向で進めていきます。
【課題】
登記簿上と実際の測量面積は、誤差があることが多々あります。
本件土地は現況測量によって150㎡を超える可能性がありました。しかしT氏が特例を受けられる期限が半年を切っており、本測量完了を待つ時間がありません。超える可能性はあるけれど、近隣の方と立ち会いし測量を完了するまでは150㎡をさらに下回る可能性もあります。本件はこの1㎡の違いによって、坪単価が200万円前後から140万円弱まで差が出てしまいます。
T氏にしてみると、売却価格が高くなる可能性があるならば挑戦したいが、時間が足りない。当社としては、可能性ありきで購入価格を高い方で設定するわけにはいきません。
【商品化への道】
当社はT氏から、測量及び解体が完了した後に引き渡す、という条件で本件土地を購入しました。
時間がない売主と、確定しなければ購入価格を高くできない当社の立場から、双方の折衷案を提案します。
- 登記簿上の149㎡を前提に売買契約を締結する
- 測量により150㎡を超えた場合は売買価格を変更する
- 万一、測量が成就しない場合でも引き受ける
まず現況では150㎡に満たないので、当社の再販売価格が坪単価140万円弱の事業収支を基にした購入価格で売買契約を締結します。
売買契約締結後、売主の責任と負担において測量を開始し、近隣との立ち会いや狭あい協議によるセットバックなどを踏まえ、150㎡を超えることになった場合には、2宅地に分割し販売する前提で、坪単価200万円強の事業収支を基にした購入価格へ売買価格を変更する、という特約を付しました。
また、一定期間内に確定測量が完了しない場合においても、当社は引き受けるとし、契約解除によって、T氏が空き家の3,000万円特別控除を受けられない事態だけは避けられるよう対応しました。
本来ならば契約締結時点で二段階の価格設定がなされていることは異例です。しかしT氏の状況や意向を鑑み、当社としても問題ないと判断し、この条件にて引き受けることとします。
契約締結後、T氏の責任と負担において建物の解体にも着手します。T氏は「空き家の3,000万円特別控除」を受ける諸条件により、年内に解体が完了している必要があります。
解体の費用や責任を負ってもらえるのは有難いことですが、当社はこの解体に反対でした。
なぜならば、年内に解体が終わり、1月1日付で更地となってしまうと、固定資産税が現在の約6倍程度まで跳ね上がる可能性があるからです。
毎年賦課されるこの固定資産税は、一般的な住宅用地の規模ならば、課税標準額が6分の1となる特例があり、これにより固定資産税が抑えられています。年末から解体に着手し年明け早々に完了が、時期としては最善です。
【結果】
近隣との立ち会いも無事完了し、区との協議によりセットバック部分も確定しました。確定した有効宅地面積は登記簿面積よりも小さい147㎡です。
これにより当社は規模の大きい、分割できない宅地として販売することが決定します。
残代金を支払い、無事に所有権移転申請を行って間もなく、隣地のS氏から連絡がありました。
「ブロック塀が弛んでいる。先日の解体が原因ではないか?」と言うのです。
当社は本件を取得した後には両隣地へ挨拶に伺い、150㎡を満たす分だけ何とか譲って欲しい、とお願いしようと考えていました。まさにS氏からのこの連絡は、接触する良いきっかけとなったのです。
解体を行ってくれた解体業者に同行をお願いし、速やかに現地へ伺い状況を確認します。大掛かりな解体により、隣地のS氏宅には少なからず影響がありました。しかし弛みは老朽化が原因であり、説明によりS氏も納得してくれた様子です。
話をする機会が得られたので、
- 本件不動産は当社が取得しこれから販売活動を開始する予定
- 測量により147㎡となり、敷地面積の最低限度の規制で分割できない
- 当社の負担でS氏側の測量を行うので、3㎡譲って欲しい
と相談を持ち掛けます。今回のブロック塀への早急な対応がS氏の警戒を解いていて、前向きに検討してくれることとなりました。
まずは敷地内の立ち入りを許可してもらい測量を行い、現況測量図を作成します。それを基に3㎡分を分筆する案を提案します。
- 建ぺい率、容積率に抵触しないか
- 民法234条の外壁と境界線の間隔が50㎝空いているか
- 裏口の扉の開閉に影響が出ないか
- 埋設された配管が越境しないか
などS氏の不動産に影響が出ないよう注意を払います。
三度の提案を終え、快く庭先部分を数㎝と薄く分筆し譲ってもらうことになりました。S氏の敷地内にあるブロック塀はS氏の負担で解体し、当社敷地内に当社の負担でブロック塀を新設することにしました。
かかる費用も加えると、購入する土地面積の坪単価は約600万円になりますが、本地売買契約で付した「150㎡を超えた場合の特約」の価格よりも、10%程度抑えた価格で取得することができました。
【対策】
今回T氏は期限の定めにより選択肢を狭めることとなりました。選択肢が少なくなることにより、買主側との間で駆け引きがあると、価格や条件面で引く立場となってしまいます。
不動産を相続すると、相続税や今回の空き家の3,000万円特別控除など、いつまでに行わなくてはいけないという期限が決まっています。不動産を売却するにあたって、期限があると強気の交渉に差し支えるため、高値の模索や好条件で取引するうえでは弊害となります。
当初より専門家に相談すれば、測量の着手や、隣地からの一部譲渡の相談など、前向きなアドバイスを受けられていた可能性があります。
また、後ろ向きの問い合わせについても、速やかな対応により前向きに進むことが往々にしてあります。今回はブロック塀の弛みに対する疑問について、速やかな行動と真摯な対応によりS氏の警戒は解け、結果的に当社の希望する結果へと結びつけることができました。
通常、後ろ向きの問い合わせは気乗りがしないうえ、どのように対応すれば良いかが分からないことが多いため、対応が後回しとなりがちです。これにより事態はさらに悪化します。
最初の対応だけは速やかに行い、その後は身近に相談できる方、協力してくれる方、専門家等の意見を聞きながら進めていきましょう。