本記事は、永長淳氏の著書『トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋・編集しています。
空地を相続。利用予定がなく、何もせずに手放したい。
※「トラブル不動産SOS 〝売れない″を〝売れる″に変えるノウハウ」では具体的な事例をもとに、“売れない”を“売れる”に変えるノウハウをお伝えします。
東京都文京区(境界未確定・私道使用許可無・更地)
【物件概要】
- 所在‥東京都文京区
- 種別‥宅地(更地)
- 権利‥所有権
- 概況‥東京メトロ最寄り駅から徒歩5分圏内。現況は更地。土地20坪弱。前面道路は私道。突き当りの一つ手前に位置する。公道までの私道持分はなし。
【経緯】
相談者であるK氏(60代)は遠方にお住まいです。
本件不動産を相続により取得していたことを知っていましたが、長年放ったらかしにしていました。そのため現地は高く生い茂った雑草で埋め尽くされていて、電化製品や自転車などが不法投棄されていました。
このままでは事態が悪化する可能性があるので、面倒なことはせず手放すことができるか、できるのなら売却して換金したい、と相続登記を依頼している司法書士へ相談し、当社が紹介されます。
【課題】
本件が抱える課題は3点です。
- 境界の非明示
- 私道の持分がない
- 現況更地
まず境界の非明示を希望していること。
K氏は売却にあたって何もしないことを望んでいました。そのため、測量を行わず境界も明示しないことになります。
境界は確定するのに、土地に接する方々全員と立ち会い、境界標を確認のうえ書類を取り交わします。売主が現地に居住している場合、これまでの近所付き合いがありスムーズに進みやすいですが、遠方に住んでいた場合だと、過去の経緯を知らないことが多いため、質問事項にも答えられず、立ち会い自体も難しいことがあります。
また、測量を個人である売主が行うか、それとも購入者となる不動産業者などの第三者が主体となって行うかによって、相手が受ける印象が違います。
何もせずに売りたいという所有者の場合、測量をせずにそのまま売却することはできます。しかし都心部のような地価が高い地域においては、境界の位置が1㎝ずれるだけで数万円から数十万円異なります。相談を受ける立場としては、取得後に測量が成就しない可能性がある、という見えないリスクを負うことになるため、価格面で対応し購入することになります。
次に私道の持分がないこと。
私道に接する所有者で持ち合っているような場合、これまでの歴史、私情、金銭等により、良くも悪くもしがらみがあります。
測量は利害関係人だけなので、依頼する側は譲歩するなどして、多くは完了まで漕ぎつけられます。しかし公道までの私道部分の所有者全員から、通行とインフラの掘削を承諾する書類をもらうことは簡単なことではありません。
この通行掘削承諾書がないと、新築しようとしても工務店が建築を請け負わないことがあります。
最後に現況が更地であること。
通常更地であることはプラスの要素となります。老朽化が進んでいる家屋の場合、多くの購入者が建て替えを検討するため、建物の解体が前提となるからです。
しかし私道持分が無く通行掘削承諾書が得られない場合、再建築が困難になります。建物が建っていれば、新築同様まで大掛かりな改修により復元できますが、更地のままだと手の打ちようがありません。
【商品化への道】
当社は、K氏より本件土地を現況のまま購入しました。
この案件は測量、通行掘削承諾書を近隣から取得できるかどうかが鍵となります。それは、現況が更地なので通行掘削承諾書が得られない場合、
- 工務店が新築工事を請け負ってくれない
- 通行掘削承諾書の提出を求められる東京ガスの埋設ができない
- 住宅ローンが組みにくくなる
この3点の可能性があることが理由です。
しかし万一取得できない場合、
- 工事車両は否認されても歩行自体は認められるため、工事費が割高となっても手作業で新築工事を行う
- ガスは諦めてオール電化住宅にする
という最悪の事態を想定しました。
住宅ローンについては、地域面から融資を借りず現金購入の需要が見込めると判断しました。ここから逆算し試算した購入価格にてK氏と折り合い、当社で事業化することを決意しました。
取得後、土地家屋調査士に同行をお願いし、測量及び通行掘削承諾書計10軒、全員のもとへ訪問し、現状と今後の計画を説明しました。
一度目の挨拶時には全員が親身な対応をしてくれます。しかし二度目以降、「建物を建てても良いし、道路を通っても良いが、書類に判子は押さない」と言われます。
公道に接する私道入口側2軒を中心に口裏を合わせているようです。足繁く通い話を聞いていくうちに、その原因が分かりました。
前年に本件不動産の道路対面が新築工事を行った際、周辺住民の許可を得ずに工事を開始しました。工事中の養生は粗末で、勝手に井戸などを撤去し、工事後の修復や舗装の後処理も悪かったようです。
時間をかけて当社の意向を伝えましたが、直近の工事会社の対応の悪さを忘れられないようです。3名から書面への署名と押印を反対されたので、全員から取得することは断念しました。
- 建てることに反対ではない、ということを私道所有者全員から口頭で確認
- 建物が建ち上がるまで当社が全責任を負う
という条件に、その後販売活動を開始します。
【結果】
何かしらの難がある物件は、抵抗や警戒されてしまうものです。本件は文京区という都心部で、潜在的な需要がある地域であることが幸いでした。
当社は周辺流通相場の約7割程度でK氏から購入しました。測量自体は完了しており、通行掘削承諾については、書面がなく口頭で了承を得ているという条件で、流通相場の約9割強という、やや割安感のある価格帯で売却できました。
【対策】
取り引きを行ううえで当事者は少ないほど良く、一者であることが望ましいです。また、増えれば増えるだけトラブルの可能性が増します。
測量は、点や線で接する第三者と資産の境界を決める作業を行うので、トラブルは尽きません。主にトラブルの原因は土地が狭くなることなので、自身の土地が狭くなるような譲歩をすることによって解決できます。
その際、
- 極端に不整形な地型にならないか
- 法規制による敷地の最低限度に抵触しないか
などの注意は必要となります。
通行掘削承諾書は建築基準法外のことなので、法律面では書類がなくても新築することは可能です。また、仮に取り交わしていたとしても後日白紙にしたいと申し出られ、撤回をお願いするも立場が弱く押し切られてしまった、という話を聞いたことがあります。白紙にされる可能性があると取得自体に意味を見出しにくいですが、取得できなければ非常に大きなハードルとなります。
売却する側である場合、費用は先の持ち出しになりますが、時間を要する測量は前もって行い、境界を確定させておきしょう。
その際、前面が私道である場合は、私道の所有者を確認し測量と同時に通行掘削承諾書の取得に着手すべきです。
測量や土地の境界等に関して、当社はまず土地家屋調査士に相談しています。