本記事は、安田正氏の著書『デキる人はこっそり使ってる! 人を動かす20の質問術』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています
お悩み 相手があからさまに呆れている
今日は、毎月恒例の新商品開発会議の日。社長をはじめ、上役たち一同が会議室に集っています。
本日議題に上っているのは、ひとり暮らしを始めたばかりの大学生や新社会人をターゲットにした、リーズナブルな家電シリーズです。
ひとしきりプレゼンがすんだあたりで、司会が「何か質問はありますか?」と出席者に尋ねました。
毎回、会議ではほとんど発言をしないあなたは、今日くらいは存在感を見せておこうかな……と、手を挙げます。
「ひとついいでしょうか?どうも見た目が安っぽいんですけど、もうちょっと高級感を出したほうがいいんじゃないでしょうか?」
あなたが発言したとたん、会議室にシラーッとしたムードが漂います。
司会者に至っては、あからさまに呆れ顔。 ……あなたの発言には、一体どんな失言があったのでしょうか?
リサーチ不足のまま質問していませんか?
質問を受けた相手があからさまに呆れた顔を見せるのは「的外れな質問をされたとき」です。言い換えると「頭の悪い質問をされたとき」です。
以前、テレビで次のようなシーンを見たことがあります。
このところ、ガンの新しい治療法として「中性子捕捉療法」が注目されていますよね。
これは「ピンポイントでガン細胞だけを破壊する」という中性子の性質を利用した新しい放射線治療で、これまでの放射線治療の「ガン細胞以外の細胞まで破壊してしまう」というデメリットを解消したものです。
つまり、より患者さんへの負担が軽くなるようにと研究開発された治療法なのです。
この「中性子捕捉療法」の学会発表にやってきた記者の中に、こんな質問をした人がいました。
×「それは、安全な治療法なんですか?」
……テレビには映っていませんでしたが、冷たい軽蔑のまなざしを向けてくる学者先生の姿が目に浮かぶようですね。
そもそもが、患者への安全性を高めるために誕生した新療法なのですから、「安全なんですか?」という質問は的外れもいいところでしょう。
冒頭のエピソードでの、あなたの質問も同じこと。
会議で話題になっているのは、新入生や新社会人、つまりあまりお金を持っていない若い人をターゲットにした「リーズナブルな家電」です。
「高級感を出したほうがいいんじゃないですか?」というあなたの質問は、そもそもの商品コンセプトとズレている可能性があるわけです。
●的外れな質問をすると「あなたの価値」が下がる!
このように、的外れな質問をしてしまうのは、ずばり「勉強不足」が原因。
例えば、きちんと「中性子捕捉療法」について下調べをしていれば、次のような質問がいくらでも出てくるでしょう。
○「放射線の被曝量は今以上に少なくできるのでしょうか?」
予習で得た知識がベースになった質問は「あなたの専門分野に対して私は深い関心を持っています」という相手へのアピールにもなります。
勉強熱心な相手に対しては、答えるほうも熱が入ること間違いなしです。
新商品開発会議にしても、思いつきではなく、リサーチに根ざしたこんな聞き方だったら、周りの反応も違ったことでしょう。
○「価格を抑えながらも、ちょっとエッジが効いたような、もっと若い人の感性に訴えたデザインにすることはできないんでしょうか?」
リサーチ不足な質問をされると、聞かれた人は質問の内容にイラッとする以上に、質問者に対する信頼を失います。
要は「答える価値のない相手だ」と思われてしまうわけです。
答える価値のない相手の質問に答えたりすれば、自分の価値まで下がってしまうことになりかねないというわけで、こうなると次に何を聞いても答えてもらえなくなるかもしれません。
リサーチ不足な質問は、相手にとって失礼なだけでなく、本当に大切なことが聞けなくなるという危険をはらんでいます。
ネットで調べれば簡単にわかるようなことを聞くのも、リサーチ不足の証拠ですから、十分に注意してくださいね。
●「キーワード活用」で相手にアピールせよ!
「質問をする前に十分にリサーチする」ことは大前提ですが、そのうえで、あなたが「答える価値のある人間である」ことを相手にアピールするための、ちょっとしたテクニックを伝授しましょう。
いちばん簡単なテクニックは「キーワード活用」。
相手の話の中に出てきた「キーワード」を、質問の中に自然に取り込むことで「自分なりに、あなたの話をかみ砕いて理解していますよ」とアピールすることができます。
例えば、小池百合子東京都知事はカタカナ英語好きとして知られていて、「ワイズスペンディング」なんていう言葉をよく使っていますね。
それに対して「ワイズスペンディングとは、具体的にはどんな工夫のことを言うのでしょうか?」などと質問するイメージです。
「ちゃんと自分の話を理解しているな」と相手に思わせる効果大です。
また、最も大切なのは「これぞ!」という質問を「一回」、ズバンと相手にぶつけること。
首相会見などでの記者の質問を見ていると、「一社につき一問」と前もって言われているのにもかかわらず、平気で二問くらい続けて質問する記者たちが多くてびっくりします。
そんな中、国会中継で久しぶりに「いい質問」を見ました。
加計学園問題に揺れる国会で、問題となった「文書」の出どころが問われる中、ある自民党議員が、参考人である文部科学省元事務次官に次のような質問をしたのです。
○「この文書は、参考人が流出元なのではないかと報道されているのですが、まさかそんなことはないですよね。イエスかノーでお答えください」
ずばり「これはあなたのマッチポンプなのか?」と正面切って聞いているわけです。しかも「イエスかノー」なので、相手には逃げ場がありません。
ところが参考人は「私はお答えを差し控えさせていただきます」と逃げました。
これは「イエス」と答えているのも同然ではないでしょうか?
相手を的確に追い込む、見事な質問でした。
つくづく、いい質問をする人は頭が良く見えるものだなと思います。
質問に答えるより、いい質問をするほうが周りに強く自分の存在をアピールできるのです。
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