「最近、ESG投資という言葉を見かける機会が増えてきた」と感じている人は多いのではないでしょうか。ESG投資は、いまや投資・資産運用のトレンドワードともいえますが、実は100年以上の長い歴史をバックボーンに持つ考え方です。歴史を知ることでESG投資の本質が理解しやすくなるでしょう。本記事では、ESG投資の誕生~現在までの流れを解説します。

ESG投資の意味は?具体的な企業活動例は?

ESG投資
(画像=vitalii-vodolazskyi/stock.adobe.com)

ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)といった3つのキーワードの頭文字を組み合わせた言葉です。これら3つの数字では表しにくい非財務情報を重視する企業に投資するのがESG投資で、評価方法にはさまざまな指標があります。ESGそれぞれのキーワードに関わる企業活動はさまざまです。一例では、以下のようなものが挙げられます。

・環境:気候変動を軽減したり生物多様性を守ったりする活動
・社会:ダイバーシティ
・ガバナンス:少数株主保護など

ESG投資が広まったのは2006年に国連がPRIを提唱してから

「ESG投資」がはじまったのは、2006年に国連がPRI(Principles of Responsible Investment−責任投資原則)6原則をつくりESG投資の重要性を提唱してからです。しかし専門家の間では「ESG的な考え方は1920年代からあった」という見方もあります。どのような流れを経てESGが生まれ発展してきたのでしょうか。その源は1920年代のアメリカです。

ESG的な考え方のはじまり:その歴史は100年?300年?

ESG投資の原型となっているのはSRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)です。SRIは、投資対象の企業を選ぶときに財務面だけでなく「社会的責任を果たしているか」を考慮することをいいます。またSRIは、1920年代のアメリカでキリスト教系財団が資産運用を行うときにタバコやアルコール、ギャンブルに関わる企業を投資対象から除外したことが起源です。

これらは、キリスト教の教義に反していることから倫理的に除外されたといわれています。ただこのようないわゆる倫理的投資は、メソジスト運動の指導者ジョン・ウェスレーが「商業活動をする中で人を害してはならない」と提唱した事例などをもとに18世紀まで遡るという説もあります。ESG投資的な考え方のはじまりという観点で見ると1920年代を起点にすれば約100年、18世紀を起点にすると約300年の歴史があるといえるでしょう。

1960年代:アメリカ国民の間でSRIが大きな潮流に

1960年代に入ると宗教的倫理観とはまったく別の観点からSRI・ESG的な考え方が注目されるようになります。1960~1970年代のアメリカの大きな出来事といえばベトナム戦争です。ベトナム戦争の火種のもとは、親米派だった「南ベトナム」とその独裁政権を打倒するために結成された南ベトナム解放民族戦線を支援する「北ベトナム」の戦いでした。

1965年、アメリカ軍が本格介入して北ベトナムに大規模な空爆を開始。アメリカ軍は、圧倒的な戦力を持っていたものの苦戦しベトナム・アメリカ両国の大勢の犠牲者を出しました。アメリカでは、ベトナム反戦運動の高まりの中で軍事関連企業の株式売却や株主提案が盛んに行われるようになっていきます。

「社会的な悪影響を及ぼす企業は排除する」という考え方は、SRI・ESGに極めて近いといえるでしょう。特にナパーム弾や枯葉剤などの兵器をアメリカ軍に供給していた化学メーカーは社会的に問題視されました。ナパーム弾は、主燃焼材のナフサを用いたゼリー状の油脂焼夷弾です。建物や人に付着すると水をかけても消火できない極めて危険な兵器といえるでしょう。

また兵士の隠れ場となる森林の葉を枯らす作用のある枯葉剤は、異常児 出産や先天性欠損の原因になったとされています。

1990年代:環境問題をきっかけにSRIが世界に浸透

1990年代はSRIが本格化する時期です。SRIの考え方が世界中に広く浸透していきました。その原動力になったのは、オゾン層破壊など環境問題への意識の高まりです。環境や社会問題に配慮した企業へ投資する考え方は、現在のESG投資とほぼ同じといえるでしょう。日本でも個人投資家向けの「エコファンド」や「SRIファンド」などの投資信託が発売され注目を集めました。

ただ日本では「環境問題を重視して投資をしても儲からない」という考え方もまだあったのです。「環境問題や社会的問題を意識しながら投資をする人」「こういった考え方を気にせずリターン重視で投資をする人」が二分化していた時期といえます。

2000年代:世界金融危機をきっかけにESGの大切さを再認識

1920年代から醸成されてきたSRIがESGにバージョンアップしたのは2006年のことです。国連が世界中の機関投資家に対してESGの考え方を投資に組み込むPRI (責任投資原則)を提唱したことが起点になりました。その後、さらなる環境問題の深刻化、サプライチェーンの労働問題、大企業の不祥事などが起こるたびにESG投資の大切さが再認識されていったのです。

長期投資の観点から見るとESGを重視している企業は結果的にリスクが軽減されやすいことが徐々に理解されていきました。また2008年に発生した世界的な金融危機によってESG投資がさらに意識されるようになっていきます。この危機が発生した要因には、ESG投資の対極にある短期的なリターンの追求がありました。

投資家たちは、金融危機の反省をもとに長期投資・持続的な成長・安定したリターンをセットで考えるようになっていったのです。

現在:ESG投資は巨額を運用するユニバーサル・オーナーの主流に

その後、ESG投資の考え方は、巨額の金額を運用する機関投資家やユニバーサル・オーナーの投資活動のスタンダードとなりつつあります。世界最大級の年金基金を運用する日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もそのうちの一つです。GPIFがPRIに署名したのは2015年のこと。2020年3月末時点で約151兆円という全資産のうちESG指数に連動する運用資産額は約5兆7,000億円です。

また国際開発金融機関が発行するグリーンボンドなどへの投資額は4,000億円。GPIFのESG投資規模は、世界的に見えても際立っています。GPIFでは100年単位のスパンで長期運用を進めており、まさにESG投資と相性のよい投資機関といえるでしょう。同様に50年、100年単位で運用を考える世界中の年金基金や保険会社がESG投資を推進しています。日本でも、ESG投資を重視する運用会社が着実に増加傾向です。

そして:個人投資家の間でもESG投資の認知が広がる

日本国内の個人投資家の間でもESG投資の人気が高まっています。特に新型コロナ感染以降に持続可能性や環境問題への意識が高まったことからESG投資が注目されるようになりました。世代的には1980年~2000年代はじめに生まれたミレニアル世代と親和性が高く、個人投資の新たな潮流になりつつあると考えられます。

ESG投資は一時のトレンドではない

本稿では、約100年(または約300年)におよぶ SRI・ESG投資の歩みを追ってきました。近年は、ESG投資が脚光を浴びているため、一時的なトレンドと感じている人もいるかもしれません。しかし歴史を振り返ってみるとESG投資の考え方は、長い年月を経て世界中の投資家のコンセンサスを得ながら徐々に形成されてきたことが分かります。

そのためESG投資は一時的なトレンドで終わるようなものではありません。過去、現在の流れを受け継ぎながら、さらに時代に合った価値観に進化していく可能性が高いといえます。投資家であればESGと無縁でいられない……そんな時代がやってきそうです。(提供:Renergy Online


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