米国大統領選挙は混乱したもののジョー・バイデン氏が新大統領に選出されました。バイデン氏は、トランプ政権によって離脱を決めたパリ協定に、米国が再び参加する意向を早くから表明しています。本記事では、新政権になって米国の気候変動対策はどのように変わるのか、日本への影響も合わせて考えていきます。

バイデン新大統領は気候変動対策に前向き

気候変動対策
(画像=ekim/stock.adobe.com)

2020年12月14日、米国大統領選挙で次期大統領を正式に選出する大統領選挙人の投票が全米各州で行われ選挙人投票の結果バイデン氏が過半数を獲得し同氏の勝利が確定しました。これによりバイデン派とトランプ派の対立で米国を二分した争いは、収束に向かう見通しです。COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)加盟各国にとっては、パリ協定へ復帰の意向を示していたバイデン氏が勝利したことは理想的な結果といえるでしょう。

CNNの報道によると、バイデン氏は気候変動対策として具体的に10項目の政策を挙げています。その中からエネルギーに関する3つの政策を確認してみましょう。

・石油やガスを生産する際のメタン汚染に制限を設ける
国立環境研究所の調べによると、2017年に大気中のメタン濃度が1750年ごろに起きた産業革命より150%も高くなっています。メタンは二酸化炭素より強い温室効果を持っていますので制限を設ける対策は必要でしょう。

・100%クリーンエネルギーで二酸化炭素(CO2)排出ゼロの乗り物を普及させる
米国の主要産業である自動車が、将来は電気自動車中心の社会に転換することを後押しする政策といえそうです。さらに大気浄化法の施行を進め、交通機関による温室効果ガスの排出量も削減します。小型車や中型車の新車は今後すべて電動化される予定です。

・電化製品やビルの効率性に新たな基準を設け、排出量や消費者のコストを削減する
まず米国政府の建物や施設をより効率的で、気候変動に対応したものにすると表明しています。

これらの政策は省庁間を横断する取り組みになるだけに、実現するかどうかはバイデン新大統領の政治手腕にかかっているといえそうです。

180度転換!米国がパリ協定復帰の意向

米国の気候変動対策で最も注目されるのが、トランプ政権で離脱したパリ協定への復帰です。米国は、中国に次いで世界で第2位の二酸化炭素排出国です。バイデン氏は大統領選挙中もパリ協定へ復帰の方針を掲げており、復帰は想定内のシナリオといえます。パリ協定は、2015年12月にパリで開催された「第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)」において採択されました。2020年以降の温室効果ガスにおける排出削減など、 新しい国際的な枠組みとして採択された協定です。

この協定で世界各国は「世界の平均気温上昇を産業革命前と比べ、2度より十分低く保ち1.5度に抑える努力をする」という取り決めで合意しています。WWFによると気温上昇を2度未満に抑えるには、2075年ごろには脱炭素化することが必要です。努力目標の1.5度に抑えていくためには、2050年までに脱炭素化を達成しなければいけません。

先にCOP3で締結された京都議定書の後継ともいえる協定です。歴史上はじめてすべての国が参加する公平な合意でもあります。その重要な協定からトランプ政権で米国が離脱したのは、国際的にも批判を浴びることになりました。ただしパリ協定への復帰は、実はそれほど難しいことではありません。パリ協定への参加は大統領令で再加入を通告すれば、協定の加入規定に沿って30日後に正式復帰が可能です。

英国のジョンソン首相からは、2021年11月に英国北部で開催予定の「第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」への招待を受けています。米国が180度方針を転換したことで今後は再び世界が一致してパリ協定の目標達成に向かって進んでいくことになるでしょう。

バイデン政権は脱炭素へ2兆米ドル投資か

バイデン政権は、脱炭素に関する投資に2兆米ドル(1米ドル105円のレートで210兆円)を投入する意向を示しています。2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする目標を掲げ電気自動車や再生可能エネルギー、水素利用などを促進する方針です。バイデン氏は、目標より早く2035年までに発電段階での二酸化炭素排出を実質ゼロにすることを表明しています。

ただし一つ危惧されているのが上院において民主党と共和党の議席が50議席前後で拮抗していることです。米国には、フィリバスターと呼ばれる議事妨害ができるため、極端に民主党に寄った政策を通すのは難しいといわれています。安定して法案を通すには60票が必要となるため、かなり高いハードルを超えなければなりません。バイデン政権にとっては厳しい政権運営が続くことが予想されます。

一方、国内の動きでは2020年12月15日、菅政権が総額21兆8,353億円の追加歳出を組み入れた第3次補正予算案を閣議決定しました。この中で注目されるのが2兆円の「グリーン基金」を盛り込んでいることです。NHKの報道によると、菅首相がグリーン分野の研究開発を支援する2兆円の基金を創設する狙いは以下の通りです。

「政府が率先して支援することで民間投資を後押しし、240兆円の現預金の活用を促し、ひいては3,000兆円ともいわれる世界中の環境関連の投資資金をわが国に呼び込んで、雇用と成長を促す」
出典:NHK

バイデン政権のエネルギー対策の日本への影響は?

では、バイデン政権のエネルギー対策によって日本にはどのような影響があるのでしょうか。脱炭素の目標を達成するためにバイデン氏は原発を活用する方針も示しています。バイデン氏は、原発を「クリーンエネルギー」の柱にして小型で安全な新型炉の開発も進める意向です。日本へも脱炭素に向けて原発補強策を求めてくる可能性があります。

日本は、米国とともに原発推進の国際的枠組みを主導してきました。しかし原発事故の後遺症が依然として続いており反原発の世論を考えると難しい舵取りを迫られそうです。もう一つ米国への主力輸出品となる自動車についても懸念される要素があります。なぜなら米国よりも環境規制の緩い地域からの輸入品に新たな税金を課すことを主張しているからです。

課税されることになれば、日本でも自動車など輸出品の二酸化炭素排出量を生産の段階で削減する取り組みを迫られる可能性があります。

SDGsのゴール13達成には追い風か

バイデン政権の誕生は、SDGsのゴール13「気候変動に具体的な対策を」という目標達成には追い風になるでしょう。中国とともにこれまで気候変動対策に消極的だった米国が積極的にCOPにかかわってくれば、各国の政策にも好影響を与えるかもしれません。気候変動対策は待ったなしの状況です。バイデン政権に変わった米国がパリ協定に復帰することで再び世界が脱炭素の目標に向かって一致できるかが注目されます。

2020年9月には、中国が2060年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする目標を表明しています。中国にリーダーシップをとられるのを避けたい米国は「自らが世界のリーダーであることを誇示する立場をとらざるを得なくなる」という見方もあります。パリ協定の目標達成に向け今後も世界各国はクリーンエネルギーの普及に向け政策を策定・推進していく可能性があるでしょう。

ただし「原発にどの程度依存するか」は、国によって温度差があるのが実情です。バイデン政権も2050年に向け再生可能エネルギーを推進することを政策に掲げています。日本でも太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーがさらに普及することが期待されます。(提供:Renergy Online


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