本記事は、ジェラルド・C・ケイン氏、アン・グエン・フィリップス氏、ジョナサン・R・コパルスキー氏、ガース・R・アンドラス氏の著書『DX(デジタルトランスフォーメーション)経営戦略』(NTT出版)の中から一部を抜粋・編集しています

不確実な未来のためのデジタル戦略

デジタルトランスフォーメーション,金融シナリオ
(画像=PIXTA)

4年に及ぶ研究で浮き彫りになったのは、明確で一貫性のあるデジタル戦略が、企業のデジタル成熟度の唯一かつ最大の決定要因だということだ。自社がデジタルに成熟していると回答した人の80パーセント以上が、会社には明確で一貫性のある戦略があると主張した。

これに対し、もっとも成熟していないと回答した人で、自社にそうした戦略があるとしたのは15パーセントにとどまった(図4-1)。この結果から疑問が浮かぶ──デジタル戦略とは具体的にどのようなものなのか?

2-1
(画像=『DX(デジタルトランスフォーメーション)経営戦略』より)

デジタル戦略を主題にした本は何冊も出版されており、その多くが良書である。MITのジョージ・ウェスターマンとアンドリュー・マカフィー、キャップジェミニ・コンサルティングのディディエ・ポネによる『デジタル・シフト戦略』(ダイヤモンド社)は、大企業が戦略的優位を獲得するためにどのようにテクノロジーを利用するかについて、よくまとまっている。彼らは「デジタルマスター」という用語で、この変革を表現している。

MITのマカフィーとエリック・ブリニョルフソンは共著で『プラットフォームの経済学』(日経BP)を出版し、ベストセラーになった。これは、人工知能、ソーシャルメディア、ブロックチェーンがどのようにビジネスに新しいチャンスを生み出すかについて述べている。

コロンビア大学のデイヴィッド・ロジャーズは、著書『The Digital Transformation Playbook』で、リーダーは思考を更新すべきだと述べた。デジタルの威力は、顧客、競争、データ、イノベーション、価値観という戦略の5つの主要領域をかき乱していると、ロジャーズは言う。

これはマイケル・ポーターのファイブ・フォースを想起させるもので、最終的には企業がその価値命題をデジタル時代に適応させられるような、新しい考え方がデジタルディスラプションには求められる、とロジャーズは主張した。ボストン大学およびMITのマーシャル・ヴァン・アルスタインと彼の同僚による『プラットフォーム・レボリューション』(ダイヤモンド社)は、プラットフォームビジネス向け戦略に関するものだ。

彼らはフェイスブック、アップル、アマゾン、マイクロソフトのようなプラットフォームビジネスを、製品を市場に売り出すという典型的なサプライチェーン型のコンセプトに頼る、従来の流通経路型ビジネスと比較している。プラットフォームビジネスの経済ルールが、流通経路型のビジネスといかに異なるか、概略を示している。

学部生向け教科書だが、ジョン・ギャラガーの『Information Systems: A Manager’s Guide to Harnessing Technology』もお薦めできる。同書は、おそらくもっとも着実に最新知識を取り入れているデジタル戦略の考察だからだ──ギャラガーは毎年資料を更新しており、そのPDFファイルはオンラインで簡単に入手できる。

ギャラガー(本書の著者の1人であるケインのボストン大学の同僚)は、デジタルビジネスの従来の見方にフォーカスし、グーグルやアマゾンなどの特定の企業が、なぜ、どのようにビジネス環境を作り変えたのか考察している。

前述した書籍はどれも洞察にあふれ、優れた実績と高い専門性をもつ著者や著者チームにより、よくまとめられている。デジタル戦略への理解を深めようとするマネジャーに役立つだろう。以上の書籍には共通点がある──もっぱら過去を振り返って書かれていることだ。

デジタル戦略の成功事例を検証し、その成功の理由を分析し、マネジャーが従うべき成功原則を示している。このような回顧的教訓は、アマゾンやフェイスブック、ザラやグーグルが直面したビジネスの問題にあなたの企業が直面しているときには、とても貴重な教訓となる。

ケーススタディに示された戦略的課題とチャンスが自社でも同じなら、マネジャーはこの「学んだ教訓」から間違いなく恩恵を受けられるだろう。ちなみに、デジタル戦略に関する多くの本が世に出ているが(アマゾンは数千冊リストしているようだ)、わたしたちはその大半について、とくに核心に触れる内容だとも、また役に立つとも思っていない。

あなたの企業がデジタルディスラプションによって直面する戦略的課題やチャンスの多くは、企業や業種、地理、競争環境によって微妙に異なるだろう。この微妙な差異は共通点を凌駕し、結果としてデジタル戦略を「押し上げて動かす」機会は大幅に制限される可能性がある。この問題はデジタル戦略に限らない。マネジメントに関する文献には、成功した企業の研究と、それを見習うように熱心に説く記事や書籍であふれている。

残念ながら、このような成功を収めた企業のなかには、業績不振に陥っているところもある。こうした戦略の多くが当初うまくいく主な理由は、経営陣が他者よりも前にチャンスや課題を把握するからではないかと、わたしたちは考えた。もちろん、情報に基づいた意思決定をするために、リーダーは他者による過去の成功と失敗を検証する必要があるという主張には同意する。

だが、デジタル戦略構築におけるより大きな課題は、それぞれの状況に固有の戦略的動きを積極的に考え、見つけ出すことだとわたしたちは考える。あなたは最後の戦いをしたいのではなく、次の戦いに備えたいはずだ。

組織が直面する重要課題は、変化する環境に適応することなので、企業のデジタル戦略は、環境の進化に伴い必然的に進化する。したがって、デジタル戦略は必ずしも、組織が頑なに固執し、何年もかけて実行する、ただ1つの長期計画とは限らない。むしろ、組織を目標に近づける短期構想を展開し、その後、短期構想から学んだことに基づいてその目標の性質を再検討するという、デジタルビジネスの全体的目標を明確にする再帰的プロセスなのだ。

DX(デジタルトランスフォーメーション)経営戦略
ジェラルド・C・ケイン(Gerald C. Kane)
ハーバードビジネススクール客員研究員。『MITスローンマネジメントレビュー』誌のデジタルリーダーシップのゲスト編集者、『MISクォータリー』誌上級編集者。世界中の大学生、大学院生、エグゼクティブに、企業がデジタルディスラプションにいかに対処するべきか教えている。
アン・グエン・フィリップス(Anh Nguyen Phillips)
組織のリーダーシップ、人材、文化へのデジタルテクノロジーの影響の研究者。デロイトコンサルティングLLPでビジネスチームとテクノロジーチームを10年以上率いた後、独立。
ジョナサン・R・コパルスキー(Jonathan R. Copulsky)
ブランド、マーケティング戦略、コンテンツマーケティング、マーケティングテクノロジーなどで35年以上の実績をもつマーケティング理論家、成長戦略家。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院などで教鞭もとる。
ガース・R・アンドラス(Garth R. Andrus)
デロイトコンサルティングLLPプリンシパル。デロイトコンサルティング取締役会メンバー。「デジタルDNAサービス」を主導。企業がデジタル時代に効率的に仕事を組織し、運営し、行動することを支援している。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)