本記事は、ジェラルド・C・ケイン氏、アン・グエン・フィリップス氏、ジョナサン・R・コパルスキー氏、ガース・R・アンドラス氏の著書『DX(デジタルトランスフォーメーション)経営戦略』(NTT出版)の中から一部を抜粋・編集しています

デジタル戦略を構築するために異なる考え方をする

ステップ
(画像=PIXTA)

デジタル戦略を構築するには、実行に何年も要する遠大な構想を考え出す、賢くテクノロジーに精通した大勢の人々が必要だとは限らない。成功を収めた構想はビジネスの新たな可能性を生み出すことが多いので、デジタル戦略の構築は、3つのステップを繰り返す再帰的プロセスとなる。

・異なる見方をする。このステップでは、現在の環境で可能な行動をマネジャーが明らかにする。マネジャーは技術と組織の可能性のために環境を精査し、組織に最大の好影響を与える行動を1つ決定する。最大の影響を与える行動とは、効果的なデジタル戦略を妨げる障壁を壊すことかもしれない。マネジャーが定めたその行動は、プロセスの次のステップを推進する戦略目標となる。

・異なる考え方をする。前段階の短期構想から、1つの戦略目標が現れるかもしれないし、現れないかもしれない。もし現れた場合は、この目標に向かって努力したら新たな可能性が見込めるかどうか、リーダーが検討する必要がある。戦略目標が確認できなかった場合は、リーダーは時間をとってその理由をつきとめ、その理由がデジタル戦略構築のその他の取り組みにどのように影響するか、見きわめる必要がある。目標が確認できるまでこのステップを繰り返す。

・異なる行動をとる。このステップでは、戦略目標に向かって有意義な進展を遂げられるように、組織は6週から8週の構想を計画する。この短い期間で組織が異なる働き方ができるように、かなりのリソースがテコ入れされる。

・繰り返す。リーダーは最終段階で深めた知識を受け入れ、この新知識に照らして組織のチャンスを再評価する。このサイクルを繰り返す。

デジタル戦略を練るこのプロセスは、地図とコンパスを使ってある場所からまた別の場所へと行く、オリエンテーリングを思い出させる。参加者はその過程で常に、周囲の特徴から現在の位置を確認し、その位置に基づき目的地まで最良の道筋を計画する。しかし、オリエンテーリングとの大きな違いは、デジタル戦略ではめざす目標が絶えず動いているという点だ。したがって、実のところ効果的なデジタル戦略とは、この進化する目標に向かって組織を動かし続ける、進行中の戦略化プロセスのことなのである。

長期的視点で考える……さらに長期的に考える

デジタル戦略を絶えず再考する必要性は、組織を短絡的思考にとどめることにはならない。実はまったく逆だ。どこをめざしているのかよく理解していなければ、短期目標はわたしたちを間違った方向に導く恐れがある。デジタル戦略について考えるとき、ほとんどの企業は十分先のほうまで見越していない、とデロイトのジョン・ヘーゲルは嘆く。

企業はデジタル戦略のタイムフレームとして、たいてい1年から3年を設定するが、この短期目標に加えて、10年から20年のタイムフレームを用いるべきだと、ヘーゲルは提唱する。わたしたちの調査で、自分の会社はデジタル戦略をこのような幅広い期間で考えていると答えたのは、回答者のわずか2パーセントで、5年かそれ以上を考えていると答えたのは10パーセントだった。

このような長期間の戦略計画を立てるのはおかしいと思われるかもしれない。今後数年間でどのようなデジタルトレンドが席巻するのか、正しく予測できる人はほとんどいないのに、今後数十年ならなおさらだろう。ITバブルさえ起きていない1990年代半ばに、いったい誰がモバイルやソーシャルメディアのツール、分析ツールの現状を予測できたというのだろうか。

だが、具体的結果のなかには──こうしたトレンドによってどの企業が勝者となるか、など──予見できないものもあったとはいえ、当時始まったトレンドは、概して予測可能な道筋に従い展開してきた。予想より少ない数の企業がこのトレンドから恩恵を受けた一方で、多くの企業はこのトレンドにより破壊された。

このような長期的視点が必要だと認識するリーダーは、ますます増えている。たとえば、ウォルマートがあれほど長期的なデジタル戦略を構築していると知り、わたしたちは驚いた。ウォルマートは、デジタルトランスフォーメーションに今取り組む必要があることを理解している。

10年後に顧客が望むものは、現在望むものとはすっかり変わっているからだ。デジタル戦略を構築する際に5年かそれ以上先に目を向けている成熟段階の企業は、初期と発展段階の企業のおそらく2倍ほどになるだろう。この長期的ビジョンをもてば、リーダーは未来像との関連から現在の環境が見えやすくなる。未来の環境に備えて異なる行動をとるために、着手すべきもっとも生産的な方法をマネジャーが見つけやすくなる。だが、企業はこのプロセスにどのように取り組んだらいいのだろうか?

エモリー大学の経営学者ベン・コンシンスキーは、まず「未来をリバースエンジニアリングする」ことから始めるよう組織に勧める。つまり、現在の技術で可能になる次の戦略的ステップを検討するのではなく、未来のテクノロジーのインフラストラクチャーがどのようなものか思い描いてから、その未来にたどり着くために次のステップの構想を練るといい、と言っているのだ。さもなければ、短期的構想はわたしたちを間違った方向に導くかもしれない。

DX(デジタルトランスフォーメーション)経営戦略
ジェラルド・C・ケイン(Gerald C. Kane)
ハーバードビジネススクール客員研究員。『MITスローンマネジメントレビュー』誌のデジタルリーダーシップのゲスト編集者、『MISクォータリー』誌上級編集者。世界中の大学生、大学院生、エグゼクティブに、企業がデジタルディスラプションにいかに対処するべきか教えている。
アン・グエン・フィリップス(Anh Nguyen Phillips)
組織のリーダーシップ、人材、文化へのデジタルテクノロジーの影響の研究者。デロイトコンサルティングLLPでビジネスチームとテクノロジーチームを10年以上率いた後、独立。
ジョナサン・R・コパルスキー(Jonathan R. Copulsky)
ブランド、マーケティング戦略、コンテンツマーケティング、マーケティングテクノロジーなどで35年以上の実績をもつマーケティング理論家、成長戦略家。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院などで教鞭もとる。
ガース・R・アンドラス(Garth R. Andrus)
デロイトコンサルティングLLPプリンシパル。デロイトコンサルティング取締役会メンバー。「デジタルDNAサービス」を主導。企業がデジタル時代に効率的に仕事を組織し、運営し、行動することを支援している。

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