普段の生活環境の中で、日本国内におけるエネルギー自給率の現状を知る機会はなかなかありません。しかし、日本のエネルギー自給率の現状は早急に改善しなければならない、深刻な課題の一つです。

エネルギー自給率とは

各国のエネルギー自給率と方針 重視される理由と日本の事情
(画像=ipopba/stock.adobe.com)

エネルギー自給率とは「電気などのエネルギーを国内だけでどれくらい生産し確保できるか」の割合です。単にエネルギーを作るだけでなく「原料となる石油や石炭などを国内で調達できるか」も含みます。エネルギーの生産や原料調達が国内で行えないと、安定してエネルギーを供給することが難しくなり、企業活動や私たちの日常生活も不安定になりかねません。

例えば以下のようなことが起こり得ます。

・工場で生産が滞ってしまう
・病院で十分な治療が施せない
・日常生活で停電が頻繁に起きて、照明や冷暖房、調理器具などが満足に使えない

エネルギー自給率を高めて安定供給することは、十分な経済活動や日常生活を守るために必要です。

エネルギー原料を輸入に頼るリスク

日本は天然資源が限られているため、エネルギーの原料を輸入に頼らざるを得ません。輸入は、相手国の都合や国際情勢に左右されやすい傾向です。実際に石油や天然ガスの生産量で米国が1位になったときは価格が大きく下がり、その後OPEC(石油輸出国機構)による石油減産があり価格が再び上昇する事態がありました。

価格が下がることはまだしも急激に上がってしまうと、輸入や生産の計画が立てにくくなり、エネルギー供給に悪影響を及ぼします。他にも国家間の紛争や自然災害など、日本側では制御不能な事態によって、供給が滞る危険性も懸念材料の一つです。エネルギー資源を輸入に頼ると安定したエネルギー供給が難しく、常にリスクを抱えながら経済活動や日常生活を送ることになります。

このように自給率を高めることは、日本のエネルギー供給を安定さえるための大きな課題なのです。

各国のエネルギー自給率と方針

日本をはじめとした他4カ国のエネルギー自給率と方針を見てみましょう。

日本

日本のエネルギー自給率を高めるうえで最も実用化され安定していた原子力は、2011年の東日本大震災による原発事故の影響で、多くが2021年1月時点でも停止中です。そのため震災前に20%前後だったエネルギー自給率は、震災後に6%まで減少しています。その後の原子炉再稼働や再生可能エネルギーの普及などにより、2017年のエネルギー自給率は9.6%まで回復しました。

さらに2018年には11.8%と上昇傾向です。しかしまだ安定供給できるレベルではありません。原料を輸入に頼るしかない現状に変わりはなく、原子力の代替となる国内生産可能なエネルギー源を普及させることが急務です。

米国

米国では2000年代後半に、シェールと呼ばれる岩石層に含まれた原油や天然ガスを採掘する技術が開発され、一気にエネルギー原料の生産が増えました。このためエネルギー自給率は大きく上昇し、2018年時点で97.7%と非常に高い自給率を誇っています。今後も維持されれば安定した経済成長や生活の基盤となるでしょう。

英国

英国は、1980年ごろに北海で原油・ガス田を開発し大量のエネルギー原料を確保しました。安定してエネルギーの国内生産ができるようになり、一時は自給率が100%を超え原料の輸出まで行っていました。その後採掘量が減り自給率も下がりましたが、それでも2018年で70.4%と高い水準を維持しています。

フランス

フランスは、7割近い電力を原子力で発電しています。原子力発電は、国内にある燃料だけで何年間も発電できるため、自給率を高めるのに効果的なエネルギー源です。2018年のフランスでは、自給率が55.1%と米国や英国と比べると平凡に見えるかもしれません。しかし原子力が大半を占めるため、温室効果ガス削減効果は非常に高く、その点に注力していることが分かります。

ドイツ

ドイツの2018年時点における、エネルギー自給率は37.4%です。数字だけ見ると他国から劣りますが、注目すべきは国内で作られるエネルギー源の変化です。以前は、石炭の火力発電や原子力がメインでしたが、近年は再生可能エネルギーへとシフトしています。さらに原子力の稼働停止を進めているため、エネルギー自給率こそ大きく上昇していませんが、脱炭素社会へ向けてエネルギー転換を着実に進めている状態です。

安定したエネルギー供給のための2つのポイント

安定してエネルギーを確保するためには、今回紹介した自給率を高める他に「エネルギー輸入先の多様化」「停電時間を減らす」という大きな2つのポイントがあります。

エネルギー輸入先の多様化

エネルギー輸入先の多様化とは、エネルギー原料の調達先を特定の国や地域に偏らないようにすることです。調達先が偏ってしまうと、相手の事情で価格や供給量が変動するため、安定してエネルギー原料を調達できなくなります。そのため調達先を複数に分散させ、一つの相手から供給量が減っても大きな影響を受けにくくすることが必要です。

日本のエネルギー原料の輸入相手国は、以下のような状況となっています。

・原油(サウジアラビアとアラブ首長国連邦):64%
・天然ガス(オーストラリア):34.6%
・石炭(オーストラリア):71.5%

原油と石炭は、1~2ヵ国で60~70%程度も輸入に頼っている状況です。こうした偏りをなくして調達先を多様化させることも、安定供給のためには欠かせません。

停電時間を減らす

エネルギーの安定供給のために注目したいポイントが停電時間です。エネルギー自給率と輸入先の多様化は、エネルギー原料の調達を安定させるために重要となります。しかし生産したエネルギーを、安定して使う場所へ届けるエネルギー供給も大切です。いくらエネルギー原料を安定調達でき自給率が上がっても、エネルギーが安定して必要な場所へ届かなければ意味がありません。

そこで対象国の1年間の停電時間を知ることで「エネルギーが安定して供給されているか」を推測することができます。先述した国の2005~2016年ごろの年間停電時間の平均は以下の通りです。

・日本:約20分
・米国:約100分超
・英国:約73分
・フランス:約67分
・ドイツ:約20分

これを見ると日本とドイツは、他国に比べて安定したエネルギー供給を行っていることになります。日本は、作り出したエネルギーを安定して届ける環境は整っているといえます。

原子力から再生可能エネルギーへ

2011年に発生した東日本大震災が大きな転機となり、国内のエネルギー供給構成は大きく変わりました。特に目を引くのが震災以降に原子力と再生可能エネルギー等の割合が逆転していることです。2010年度の1次エネルギー国内供給構成は、原子力が11.2%、再生可能エネルギー等が4.4%でした。

しかし2017年は原子力の稼働停止などもあり1.4%へ急減、代わりに再生可能エネルギー等が7.6%と大幅に増えています。たしかに原子力は、エネルギーの原料を海外に依存せずに済むため、自給率向上に有望なエネルギー源です。しかし自給率が上がっても、安全が確保されたエネルギー源でなければ意味がないことが震災ではっきりしました。

さらに原子力発電所の再稼働について、国民からの十分な理解が得られていない現状では、エネルギーの自給率を高めるカギは再生可能エネルギーが握っていると考えて良いでしょう。

安全性の高い再生可能エネルギーに期待

日本のエネルギー政策の基本となる考えに「3E+S」というものがあります。3つのEは、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)です。しかしその大前提となるのがSである安全性(Safety)です。つまり安全性が確保できない限り、自給率を高める選択肢の中に原子力を含めることは、難しいといえるでしょう。

そのため今後エネルギー自給率を高めるには、再生可能エネルギーのような安全性の高いエネルギー源の、より一層の普及が求められます。(提供:Renergy Online


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