コロナ禍で働き方が変わり、「不動産」に対する考え方や需要が大きく変わりつつある。リモートワークが普及し、一部エリアのタワーマンションや郊外の戸建て販売が好調だった。しかし1年を通してみると低調で、供給数の多いエリアやマンションの完成在庫を売り急ぐ傾向もある。そのような状況の今だからこそ使える「値引き交渉術」があるという。不動産ジャーナリストとして数々の著作を持つ榊淳司さんに聞いた。

コロナ禍で激変するタワーマンション事情
(画像=まちゃー/PIXTA、ZUU online)
榊 淳司
榊 淳司(さかき あつし)さん
不動産ジャーナリスト。榊マンション市場研究所主宰。
1962年、京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒業。主に首都圏のマンション市場に関する様々な分析や情報を発信。東京23区内、川崎市、大阪市等の新築マンション建築現場を年間500カ所以上現地調査し、各物件別の資産価値評価を有料レポートとしてエンドユーザー向けに提供。経済誌や週刊誌、新聞等にマンション市場に関するコメント掲載多数。主な著書に『激震!コロナと不動産』(扶桑社新書)。

一部エリアでは好調だったマンション・戸建て販売

不動産経済研究所は2020年1~12月の1年間に首都圏で発売された新築マンションの戸数が前年と比べ12.8%減の2万7228戸だったと発表しました。これは1992年以来の「3万戸割れ」となり、この30年を見ても最も少ない水準の供給数となりました。

新築マンション販売のひとつのヤマだった2020年5月のゴールデンウィークは、コロナ禍の緊急事態宣言下で売り損じているので、下期は挽回しようと新築マンションの販売活動が活発だったようです。「半年間のロスを取り戻せ」とばかりに、焦っている販売担当者は私の周りにも何人もいます。

焦る理由はもう一つあります。コロナ不況により、新築、中古を問わず、マンション価格が下落していくことが予想されるためです。2020年は、すべての国民に一律10万円を給付した「特別定額給付金」や、条件を満たす中小企業には200万円、個人事業主には100万円を給付する「持続化給付金」など、政府による大胆な景気対策で、不況感は当初予想されたほどは深まりませんでした。株価は30年来の高値を更新しており、不動産市場では「リモートワーク需要」が発生して、戸建て住宅や一部エリアの中古マンションでは販売が好調だったようです。

ジワジワ迫ってくる不況感。在庫の売り急ぎも

しかし、新型コロナによって業績を伸ばした企業はごく少数で、売り上げを減らした企業が圧倒的に多いことでしょう。個人の所得も同様です。2020年の冬のボーナスが増えたサラリーマンは圧倒的少数ではないでしょうか。加えて、菅政権は今のところ追加の給付金などの“大盤振る舞い”を行う予定は示していません。ということは、2021年はある程度の痛みを伴った景気後退となるのではないでしょうか。

マンション市場もこれまでのような強気一辺倒ではいられなくなります。「多少の値引きをしてでも在庫を売り切ろう」と考えるはずです。たとえばタワーマンションは供給数が多いため、相場が下がり続ける前に少しでも早く売り抜けないといけないというマンションデベロッパーの危機感は相当なものでしょう。そんな売り主が猛然と販売活動を再開している今、間違いなく値引き合戦になります。逆に言えば、これからマンションを買おうとする人にとっては恵まれた環境になることでしょう。

そこで、コロナ禍の今だからこそ不動産業者の心理を逆手に取った次の4つの「値引き交渉」が使えるのです。

①完成在庫を狙い、具体的な金額を提示する

ほとんどのマンションデベロッパーは、販売中の物件が完成在庫になることを嫌うので、その前に売り切ろうとします。たとえば、ある金融系デベロッパーは、建物が完成する3~4カ月前から値引きを始めることが多いそうです。そして、建物が竣工して数か月も経過すると値引き幅は大幅に拡大し、時には販売価格の1割を超える場合もあります。

なかでも、コロナ前ですでに完成在庫になっている物件は、より売り急ごうとします。コロナ後に土地を仕入れた物件は、コロナ前よりも安く販売できます。そうした「コロナ後物件」が市場に出回れば、コロナ前に完成在庫となった物件は取り残されてしまうからです。デベロッパーが「値引きしても完成在庫を処分すべし」と判断した物件なら、1割以上の値引きを引き出せる可能性があるでしょう。

値引き交渉に細かなテクニックは必要ありません。「○○○○万円だったら買います」とはっきり数字を示すべきです。担当者にしてみれば、ハッキリとゴールを示してくれる客のほうがやりやすいし、好感も抱きます。「このマンションを買いたい」という明快な意思のある人のほうが有利になりやすいでしょう。