特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。
1951年(昭和26年)、安成工務店は山口県豊浦郡豊北町(現・下関市豊北町)で大工工務店として創業した。当時の名前は「安成組」。職人気質が濃く残る安成組を、1968年に株式会社に改組した。会社は高度成長期の波に乗って木造住宅をはじめ、コンクリートを使った学校建築などの公共工事も幅広く手がけるようになる。ところがある事件をきっかけに、民間工事と住宅建築で生きていくことを決意。そしてOMソーラーハウスと出会ったことが転機となり、以来、自然素材住宅へのこだわりを貫いている。売上100億を超える企業であり、一本気。不器用さこそが安成らしさだと信じ、事業拡大を続けているトップに話を聞いた。
(取材・執筆・構成=長田小猛)
1956年山口県生まれ。日本大学卒。
1977年に大学を卒業後、大手建設会社に勤務。1980年に安成工務店に入社した。創業者の父・安成信良さんの急逝に伴い、1988年に32歳で代表取締役に就任。社内の経営改革に努め職人然とした雰囲気の残る社風を一新し、安成工務店を売上105億円、グループ全体で売上180億円を誇る企業集団に育てあげた。
お客様の健康のため、呼吸する木の家にこだわりたい
――安成工務店には住宅事業と建築事業があり、コンクリート建築も手がけていらっしゃいます。
創業当時は大工工務店でしたが、高度成長期にコンクリート建築も手がけ始め、今では建築事業が売上の50%、住宅事業が40%、商業開発が10%となっています。売上はグループ全体で180億円、安成工務店は105億円、そのうち住宅事業は45億です。
――ある事件をきっかけに公共事業から撤退し、民間事業に生きようと決意されたと聞きました。
過去のある時期に、選挙絡みで公共工事の指名ストップを受けたことがありました。私たちが応援していた候補が落選し、当選した対立候補が報復措置として行ったことでした。もちろん私たちにまったく非はありません。こんな些細なことで請けられなくなってしまうような公共事業はやめて、我々は民間で生きようと考えました。結果としてこれが転機となってOMソーラーハウスと出会い、住宅事業の方向性が決まりました。念のためですが、現在は建築事業で公共施設も手がけていますよ(笑)。
――OMソーラーハウスについて簡単にお聞かせください。
OMソーラーは、建築家の奥村昭雄先生が考案された屋根で集めた太陽熱を床下に送るというシステムです。私たちはこれを床暖房、給湯、換気などに利用し、オールシーズン使える多機能パッシブソーラーとしてお客様に提案しています。自然の力を利用する、自然の素材にこだわるという考え方はこのとき、平成元年(1989年)から始まりました。
――以来、住宅建築はずっと自然素材の木の家にこだわっていらっしゃいます。
平成元年から私たちは「環境共生住宅」の道へ進み、新聞紙をリサイクルした木質繊維系断熱材(セルロースファイバー断熱材)を使う「デコスドライ工法」を開発します。綿状の木質繊維系断熱材を水や接着剤を一切使わず、乾式で壁内に吹きこむデコスドライ工法は手の届かない場所へも断熱材を充填可能です。マットボード状の断熱材施工とは異なり、断熱欠損がなく家の断熱性能を最大限に発揮します。
新築時のCO2が低く、ある一定のレベルを超えるとエコハウスと呼ばれますが、石油製品の断熱材を使ったエコハウスは本当にエコハウスだろうか? という疑問がずっとありました。私たちは壁の中まで自然素材にこだわり、建築に使う木材も天然乾燥させています。他社では普通に行われている、早く乾かすために重油を使って高温乾燥させる方法では木材の性質が変わってしまいます。安成工務店は呼吸をする木の家をつくるために、どこまでも自然素材にこだわっているのです。
事業発展への4つの戦略
――技術面では、大学との共同研究も進めていらっしゃいますね。
木の家が健康に良いという事実を証明し、お客様に発信していくために九州大学、法政大学と共同研究を行っています。九州大学とは「木の家の健康性」と「除湿躯体システム」というテーマ、法政大学とは「住まいと健康寿命の研究」というテーマです。特に住まいと健康寿命については、安成工務店の住宅に長年住んでいるお客様に調査を行いました。まだ発表前なので詳しくは申しあげられませんが、木の家に長く住むと身体年齢を若く保つことができるのは、事実のようです。私たちはこのようなさまざまな活動をとおし、以下の3つのポイントで事業を進めていきます。
1つ目は、高いデザイン力と精緻な施工品質。時間の経過とともに偽物が露呈する建材を使用せず、見えないところにも深くこだわり、後で手を入れにくいところは特に注意を払い最善を尽くします。安成工務店はプロフェッショナルな仕事をします。
2つ目は、自然素材でつくる呼吸する木の家です。構造材には杉の芯材、内装壁仕上げには珪藻土、床材には国産無垢材、断熱材には木質繊維系断熱材を使用しているなど、100%自然素材にこだわります。自然素材にこだわった家は呼吸し、快適な暮らしを叶えます。
3つ目は、お客様とのつながりです。住む人の一生に関わる「住宅」を未来の世代まで住み継いでいただくために、安成工務店はアフターフォローを継続的に実施し、「住まい」を中心に地域の人々が交流する場を創造していきます。
――新型コロナウイルスの感染拡大は事業にどのような影響を及ぼしましたか?
オンライン商談は積極的に行うようになりましたが、売上などへの影響はあまりないと感じています。家にいる時間が長くなり、お客様が家を求めることを改めて考え始めたのかもしれません。実際、去年よりも弊社の住宅着工戸数は増えています。
――今後はどのように住宅事業を発展させていきたいとお考えですか?
安成工務店は、4つの差別化戦略を掲げています。まず、高いデザイン性で圧倒すること。次に大手企業と絶対的差別化ができる自然素材住宅に特化すること。そして、精緻な仕事による上質な施工品質。最後に、性能を超える快適性で顧客満足度を上げることです。この4つの施策をしっかり行い、手作りの自然素材の木の家をお客様に提供していきたいと思います。
実際のところ、私たちの住宅は少し高価ではあります。日本では3,500万円以上の住宅建築は全体の約25%。これは大手のプレハブメーカーがほとんど手がけています。地域の工務店は、2,500〜3,000万円の家を中心につくっているのが現状です。これでは職人の腕が評価されません。安成工務店の住宅は、平均で3,500万円を超えます。ですが、お客様にしっかりとした品質の価値を認めていただければ、必ず評価していただけます。地域の工務店もこのように家をつくっていくべきではないでしょうか。
私たちはこれからも、自然素材の木の家が健康に良く長生きできるとアピールし、この事実をもっと広めていきたいと考えています。全国の工務店や建築メーカーとも連携して、自然素材の木の家を展開し地域の住宅産業を活性化させたいと思います。