(本記事は、小井土 まさひこ氏の著書『日本一やさしい経営の教科書』=あさ出版、2020年12月18日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

離職防止に効果大!コミュニケーションは質より量

日本一やさしい経営の教科書
(画像=alotofpeople/stock.adobe.com)

せっかく人を採用したのに、すぐに辞めることになっては意味がありません。

社員さんの定着を図るのも社長の務めです。では社員さんが退職してしまう原因は何でしょうか。その多くは上司や同僚との人間関係がうまくいかないからです。

「あの上司が嫌」「あの人と合わない」。職場に行けば、毎日嫌な人と顔を合わせることになるので、辛くなり、会社に行きたくなくなり、辞めてしまいます。

退職の防止には、社長と幹部、幹部と社員さん、社員さん同士がしっかりとコミュニケーションをとり、人間関係を円滑にすることです。

職場のコミュニケーションがうまくとれるようになると、業務がスムーズにいくだけでなく、離職防止にもなります。離職がなくなり、スタッフさんが定着し人数が増えていけば、事業所も成長し、結果として強い会社になります。

それではコミュニケーションをよくするポイントは何でしょうか。

それは「質より量」のコミュニケーションです。

質問です。年に1度、高級レストランで食事をするのと、毎週安い居酒屋で飲んでいるのとでは、どちらがお互いに親近感を抱きやすいでしょうか。

答えは、圧倒的に後者です。つまり、コミュニケーションをよくするのは、質ではなく量、回数がものをいうのです。

では、どのようにして回数を多くするか。

それは飲食(アルコールなしもOK)の機会を会社主導で用意するのです。

飲食をすると心がゆるみ、本音で話ができるようになるといいます。その数を重ねていくことで人間関係を良好にしていくのです。もちろん、この人とは絶対一緒に食べに行きたくないという人もいるでしょう。しかし、どうせ一緒に働くのなら少しでもお互いの関係をよくする努力はしたいものです。

実際にこもれびでやっていることを、いくつか紹介しましょう。

まずは「サシ食事」。事業部の上司とスタッフが1対1(サシ)で昼に食事をする仕組みです。上限一人1200 円を会社負担。好き嫌いに関係なく時間を共有しなくてはならないので、嫌々でも仕方なく会話することになります(笑)。同じ職場の上司と部下は、最低でも年1回ぐらいは一緒に食事をとるくらいは我慢できる関係になることが大切です。パートの主婦の方の多い職場なので、昼休みを利用して無理なく行けて、仕方なく話す仕組みです。管理者さんは月2回と決まっていますが、スタッフさんは年に1回程度ですから、年に1時間だけ我慢してもらうことになります。

もちろん、強制ではありませんが、あまりにも断られる管理者さんには何か問題があるかもしれないというチェックにもなります。

また、新年会、暑気払い、忘年会など年3回は会社の補助で事業所行事を開催します。創業当初は年に4回、5回と申請が上がりぜんぶ承認していました。もちろん、それもチェックの甘い社長の責任。また毎月事業所内で行うスタッフ同士の茶話会「コンパ」もあります。京セラの創業者である稲盛和夫さんのマネをして始めたコンパ(当時、京セラでは一人1000円持ち寄り)を半分だけ会社負担にしてマネして行っています。

他にもスポーツ大会やバーベキュー大会、家族で参加できるイベントも開催しています。その1つが、年に一度、お子さんの夏休みに合わせて開催している「夏のミステリーツアー」です。バスを貸し切り、スタッフさん、そのご家族と一緒に遊びに行きます。参加者には一切行き先を告げないので、到着するまでどこに行くのかわからないバスツアーです。

普段忙しくて、なかなかお子さんとの時間が持てないスタッフさんたちに、少しでも楽しい時間を共有できればと計画しています。慣れないうちはガイドさんがいきなり行き先を告げてしまうというハプニングもありましたが、それはそれでミステリーなツアーです。こうしたツアーでお子さん同士に横のつながりができ、仲良くなって「また、来年も来ようね」と約束する姿を見かけます。社員さんやパートさんであるお母さん同士の結びつきも強くなっているかもしれません。当時、川でびしょぬれになって、はしゃいでいた子どもさんたちも今では高校生。そんな成長を見られるのは、本当に嬉しいものです。

もちろん、人には必ず「合う」「合わない」といった相性があります。

そこで離職を防ぐためにも、2、3年に1度不定期に異動をするようにしています。

一般的に人事異動というと敬遠されがちですが、異動のメリットは2つ。1つは、異動した人が成長すること。いろいろな現場を体験することで新しいことを覚え成長していきます。

もう1つが、現場の雰囲気が改善されること。2、3年で異動があると思えば多少合わない上司の部下も「なんとか我慢しよう」と思えるものです。

異動は管理者が中心です。特に上司の場合、現場の複数の人と相性が合わなければ、早めに異動。その方が、現場もうまくいきます。

大きな会社であれば、2〜3年での異動は当たり前かもしれません。しかし、小さな規模であっても、いや、小さな規模の会社だからこそ、異動した方がいいのです。

変化の激しい時代、異動という形で小さな変化をたくさん経験し、大きな環境の変化に適応していける組織になることも大切です。最初の異動では、ほとんどの幹部を同時に入れ替えました。不公平感をなくすのと、社長への愚痴の場を全員で共有でき、一人だけ愚痴が言えず寂しい思いをしないようにとの、社長のやさしい思いやりです……たぶん。

社員を叱るのは尊敬されるようになってから

上司が部下を叱って何かいいことがありますか?

心から相手を思い、成長させるため「叱る」のであれば、いいと思います。

でも、少しでも感情が入ってしまったら、それは自分のため。「叱る」ではなく「怒る」です。自分の感情を相手にぶつけて、発散させるのが目的になる。それはダメ。叱る目的は何か。何かを伝えるのが目的であれば、ゆっくり話して伝えればいいだけのことです。

子どもの教育と一緒です。子どもを思って叱り、実際に成長につながるならいい。

それができず、感情優先なら、叱るのはNGです。

叱るだけで、人の行動がぱっと変わるなら、毎日口うるさく叱ればたちまちすごい会社になります。でも、そううまくはいきません。そんなことやっていたら、返事の達人が増えるだけ。あるいは、言われないとやらない社員が育つだけです。

そして、「失敗を叱る」最大のデメリットは、新しいことにチャレンジしなくなること。失敗したら怒られるかもしれない、叱られるかもしれないと思えば、「やめておこう」となるのが普通です。それでは人が成長しないし、会社も成長しません。

失敗から学んでいくのが成長です。頭で考えすぎて行動を起こせない人よりも、失敗を恐れずに行動を起こし、チャレンジし続けられる人材を育成することが大切です。

そのためには会社の中に「失敗してもいい」という文化をつくっておかなければなりません。

失敗したら、叱る代わりに「いい経験をしたね!」とほめる。

こもれびでは、「失敗が多い人=チャレンジしている人」という考えのもと、前向きな失敗の数も評価しています

叱られた人が、言われたことを素直に気分よく受け入れて行動を変えることができれば、うまい叱り方をしたと言える。とはいえ、相手の成長を促すような叱り方ができる人は、まだまだ少ないものです。

このとき、重要なのが叱る人のキャラクター。相手から尊敬されていれば、叱られても素直に聞くでしょう。

人は何を言われたかより誰に言われたかです。

もし、叱るなら尊敬されてから。尊敬されていなければ叱ってはいけません。好きでもない同級生から、バレンタインデーに「チョコ欲しい」と言われれば、せいぜい市販の義理チョコ。ところが大好きな先輩から「チョコ欲しい」と言われれば、建国記念日だろうと、徹夜で作る手づくりチョコレートです。部下を一人でも持ったら、自分がもらえるのはどちらのチョコレートなのかを考えてみましょう。

また、「言ったのに」「ノートに書いてあるのに」「先月の会議で決まったのに」と言って叱るケースがありますが、これは時間のムダです。

こちらが何か言っても聞いていない。すぐ忘れる。

これが普通です。

素直な人もいて聞いてくれます。でも理解していない。

これも普通です。

理解していても、ほとんどの人が忘れて実行しない。

これも普通です。

さらに覚えていてもやらない人がほとんど。

ということは、やらなかった理由を聞くのも時間のムダ

「言ったのに」「ノートに書いてあるのに」と言うのも時間のムダ。

では、どうすればいいのでしょう。それは「やったか」「やらなかったか」だけを確認すればいいのです。

するとストレスがなくなりますし、なんといっても速い。

「あれ、やった?」
「まだです」
「じゃあ、やってね」

ただ3つの会話で済みます。叱ったりあれこれ追及するのは時間のムダです。

いい会社、いい職場なんてない

私は新卒者のための説明会で、「残念ながら、世の中にいい会社はありません」とお話しすることがあります。厳密に言えば、あなたが入った時点でいい会社なんてないですよ、ということ。

これは、創業でも同じ。立ち上げた当初からいい会社などありません

では、立ち上げた会社を「いい会社」「いい職場」にするにはどうすればいいか。

もし、5人の同僚がいたとします。全員といい人間関係が築ければ、いいと感じる職場になり、結果、よい職場です。けれど、AさんとBさんがお互い仲が悪くなって顔を見るのも嫌、口きくのも嫌、と険悪になった途端、AさんとBさんにとっては同じ職場でも、いいと感じられなくなります。

つまり、自分自身が、入った場所で、接する一人ひとりといい人間関係を築いていくことで、結果としていいと感じる職場、いい職場になるのです。

いい人についても同じです。

「いい人いないかな?」というのはよく聞く言葉。とても能力の高い人が、入社してきたら「いい人が入った」と思うかもしれません。

しかし、その場にいる人たちと価値観が違って、衝突ばかりしていたら、いい人ではなくなってしまいます。

仕事の能力が低くても、まわりとコミュニケーションがとれれば、結果その人がいい人になっていくのです。

いい人も、いい職場も、いい会社も、結局は、従業員一人ひとりがまわりの仲間と築いていくもの

いい職場をつくりたいのであれば、まずは、社長がこのことを認識し、社員教育をしていく必要があります。

職場の雰囲気も同じです。

「私の職場は雰囲気が悪い」という場合、もし、4、5人の職場であれば、自分がその5分の1を占めていますから、一因はその人にもあります。

だいたい「雰囲気が悪い」と言う人は、その人自身雰囲気が悪い(笑)。

その人が明るくまわりの人を笑わせていれば、簡単にいい雰囲気になります。

自分がムードメーカーになれば、雰囲気はコントロールできます。

何百人といれば、そうはいきませんが、数名であれば可能です。

雰囲気は、その場にいる一人ひとりの表情がつくるものです。

ですから研修では、このように話しています。

「今、みなさんは自分の表情はほとんど見ていないでしょう?でもまわりの人からはいつも見られています。雰囲気は、自分がつくっている表情を他人がどう感じているか?その場の雰囲気はその場にいる人の表情や言葉で決まってきます。自分は関係ないのではなく、みんなからは見えている自分の表情も、職場の一部になっています。自分の表情を意識しましょう」

ちなみに自然の笑顔とつくり笑顔、どちらがレベルが高いと思いますか?

それはつくり笑顔です。自然の笑顔は楽しいから笑顔になるのであって、誰でもできる、努力のいらない笑顔です。一方で、つくり笑顔は、自分の感情に関係なく、お客さまや雰囲気づくりのための笑顔です。多くの男性が騙され勘違いするネオン街の笑顔。あの笑顔こそ究極のつくり笑顔ではないでしょうか。

幹部向けのマネジメント研修では、「表情に余裕がないリーダーはカッコ悪い」とも話しています。

自分の顔は1日に数分しか見ないけれども、部下からは、何時間も見られている。リーダーであれば、たくさんの目で、表情や言動がチェックされているのです。

そう考えると、日頃の1つひとつの言葉や行動が大事。つまらないことでカーッとなっているところを一度でも見せてしまうと、部下からの尊敬は瞬時に消え去ります。

「管理者がこの前、イライラして物に当たってたよ」

なんて噂は一瞬で広まり、いつまでも語り継がれてしまうものです。

もちろんそれは社長も同じです

不機嫌な顔などもってのほか。思い通りにならず「こんなこともわからないのか」と叫びたいことがあるかもしれませんが、そこはじっと我慢。そんなときこそ、つくり笑顔で職場の雰囲気を明るくしようと意識し続けることも大切です。

日本一やさしい経営の教科書
小井土 まさひこ
株式会社こもれび代表取締役。株式会社K・サポート代表。群馬県甘楽郡出身。同志社大学卒業後、外資系製薬会社に13年間勤務。医療法人の立ち上げにかかわり、2009年、株式会社こもれびを創業。弓道四段、EGIJ認定アソシエイト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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