(本記事は、小井土 まさひこ氏の著書『日本一やさしい経営の教科書』=あさ出版、2020年12月18日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

借りたお金は「もらったもの」

日本一やさしい経営の教科書
(画像=joel_420/stock.adobe.com)

こんなことを書くと金融機関さんから、2度と融資してもらえなくなりそうですが、あくまでイメージです。そして、もらったお礼に、しっかり返済していくことです。また次も、もらえるように(笑)。

会社を始めたら、それまで持っていた、「借り入れ」に対する感覚を変える必要があります。

特に次の4つの思い込みはすぐに変えましょう。

①「お金を借りたらいけない」→「お金はどんどん借りる」
②「金利を払うのはもったいない」→「金利は必要経費」
③「お金を借りすぎたらヤバイ」→「ヤバイほど銀行は貸さない」
④「個人保証は入れない方がいい」→「新米社長は保証してでも借りる」

①「お金を借りたらいけない」→「お金はどんどん借りる」

日本人は子どもの頃から、「借金イコール悪いこと」と教えられているのか、借り入れに抵抗がある人が多いです。確かに個人があちこちに借金しているのは問題です。でも、会社経営は個人の借金とは違います。事業を行う限り、借りられるだけ借りるのが正解です。

②「利息を払うのはもったいない」→「利息は必要経費」

「お金を借りたら、利息を払わなきゃいけない。もったいない」と考える人もいます。はっきり言って間違い。

誤解を恐れずに言うなら、「お金を借りている」と思うのではなく、「借りたものは会社のもの」という感覚を持つくらいでいいのかもしれません。

「毎月、数万円手数料(金利)を払って、会社のものにした」と考えるのです。

もしものときにも、役立ってくれるわけですから、そのために払う金利は必要経費、未来のリスク対応費です。今回のコロナウイルス騒ぎでも、余裕を持って借りている会社は、対策の時間を稼げます。もし借り入れをしていなかったら、社長が資金繰りに追われて、未来への対策もできなくなるどころか、未来への不安で適切な対応さえとれなくなってしまいます。もちろん、余力にも限界があるので、この先どうなっていくのかはわかりませんが、少なくとも、先を考える時間が確保できていることだけは確かです。

こうして借り入れと返済を繰り返していると、だんだん金利が下がってくる楽しみも出てきます。もちろん借り入れは事業を大きくしていくためでもあり、守りと攻めの両方を頭に入れておくことが大切です。

③「お金を借りすぎたらヤバイ」→「ヤバイほどは貸さない」

個人の場合、複数のクレジットカードでキャッシングしたり、消費者金融で借金を重ねて「自己破産」というケースはあります。しかし、会社の場合、金融機関は、何も考えずに貸すわけではありません。会社の業績や見込み、社長の姿勢などをよく調べたうえで、「これくらいなら大丈夫」という金額を貸し出します。

バブル期はともかく、今は会社が潰れるほどの額は貸しません(笑)。

「こんなに借りちゃって、大丈夫かな」と心配する前に、お金を貸し出す銀行の方が心配してくれます。

④「個人保証は入れない方がいい」→「新米社長は保証してでも借りる」

中小企業への融資は経営者の連帯保証が当然と思われています。

「会社が返済できなくなったら、社長が個人で払いなさい」という、いわゆる個人保証です。

最初、「個人保証」と聞くと怖い気がするかもしれませんし、はずせれば安心です。金融庁も会社経営と個人保証を分けるという方針のようです。でも、はずせるのは少し先のこと。実績のない新会社は、あまり気にしないことです。

個人保証をしてでも、借り入れができることの方が大切だからです。

ここだけの話、個人保証できるほどの資産を持った中小企業の社長は、世の中に数えるくらいしかいないと思います。

金融機関さんも、それくらいは考えて融資をします。むしろ社長の覚悟や真剣さが問われているつもりで、「何かあったとしたら、貸した方が悪い!」くらいに構えて、ドーンとお金を借りましょう(笑)。

日本は戦時中の借り入れを戦後もずっと返済していた律儀な民族です。借金を返すために、警察官が犯罪を犯す、というニュースが流れるくらい借金に対しては律儀(?)なのです。確かに個人の借金はしない方がいいかもしれませんが、会社は借り入れをして、返済の心配をするより、事業を継続させ成長させていくことに集中する方が大切です。

「もしも」に備えて現預金を持てるだけ持つ

会社を立ち上げても資金計画の甘さだけでなく、設備の故障、自然災害や取引先の倒産といった事業を継続できなくなる要因はたくさんあります。

中小企業庁の調査によると、中小企業が事業を継続できなくなるリスクで、実際に顕在化したことがある上位3位は、次のようなものになっているそうです。

・設備の故障(54・3%)
・取引先の倒産(43・6%)
・自然災害(40・6%)

一方で、創業3年以内の廃業は、資金計画の甘さ、運転資金不足が圧倒的に多いというデータもあります。中小企業の社長は、こうした事態に備えて、一定の現預金資金を持っておく必要があります。

もしも、取引先が倒産したら、あてにしていたお金が入ってこない。

もしも、震災で会社が被災して事業がストップしても、給料は払わないといけない。

もしもは、いつ来るか予測できません。では、いったいどのくらい準備しておけばいいのでしょうか。

タイトルには持てるだけと書きました。そのくらいの気持ちでちょうどいいということです。実際の目安としては、月商(1カ月の売上高)の3倍と言われています。

月商が200 万円なら、600 万円の現預金を保有しておく。

月商が5000 万円なら、1億5000 万円の現預金です。

そうすれば、緊急支払い能力も高まり、銀行からの信用も高くなります。

現預金とは別に、創業時に赤字になるのは当たり前です。これは創業赤字と言って、金融機関さんも比較的やさしい目で見てくれます。その後3年目くらいから黒字になってくれば、十分ではないでしょうか。

財務諸表が読めないのも当たり前です。「読めない」とは、「数字を見て分析し、次なる戦略を立てることができない」ということ。でも、心配しなくても大丈夫です。

逆に、最初から財務諸表をしっかり読めたりすれば、怖くなって、経営を続けられない可能性が高いです。最初にも書きましたが、もし、私が最初から財務諸表を読めたら、毎晩眠ることができずに、3カ月で具合が悪くなっていたことでしょう。会社が今あるかどうかもわかりません。振り返ってみると、創業時はそれくらい怖い数字になっていたということです。

財務諸表が読めて、創業時から黒字になるまでの赤字を毎月見ていたら、多くの社長さんが体をこわしてしまいます。

読めなくて本当にラッキーでした。財務諸表を読めないうちに創業した社長さんは、本当に運がいい経営者です。

そもそも創業時は知らないことばかりです。

借り入れがある場合、P/L(損益計算書)が黒字になっていても、決して安心はできないことさえ知りませんでした。

P/Lの費用には、借り入れの利息は入っていますが、返済する元金は記載されていません。

仮に500 万円の利益が出ていても、500万円を超える元金返済があると、現金が足らなくなってしまうのです(正確には減価償却も返済財源になります)。

創業時は、財務諸表について、「赤字か黒字か」を確認する程度に眺めはしましたが、細かく見ながら経営を考えてはいませんでした。正確には、そんな余裕も知識もありません。ひたすら現場と通帳残高があるかどうかの確認だけで精一杯です。

借りすぎだとしても、現金だけはしっかり確保しておけば、会社は倒産はしません

借り入れかどうかは関係ありません。お金に名前や種類はありませんから。利益を残していくといっても、今の税制で、創業数年の会社が、月商3カ月の現金を留保するというのは、かなりハードルが高いことなのです。

潰さないために現預金を持つ大切さは、創業すると誰しも味わうスリル体験を経て、理解できます。

財務諸表で見るのは1カ所だけ

新米社長の大事な仕事の1つは、どんなときでもお金をマイナスにしないことです。先ほどから繰り返しているように、借りてでもマイナスにしなければ、会社は継続できます。お金は会社の血液のようなものです。

お金の話をするときに、避けて通れないのが「決算」の話です。

決算については、専門の本がたくさん出ていますので、ここでは簡単な説明だけにとどめます。必要ない内容だと思えば、この項目は読み飛ばし、気が向いたときに読んでもOKですし、読まなくてもまったく問題ありません(笑)。

決算とは、1年に一度、帳簿をしめて、財務状態や会計期間内の経営成績を数字で示す、社長の通知表のようなものです。これが、財務諸表(=決算書)です。すべての会社は、商法で財務諸表を作ることが義務づけられています。

財務諸表は、税務署や株主だけでなく、銀行などの債権者にも開示します。

中小企業は、1年間分をまとめて財務諸表を作る場合も多いと思いますが、可能な限り月次の財務諸表を作ることで、会社の課題も見えてきます。いくつかの部門があれば是非分けて作ってみましょう。今はクラウドでも、簡単に使えるソフトもあります。データさえ入力すれば、iPadからでもいつでも見られるので、税理士さんに相談してみてください。

財務諸表には、次の3つの目的があります。

①企業の現状の成績がわかる。
②株主から出資を募ったり、銀行から資金を集める。
③納税申告をする。

財務諸表の中でも、特に重要なのが、財務3表と言われる「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」です。私はキャッシュフロー計算書は見ていないので、ここでは省略させてもらいます。

①貸借対照表(B/S)・・・・・・一定時点(決算日)における、企業の「財政状態」。資産、負債、純資産を分けて示した表のこと。

②損益計算書(P/L)・・・・・・一定期間における、企業の「経営成績」。収益から費用を引いた表のこと。

財務諸表の作成は、経理担当者や税理士に任せてしまう社長が多いと思います。

さらには新米社長であれば、財務諸表について、読めないのが当たり前です。それでも大丈夫です。

ただし、1カ所だけ見ておいた方がいいところがあります。

B/Sの流動資産の現預金です。

現預金がどのくらいあるか、大まかな変動だけはつかんでおかないと絶対にダメです。

なぜか。会社は損益計算書が赤字でも倒産はしません。

赤字続きの場合は、将来的に倒産の可能性もありますが、赤字、即倒産ではありません。

倒産するのは、経営が続けられなくなったときです。経営が続けられなくなるのは、お金が足りなくなり、支払いができなくなったとき。つまり現預金がマイナスになったときです。そうならないように、早め早めに資金調達するのが社長の役割の1つです。細かい数字より、大まかでかまわないので、月の入金や支払いの動き等、現預金が一番少なくなる時期くらいは知っておきましょう。ちなみに労働保険料や税金など、年単位で発生する支払いもあるので要注意です。

黒字でも、資金繰りがマイナスになると倒産します。いわゆる黒字倒産です。

極端な例ですが、商品が売れて数字上は売上が出ている。しかし、現金が入ってくるまでに3カ月かかるとします。当然、その間の仕入れや給料などの経費は支払えません。業者への支払いや、給与が3カ月遅れると、倒産状態になってしまいます。3カ月後には入金になるのですから、その間だけ、借り入れをすれば、この倒産状態は免れます。

リーマンショックによって倒産した上場企業のうち、3分の2が「黒字倒産」でした。黒字なのに倒産した理由は、まさに現金を持っていなかったからです。

逆に言えば、赤字でも現金さえあれば、すぐには倒産しません

赤字でも現金がたくさんあれば(=資金があれば)、立て直せる時間がもらえます。

新米社長は、財務諸表をこまかく読めなくても、現預金の流れと残高だけは、しっかりチェックしておきましょう。ちなみに収支に大きな波のある業種やマイナスになりそうな場合は、キャッシュフロー計算書も必要になってきます。

また、損益計算書に関しては、毎月の業績の結果ですから、肌で感じている数字そのものであり、経営者が自然と意識してしまうものです。

日本一やさしい経営の教科書
小井土 まさひこ
株式会社こもれび代表取締役。株式会社K・サポート代表。群馬県甘楽郡出身。同志社大学卒業後、外資系製薬会社に13年間勤務。医療法人の立ち上げにかかわり、2009年、株式会社こもれびを創業。弓道四段、EGIJ認定アソシエイト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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