自分をよく見せたいという欲望に振り回され、日常生活で無理をする人も少なくない。会社も同様であり、内装に不要なコストをかけることもあるだろう。しかし、決算書をごまかす粉飾決算だけは行ってはならない。今回は、粉飾決算のペナルティや手口、見抜き方などをわかりやすく解説する。
目次
粉飾決算とは?
粉飾決算とは、会社が不正な意図にもとづき、経営成績や財政状態を実際より過大または過小に表示した決算を指す。不正行為は、帳簿上で行われたり、第三者を巻き込んで大規模に行われたりして、そのケースはさまざまだ。
逆粉飾という言葉も聞いたことがあるかもしれない。会社の実態を不当に悪く見せかける行為だ。しかし実際は、会社の実態を良く見せるか悪く見せるかに関係なく、粉飾決算という言葉が用いられる。
粉飾決算が行われる4つの理由
不正が行われるのは、少なからず経営者にメリットがあるからだ。粉飾決算が行われる具体的な理由を4つ解説していく。
理由1.融資の実行
粉飾決算の理由として一番多いのが、有利な条件で融資を受けるためだ。銀行などの金融機関では、決算書を審査し、融資の額や利率を決めている。そのため、粉飾決算によって融資額を増額し、利率を下げられると考えている経営者も少なくない。
理由2.税金の減額
実態より悪く見せかける粉飾決算(逆粉飾)の動機で多いのが、納めるべき税金を減少させることだ。本来納めるべき税金をごまかすために、売上を減らしたり、経費を水増しすることで利益を減らしたりする。
理由3.役員報酬の増額
役員報酬が業務に連動して決定される場合には、役員が報酬額を上げるために粉飾決算をすることも考えられる。
理由4.上場の維持
上場を維持したい上場会社もあるだろう。その際、債務超過といった上場廃止条件への該当を回避するために粉飾決算をすることもある。
粉飾決算の5のペナルティ
粉飾決算は不正な意図にもとづく行為であり、内容や状況によって罰則が異なる。粉飾決算の具体的なペナルティについて、刑事や民事、税務の観点から説明しよう。
ペナルティ1.懲役や罰金
【詐欺罪】
本来得られない融資を受けるために粉飾決算を行った場合、不当な利益を得た者は詐欺罪の対象となり、10年以下の懲役が科される。
【違法配当】
粉飾決算を行った結果、本来可能な金額を超えた配当を行った場合、会社法違反で5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金が科される。
【特別背任罪】
取締役等の利益を図る目的で粉飾決算を行った場合、特別背任罪で10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこの両方が科される。
ペナルティ2.損害賠償
粉飾決算を行った結果、第三者に被害を与えた場合、会社は損害賠償の責任を追う。たとえば、通常よりかけ離れた条件で融資した金融機関が、被害者として挙げられるだろう。
上場会社の場合、粉飾決算を行った結果、株価が暴落する可能性がある。高価格で同社の株式を購入していた株主からも損害賠償を請求されるかもしれない。
ペナルティ3.加算税
一般的に、うっかりミスや見解の違いなどで納める税金を少なく申告すると、過少申告加算税が課される。しかし、粉飾決算のように悪意を持って税金をごまかすと、税務署側に悪質だと判断されて、重加算税が課せられる。
過少申告加算税の税率は最大15%であるのに対して、重加算税は35%と税率が高い。
ペナルティ4.返還制限
実態より良く見せる粉飾決算(仮装経理)を行った場合にも、ペナルティに近いデメリットがある。
仮装経理では、納付する税金が通常よりも多くなる。そのため、発覚した場合に本来納めるべき税金との差額を返還してもらうことになる。
しかし、粉飾決算を行った場合、返還手続きをしてもすぐに返還されない。
具体的には、粉飾決算の修正をしたときから5年間は返還されず、5年の期間が経つあるいは倒産するなどしない限り、それまでの間は納付すべき税金と相殺する。
ペナルティ5.上場廃止
東京証券取引所では、上場廃止の基準として下記の内容を掲げている。
“有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき”
したがって、有価証券報告書にある決算書について粉飾決算を行うと、上場廃止されることも考えられる。
粉飾決算の手口3つ
粉飾決算の具体的な手口について説明していく。粉飾決算の見抜き方としても参考にしてほしい。
手口1.売上の操作
架空の売上を計上したり、売上を隠蔽したりすることによって、売上を増減する。
売上を増やす場合、架空の取引先を設定するのが一般的だ。架空の取引先との契約書を作り、架空の売上を計上する。
売上を下げる場合、取引先と共謀して表にしていない銀行口座を開設する。そこに売上を振り込んでもらう手口だ。ちなみに、売上のみを操作した場合、仕入金額とのバランスが取れなくなる。
仕入や外注費を一緒に操作する場合もある。この場合は、売上と売掛金とのバランスが悪くなるため、売上に対する売掛金の多さについて疑えるだろう。また、一人あたりの売上高から不自然な点を読み取る方法もある。
手口2.費用の操作
費用を隠したり、水増ししたりすることも粉飾決算の手口だ。よくあるのが、私的な費用の計上である。この場合、費用の内訳を調べて、聞き取らなければならない。
ほかにも、架空の人件費を計上して費用を水増しする方法もあるだろう。社員の出勤簿、社会保険料の支払いなどで、人件費の金額との矛盾を調べる。
また、費用を圧縮するために、在庫を水増しして売上原価を増やす方法も考えられるだろう。棚卸しをする際に在庫の実在を確認して、過不足をチェックする。
手口3.決算書を複数作成
数字の操作ではなく、決算書を複数作成する粉飾決算もある。
中には、20行にもおよぶ取引銀行全てに、別々の決算書を作成していた事例もあった。各銀行に適した形で粉飾していたのだろう。
銀行に提出した決算書とは異なる書類を税務署に提出していた可能性もある。
疑わしい場合、念のため納税証明書を発行してもらい、その内容と決算書に書かれている税額を比較する手段も考えられるだろう。
地方税は難しくても、法人税だけでもつじつまの合わない箇所が見つかる可能性がある。
粉飾決算の負のスパイラル
粉飾決算を行った場合、一度で済む場合は少ない。一般的に一度粉飾決算に手を染めた場合、負のスパイラルに陥り、抜け出せないからである。
そのメカニズムは、以下の通りだ。
例えば、最初の年に100万円の粉飾決算で利益を出したとする。そうなると、表向きは利益が多くなっているため、投資家や債権者などの周辺のものは2年目以降にも多くの利益を期待する。実際には、それほどの利益を出せないため、2年目以降は100万円を超える粉飾決算をせざるを得なくなる。それが繰り返され、いつしか負のスパイラルに陥ることとなる。
また他のケースとして、100万円の根拠のない利益がある場合、同額の同じく根拠のない資産が出てくることとなる。根拠のない資産はそのまま残り、いつかは不審がられることとなるので、それを隠すために別の粉飾に手を染める。そのため、ある粉飾のために別の粉飾を行い、いつしか負のスパイラルに陥ることとなる。
粉飾決算をいかにして見つけるのか
それでは、粉飾決算をどのように見つけるのか。
内部告発などによって発覚することが多いが、待つばかりでは手遅れになりかねない。そこで、粉飾やその兆候を見つけるための方法を紹介する。
財務諸表の分析
一番多く用いられる方法は財務諸表の分析を行うことである。
これは、財務諸表の数値を組み合わせて出てくる数値を同業他社の数値と比較し、異常な値を示していないかを見るものだ。
よく使われる数値の例としては、売上債権回転率、棚卸資産回転率がある。これは、それぞれ以下の式で求められる。
売上債権回転率=売上高 ÷ 売上債権
棚卸資産回転率=売上高 ÷ 棚卸資産額 (売上高の代わりに売上原価を用いることもある)
それぞれ、値が大きくなればなるほど売上債権や棚卸資産の効率が悪いことを示す。粉飾決算を行っている場合、根拠のない売上債権や棚卸資産が存在し、それにより数値が悪化している場合もある。架空の売上や棚卸資産がある場合、有効なのは回転率を使った分析だ。
また、作成する会社がすくないものの、キャッシュ・フロー計算書を利用した分析もある。売上や仕入については営業活動によるキャッシュ・フローという項目に示される。これは売上や仕入に関する実際の現預金の増減を示しており、通常は必ずプラスになる。売上が増加しているのに営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスになっている場合は要注意だ。
なお、同業他社の数値を見るには日本政策金融公庫の小企業の経営指標調査などがある。
財務諸表以外の数値も活用する
財務諸表以外の数値を活用するケースもある。
一例をあげると、従業員数をもとにして一人当たりの売上高を算出し、同業他社と比べ異常な値となっていないかどうかを見る方法がある。根拠のない売上を計上している会社では、この数値が同業他社に比べ異常な数値が出たケースもあった。
いかにして粉飾決算を防ぐのか
当然であるが、粉飾決算はない方が望ましい。それでは、どうすれば粉飾決算が防げるのだろうか。
環境づくりが第一
いちばん大事なのは、粉飾をさせない環境を作ることだ。
粉飾など不正が発生する原因として環境が挙げられる。例えば、どんな手を使ってでも売上をひたすら伸ばさないとならないような社風の会社では、おそらく従業員は不正を犯してでもその目的を達成するだろう。
経営者にも同じことは言える。不正を犯すような土壌を作らないようにすることが重要だ。例えば、売上を急激に伸ばさないと銀行融資が得られないといった不正を招くような土壌を作らないようにしなければならない。
不正をさせない仕組みづくり
粉飾決算をさせないようにするには、そのための仕組みを作る必要がある。粉飾決算を行うことを可能にする条件の一つとして、それを行うための機会があることも指摘されている。
それではその機会を生まないためにはどうすればいいのか。
会計システムへの入力には会計システム上の第三者による承認を義務付け、その会計システムについて経営者などが簡単に関与できないようにする仕組みを作るのも一つの方法だ。
粉飾決算を行いたいと思ったとしてもそれを行うことができないようにする必要がある。
外部の会計士や弁護士等の活用
粉飾決算をさせない仕組みづくりで重要なのは、チェック体制を内部でとどめておかず、外部の力を借りることだ。
例えば、上場企業などでは義務化されている会計監査を任意で導入し、公認会計士の目を入れることが方法としてあげられる。公認会計士に監査をさせることにより、粉飾決算に関する牽制をすることが可能だ。
また、弁護士やその他の専門家を顧問や社外取締役として任命し、公認会計士以外の視点から粉飾決算を防ぐことも方法としては有効である。
粉飾決算は内部告発で発覚する可能性も
以上、粉飾決算の概要をはじめ、ペナルティや手口、見抜き方などを解説した。
ちなみに、不正が発覚するきっかけとして、従業員の告発がある。私自身それに近い経験をしている。決算書の内容について、監査先の従業員に聞いたところ、あっさりと不適切な会計処理を認めた。
当時の社長が退任した直後であったため、本人も言いやすい環境にあったのだろう。このように粉飾決算は、意外なところから発覚する可能性がある。
経営者として長く活動していれば、判断や行動を誤ることもあるかもしれない。しかし、粉飾決算のペナルティを把握しておけば、理性を取り戻せるはずである。
思わぬところで足をすくわれないよう、あらためて粉飾決算の概要を頭の片隅に置いておくとよいだろう。
粉飾決算に関するQ&A
なぜ粉飾決算は行われるのか
粉飾決算が行われる理由で代表的なものとして以下が挙げられる。
・融資の実行
・税金の減額
・役員報酬の増額
・上場の維持
いずれも会社の決算を実際からかけ離れたものに見せて不当な利益を得たいという点で共通している。
粉飾決算のペナルティは
粉飾決算が発覚した場合、さまざまなペナルティが課せられる。目に見えるペナルティの例は以下の通りだ。
・懲役や罰金
・損害賠償
・加算税
・返還制限
・上場廃止
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文・中川崇(公認会計士・税理士)