兵庫県の川西市、知明湖や猪名川などを抱える自然豊かな土地に生分解性プラスチック製品を製造し、国連の機関からも認められたものづくりスタートアップがある。それが、GSアライアンス株式会社だ。同社は環境、エネルギー分野向け最先端材料を幅広く研究開発、製造販売している。

2011年の創業ながら、太陽電池、リチウムイオン電池などの二次電池、キャパシター、燃料電池、熱電変換、各種触媒、各種機能性材料、赤外線遮蔽(吸収)、10nm以下の超微粒子材料(金属、酸化物)、量子ドット、イオン液体、光触媒、人工光合成、天然由来材料(セルロースナノファイバー)などの分野において、国内外の大手企業に負けない研究開発を進めており、国内外からも注目を集めている。

2020年12月には、国連機関認定のスタートアップとしても採択された。国連プロジェクトサービス機関であるUNOPS(United Nations Office for Project Services)がアジア初のスタートアップ育成拠点として「グローバルイノベーションセンター(GIC)」を神戸市に開設。最先端のテクノロジーを活用して、持続可能な開発目標(SDGs)上の課題解決を目指す施設として、支援するスタートアップを募集していたところに、同社が採択された形だ。

この拠点に入居できるのは持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指せるスタートアップ企業であり、有望な企業は今後、国連事業にも採用される可能性があるという。まさに時代のトレンドを掴み、ニッチな技術開発を行うGSアライアンス株式会社の森良平代表に、創業の経緯や現在の事業について聞いた。

ゴミになりにくい生分解性プラスチック素材を製造

国連のスタートアップに採択されたGSアライアンス株式会社 一点集中型で最先端材料の研究開発を進める
(画像=GSアライアンス株式会社 森良平代表)

――国連のスタートアップに採択されたとのことでおめでとうございます。改めて、創業の契機について教えて頂けますか。

 私は祖父が創業した富士色素株式会社も経営していますが、自分の興味がある分野もやってみようということでGSアライアンス株式会社をグループ内に創業しました。化学、材料という分野からは離れない一方で、環境・エネルギー分野向けがこれから大きく注目されると思っていたものですから、先駆けて始めておこうと考え、2011年から事業を始めています。

高校のときに海外に住んでいた経験があり、自然には触れていたほうだと思います。人間が出すゴミが自然を破壊していく姿には、以前から問題意識を持っていました。そのようなとき、石油系材料を使用しない生分解性プラスチック素材の存在を知ったので、それなら自分でやってみようと思い、事業を立ち上げたのです。

――具体的には、どのような事業内容なのでしょうか。

 私達は環境、エネルギー分野向け最先端材料を研究開発、製造販売する化学会社です。例えば、石油系材料を使用しない生分解性プラスチック素材の製造を手掛けています。

従来のプラスチックが環境に大きなダメージを与えていることは、皆さんご存知の通りです。しかし、当社の生分解性プラスチック素材は100%天然のバイオマス系材料から構成されており、分解しやすく、ゴミになりにくいのです。

その他にも太陽電池、リチウムイオン電池などの二次電池、キャパシター、燃料電池、熱電変換、各種触媒、各種機能性材料、赤外線遮蔽(吸収)、10nm以下の超微粒子材料(金属、酸化物)、量子ドット、イオン液体、光触媒、人工光合成、天然由来材料(セルロースナノファイバー)などの分野において、最先端材料の研究開発を進めています。

「自分たちは世の中の役に立っているんだ」という実感

――親会社の富士色素株式会社とは真逆の事業内容にも感じます。起業の際に大変だったことはありますか。

 大変なことばかりでした(笑)親会社の冨士色素株式会社は石油化学の会社で、バリバリ油を使っているので「余計なことをしてくれるな」と。父の代から働いてくれている社員も多いので、最初は理解を得るのが難しかったですね。

ただ、環境保護の風潮が強くなり、SDGsという言葉が広がってくると、段々と社内の理解を得ることができるようになりました。国連のスタートアップに採択されたことも大きかったですね。あれでだいぶ雰囲気が変わってきました。

富士色素株式会社から異動してきている若い社員も増えてきて、「色材の中にも環境に良いものがあるんだ」「自分たちは世の中の役に立っているんだ」という実感も少しずつ湧いている頃だと思います。

また、生分解性や天然バイオマスで本業商品であるインクを作るなど、ようやくグループ間でのシナジー効果が発揮されつつあります。GSアライアンスの事業に後ろ向きだった社員にも「なるほど、それはありだな」と思ってもらえるアイデアもいくつか生まれています。

――今までの取引先からはどのような反応でしょうか?

 テレビやマスコミの影響も大きいのでしょうか、特にこの1〜2年はかなり好意的なお声を頂いております。むしろ社内より、社外のほうに仲間がたくさんいましたね(笑)同業の経営者からも「ウチもそういうことをやらないといけないので色々教えてくれ」と相談を受ける機会が増えています。

――最初に手掛けた商品は何でしょうか?

 セルロースナノファイバーでしたね。石油系プラスチックのセルロースナノファイバーを取り組んでいたのですが、それでプラスチックの作り方が分かりました。そのうち、全体のバイオプラを作ったほうが面白いなと思い、事業を広げていきました。

全体像は理解して、「ここなら勝てる」というピンポイントにリソースを集中させる

――研究開発をする部署はどれくらいの規模なのでしょうか?

 最初は私1名でしたね。自分で言うのも恐縮ですが、私は貪欲な工学博士なので、世界中の論文や学会の研究結果を読み漁って研究していました。国内外の大手ともろに競争しても厳しいので、最初から先端技術に特化して戦おうと思っていました。

1名では限界があるので、現在は6〜7名の研究室になっています。修士号や博士号を持っている人ばかりで、大学の研究室や大企業を定年退職された年配の方が多いですね。

技術は経験が物を言う世界なので、専門分野が若干違っても数十年やっている人であれば、こちらの意図を説明するのが楽なんですよ。「森さんはこんなことをしたいのですね。ではこうやってはどうでしょう」とこちらの意図をスッと理解してくれる優秀な方々です。

――大手と比べると、リソースを投入できずに苦労されることがあるのではないでしょうか?

 グループ全体でも社員100名くらいの規模で決して大手というわけではありません。それでも私は、いわゆる大手と呼ばれる化学会社に負けたくないと思っています。おこがましいかもしれませんが、三菱化学さんやデュポンさんにも負けたくないと思っているわけです。

とはいえ売上で勝つのは難しいので、最先端の技術に特化して勝負しています。本来は大学がやるようなことかもしれませんが、全体像は理解して、「ここなら勝てる」というピンポイントにリソースを集中させるわけです。一点集中型ですね。

いま課題になっているところにピンポイントで自分たちが入り込む

――実際にどのような研究が進んでいるのでしょうか?

 1つ目は石油石炭を使わない化学製品です。プラスチックや塗料、コーティング材などは石油系なので、それらを天然バイオマスに置き換えることです。

2つ目として、火力発電を再生可能エネルギーに切り替えるうえで重要な太陽電池、蓄電池、燃料電池などを開発しています。いま課題になっているところを明らかにして、そこをピンポイントで自分たちが入り込むイメージです。

3つ目は人工光合成です。実用化はまだなのですが、CO2と水と太陽光でエネルギーを生み出す技術です。自分で試してみて、初期反応は確認できたのですが、これは大学がやることかなという気もしています。

――環境問題にも色々ありますが、注目している課題はありますか?

いま申し上げたバイオマスへの置き換えが進めば、原料から出るCO2を減らすことができます。

また、新しいリチウム硫黄電池が出来上がりつつあります。耐久性には課題が残る段階ですが、今の電池の3倍〜4倍の性能になるかもしれないという代物です。携帯電話やクルマへの導入はハードルが高いので、ドローンなどの緊急用電源としては有りかと考えています。

燃料電池はもう少し時間がかかりそうですが、トヨタ自動車さんの水素カー「MIRAI」は白金(はっきん)をたくさん使っているわけです。白金は希少な資源なので、できるだけ白金を使わない電池を作りたいと思っています。今は85%くらい削減できる試作品の開発が進んでいますし、最終的には白金ゼロの電池を作りたいですね。

また、量子ドット(※1)という蛍光体材料がありまして、応用できそうなのがLEDライトです。LEDライトをかなり安くできる材料が出来つつあります。近いうちに発表したいですね。面白いことになるんじゃないかと思っています。

あとは、金属有機構造体(MOF、PCP)ですね。端的に言うと電池材料に使います。これを使うことによって、パワーが出る電池ができたり、CO2を吸収したりすることができるようになります。

※1:量子ドット…直径が2-10ナノメートル(原子が10個から50個分)と、非常に小さい半導体粒子。微少なサイズのため、通常の物質の性質とは異なり、特性や発揮可能な効果が科さまざまである。これを応用し、科学技術の分野では飛躍的なエネルギー効率の向上やコスト削減が期待されている。

「この会社の技術が欲しいな」と思うシーンが増えてきた

――今は経営者と研究者の二役を担っていらっしゃると思いますが、どれくらいの時間配分になっていますか。

研究開発に一番時間を割いていますね。海外営業もほとんど自分でやっており、営業活動も忙しくなってきました。国内営業はどんどん社員に移譲していきたいと思っています。

社長業は、親会社の取締役がしっかりやってくれているので、自分は研究に集中できています。全体を100としたら、研究活動が60〜70を占めるイメージでしょうか。営業活動が20くらい、社長業は5くらいです。

研究活動にしても、昔は泊まり込みで研究していましたが、最近はポジション取りの重要性を痛感しています。前述のピンポイント作戦ですね。もちろん全体像を理解するまでは、かなり時間がかかりますが、もともと論文を読むのは得意なので、頭の中に描いているものに関する論文を探して、ザッと読んで行動を決めるといった流れです。

――今後の展望について、話せる範囲で教えて頂けますか。

バイオ系の技術は構築できてきたので、プラスチックに関する小さな成形会社を買収することは探り始めています。現状は成形を外注しており、そこが高いと言われることが多いので、それなら自前で持ってしまおうということです。

女性が使う付け爪やネイルカラーも、バイオマス100%のものを開発しました。付け爪とネイルカラーの両方をやっている会社は世の中にないはずです。化粧品業界からも注目されつつありますので、化粧品製造業も申請しているところです。

――最後に、サステナビリティといっても色々ありますが、実行に一歩踏み出せない経営者へメッセージを頂けますか。

私が申し上げるのは大変僭越ながら、やはり自分で一歩始めてみることが重要だと思います。世界の大富豪がこの業界へ積極的に投資をしていますが、彼らのように資金が豊富であれば、投資で貢献する道はありだと思います。私はそこまでのお金がないので、自分でやろうと思っています(笑)

大学と組むという手もあります。実際に当社も大学と提携している部分もあります。大学はスピード感がない場合が多いので、「自分たちでやったほうが早い」というパターンもありますが、投資よりお金がかからず、役割分担がハマったら楽ですね。

日本もだいぶテクノロジーベンチャーが増えてきました。私も「この会社の技術が欲しいな」と思うシーンが増えました。これからも切磋琢磨しながら、社会に貢献していきたいと思います。

(提供:THE OWNER