投資を成功させるには、利益を上げることと併せてコスト管理の徹底が欠かせません。手数料が低い証券会社を選ぶことも、コスト削減のためには重要です。また、NISA口座など税金の優遇制度を利用するのも、有効な方法の1つです。
目次
株式の売買にかかる手数料
株取引では、売買時に手数料がかかります。手数料は投資におけるコストですので、効率のよい資産運用を目指すには、手数料を低く抑えることが重要です。
株式売買に手数料がかかる理由
株式市場に参加するには取引資格が必要で、投資家自身が売買することはできません。そのため投資家は証券会社に株式売買を委託し、その報酬として手数料を支払います。
「売り」と「買い」で手数料率は同じ?
株の取引手数料は、買付時と売却時にそれぞれかかります。多くの証券会社は買付売却ともに同じ手数料率ですが、一部の証券会社では買付手数料が低く設定されている場合もあります。また、キャンペーンなどにより買付手数料が一定期間無料になっているケースもあります。
・株式売買には売却益に対して掛かる税金もかかってくる
株式売買では、株価の値上がりで得た売却益に20.315%の税金がかかります。これも、投資におけるコストとなります。税金を抑えたいなら、少額投資非課税制度の「NISA(ニーサ)」を利用しましょう。
NISAには、「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3種類があります。20歳以上の人が個別株への投資で利用するなら、一般NISA口座が適しています。一般NISAの概要は、表1のとおりです。
▽表1.一般NISAの概要
項目 | 詳細 |
---|---|
利用できる人 | 日本在住の20歳以上の人 |
非課税対象 | 株式や投資信託などから得られる分配金・配当金および売却益 |
非課税投資枠 | 新規投資額で毎年120万円 |
非課税期間 | 最長5年 |
投資可能期間 | 2014年~2023年 |
現行制度の投資可能期間は2023年までですが、NISA制度の延長に伴い、2024年からは「新NISA」として2028年まで口座開設や新規投資が可能になっています。
今持っている株を安く売りたい場合でも、手数料の安い証券会社へ「移管手続き」をすることで安く売れる
口座を保有している証券会社よりも手数料が安い証券会社を見つけた場合、移管手続きも選択肢です。移管手続きをすれば、保有している投資資産をほかの証券会社に移すことができます。
なお、移管手続きには手数料がかかります。多くの場合、移管先の証券会社に支払う手数料はありませんが、移管元の証券会社には手数料が発生します。手数料額は移管する投資資産の口数などによって異なるため、あらかじめ調べたうえで実行しましょう。
移管先となる証券会社によっては、移管元に払う手数料の返金サービスを行っている場合もあります。返金サービスを利用すればお得に移管手続きができるため、こちらも併せて確認しましょう。
株の売買手数料が安い会社と高い会社の違いは?
株の売買手数料は、証券会社によって差があります。同じ取引内容にも関わらず、手数料額に差がでる理由には何があるのでしょうか。
店頭証券大手と比べネット証券のほうが安い傾向にある
手数料額の傾向として、店舗を持つ大手証券会社とネット証券では、ネット証券のほうが低く設定される傾向にあります。
ネット証券は店舗を持たないぶんコストを削減できる
大手証券会社よりもネット証券の手数料が低い理由は、店舗や窓口を持たないからです。店舗や窓口がないぶん、賃貸料などの店舗維持費や人件費といったコストがかりません。このようにネット証券は、証券会社のランニングコスト自体が低いぶん、投資家が支払う手数料も安く設定できるのです。
ネット証券のなかでも手数料は異なり、取引額に応じて手数料テーブルが定められている
ネット証券のなかでも証券会社によって手数料額に差があり、取引額に応じた価格が決められています。大まかな手数料を把握するには、取引予定額や投資予算などをもとにシミュレーションしてみるとよいでしょう。
証券会社によっては、1回の約定ごとに手数料がかかるプランと1日の約定合計金額にかかるプランの2種類が用意されています。売買回数や取引金額によってお得な手数料プランが変わるため、しっかりと検討したうえで決めることが重要です。また、運用開始後に投資スタイルに変化があったときなどは、手数料プランの見直しも忘れずに行いましょう。
100万円までの取引は無料などの会社もある
ネット証券のなかには、1日の約定合計金額が100万円までなら手数料が無料の会社もあります。取引額が数十万円にとどまる人は、手数料をかけない株式投資も可能です。コストを抑えるために手間を惜しまないのであれば、取引内容に合わせて複数の証券会社を使いわけるといった手法もあります。
株主優待を実質無料でゲットする優待クロスにかかる手数料は?
株取引には、株主優待を実質無料で得られる「優待クロス」という投資方法があります。しかし、取引に株主優待以上の手数料がかかると、最終的にマイナスの投資となってしまいます。優待クロスをお得に利用するには、手数料をあらかじめ確認することが重要です。
株主優待クロスとは?
クロス取引とは、同一銘柄かつ同数量の買い注文と売り注文を、同時に同価格で約定させる取引です。株主優待クロスとは、クロス取引を株主優待の獲得のために活用したものをいいます。株主優待クロスでは、権利付最終日の寄付き前に「現物取引の買い注文」と「信用取引の売り注文」を成行で同時に行い、同価格で約定させます。
現物取引「買い」と信用取引「売り」を同値で取引して、値段を固定して優待を貰う手法
株主優待を得るには、権利付最終日に株主である必要があります。優待の獲得のみを目的として投資するなら、権利落ち日にすぐ売却してもよいでしょう。しかし株価は、権利付最終日に価格が上がり、権利落ち日には下落する傾向があります。そのため、権利落日に通常の取引で売却すると、損失がでる可能性があるのです。
優待クロス取引では、売り注文に信用取引を用いることで、権利落日の株価下落の影響を小さく抑えることができます。優待クロス取引の手順を、表2でみてみましょう。
▽表2.優待クロス取引の手順
取引タイミング | 取引内容 | |
---|---|---|
手順1 | 権利付最終日 | 寄り付き前に、以下の取引を同時に同価格で約定する ・現物買い注文 ・信用売り注文 |
手順2 | 権利落ち日 | 現渡し(※)で決済 |
※現渡しとは、信用売りの返済方法の1つ。信用売りしたものと同じ株式を、保有資産のなかから返済する
優待クロス取引では、値動きにより発生した現物買い注文ぶんの損失と信用売り注文分の利益が相殺されるため、株価下落の影響を抑えた売買が実現します。
現物買いの手数料は同じ
ここからは、優待クロス取引における売買手数料について詳しく見ていきます。優待クロス取引で行われている現物買い注文の手数料は、通常の株取引の手数料と同じです。
信用売りの手数料計算は2パターンある
信用売り注文の手数料は、制度信用か一般信用かによって異なります。
・パターン1:制度信用
制度信用は、証券取引所が定めた基準を満たした銘柄が対象の信用取引です。制度信用で優待クロス取引をするには、表3の手数料がかかります。
▽表3.制度信用で優待クロス取引をする場合に必要な手数料
手数料 | 詳細 |
---|---|
売買手数料 | 投資家が選んでいる信用取引手数料プランが適用 |
貸株料 | 手数料率は証券会社により異なる 「信用売り金額×手数料率×日数(新規建受渡日から返済受渡日まで)÷365日」で計算 |
逆日歩 | 貸株残高が多い銘柄を空売りする際に支払う手数料 逆日歩の有無や金額は受注後に決定するため、約定前に確認することができない |
逆日歩がかかるかは、投資家が事前に知ることができません。逆日歩の金額によっては、思わぬ手数料額となる可能性には注意しましょう。
・パターン2:一般信用
一般信用は、証券会社が定めた銘柄が対象の信用取引です。証券会社と投資家の間で信用取引が完結するため、逆日歩などがかからず返済期限が長いなど、自由度が高い取引方法だといえます。そのぶん、貸株料が制度信用よりも高く設定されることは知っておきましょう。一般信用を使った優待クロス取引では、売買手数料および貸株料が必要です。
「現物+信用のコスト<優待の価値」になればリターンが成立する
優待クロス取引では、「現物買い注文手数料+信用売り注文手数料」よりも、受け取った株主優待の価値が大きい場合に利益が出たと考えます。
仮に一般信用取引で、30万円ずつの現物買い注文および信用売り注文をしたとしましょう。この場合に必要な手数料は、表4のとおりです。なお、手数料率は楽天証券(いちにち定額コース)のものを適用します。
▽表4.優待クロス取引の手数料額シミュレーション
手数料の種類 | 現物買い注文 | 信用売り注文 |
---|---|---|
売買手数料 | 30万円×0%=0円(1日の約定合計代金が100万円までなら0円のため) | |
貸株料 (権利付最終日~権利落日までの2日間とする) | なし | 18円 (30万円×年利1.1%×2日÷365日) |
合計 | 0円 | 18円 |
この優待クロス取引で仮に5,000円相当の株主優待を得たとすると、利益は4,982円(5,000円-18円)になります。
ネット証券大手の取引手数料を徹底比較
ネット証券大手の取引手数料は、どのくらいの水準なのでしょうか。ネット証券大手9社における、国内現物株取引および信用取引の手数料を紹介します。
- ネット証券口座開設数第1位の「SBI証券」
- ネット証券における2019年新規口座開設数第1位の「楽天証券」
- 4,000を超える米国株を取り扱う「マネックス証券」
- 国内で初めてインターネット取引を開始。手厚いサポートが魅力の「松井証券」
- 業界最低水準の手数料。取引ツールに定評がある「GMOクリック証券」
- 三菱東京UFJフィナンシャルグループとauが共同出資する「auカブコム証券」
- オリコン顧客満足度調査(ネット証券)取引手数料部門で7年連続第1位の「SBIネオトレード証券」
- オリコン顧客満足度調査(ネット証券)分析ツール部門第1位の「岡三オンライン証券」
ネット証券9社の手数料体系
ネット証券大手9社の手数料体系は、表5のとおりです。
▽表5.ネット証券大手9社の国内現物取引手数料体系
~5万円 | ~10万円 | ~20万円 | ~50万円 | ~100万円 | |
---|---|---|---|---|---|
SBI証券 | 55円 | 99円 | 115円 | 275円 | 535円 |
楽天証券 | 55円 | 99円 | 115円 | 275円 | 535円 |
マネックス証券 | 110円 | 198円 | ・~30万円:275円 ・~40万円:385円 ・~50万円:495円 | ・成行注文:1,100円 ・指値注文:1,650円 | |
松井証券(※1) | 無料 | 1,100円 | |||
GMOクリック証券(※2) | 96円 | 107円 | 265円 | 479円 | |
auカブコム証券 | 99円 | 198円 | 275円 | 1,089円 | |
DMM.com株 | 55円 | 88円 | 106円 | 198円 | 374円 |
SBIネオトレード証券 | 55円 | 88円 | 106円 | 198円 | 374円 |
岡三オンライン証券 | 108円 | 220円 | 385円 | 660円 |
ネット証券の現物取引手数料は、全体的に低水準です。特に、手数料部門で顧客満足度第1位を誇るSBIネオトレード証券は、すべての区分で1番安い手数料となっています。松井証券では50万円までの取引手数料が無料ですが、それを超えると他のネット証券に比べて割高となります。
信用取引手数料は?
信用取引の手数料体系は、現物株取引とは異なります。
▽表6.ネット証券大手9社の国内信用取引手数料体系
~5万円 | ~10万円 | ~20万円 | ~50万円 | ~100万円 | |
---|---|---|---|---|---|
SBI証券 | 99円 | 148円 | 198円 | 385円 | |
楽天証券 | 99円 | 148円 | 198円 | 385円 | |
マネックス証券 | 99円 | 148円 | 198円 | 385 | |
松井証券(※1) | 無料 | 1,100円 | |||
GMOクリック証券(※2) | 97円 | 143円 | 187円 | 264円 | |
auカブコム証券 | 無料 | ||||
DMM.com株 | 88円 | ||||
SBIネオトレード証券 | 無料 | ||||
岡三オンライン証券 | 108円 | 330円 | 550円 |
auカブコム証券およびSBIネオトレード証券では、約定金額に関わらず無料です。信用取引を頻繁に行うなら、これらの証券会社は有力な選択肢となるでしょう。
まとめ:手数料の低いところを選び株式投資を始めよう!
株式投資では、証券会社に支払う売買手数料がかかります。また、売却益や配当金といった利益に対しては、20.315%の税金が課されます。効率のよい運用を行うなら、手数料や税金を抑えた投資を目指しましょう。
手数料を抑えるためには、店舗や窓口を持たず、手数料が低く設定されているネット証券で口座を開設するほうが良いでしょう。投資のスタイルにもよりますが、1日に50万円までの投資を考えているなら、松井証券、信用取引も視野に入れるなら、auカブコム証券やSBIネオトレード証券が選択肢となりそうです。
手数料は、約定金額や約定回数によっても変わります。投資目的や投資スタイルを考慮し、自身に合った証券会社を選ぶことが、株式投資を成功させるコツの1つです。
文・N.ヤマモト
都市銀行にてファイナンシャルプランナーとして主に、富裕層の資産形成・運用相談を担当。投資信託や保険商品・債券・外貨預金の販売に携わる。その後はWEBライターとして、投資や資産形成についての情報を発信。子供の学費や老後資金作りのため、自らも20代から資産運用を続けている。