株式投資を始めようと思っても、どの銘柄を買えばいいのかわからないという人もいることでしょう。個別の銘柄を探す前に、まず自分に合った投資手法を見つけて運用方針を定めることで、投資銘柄の選択肢はかなり絞り込めます。代表的な投資手法である「バリュー株投資」「グロース株投資」「高配当株投資」「株主優待投資」「イベント投資」について、それぞれの特徴、注意点などについて解説していきます。

目次

  1. 銘柄選びには、3つの基本的なポイントがある
  2. 割安株を見つけ出して投資する「バリュー投資」
  3. より大きな成長を期待して投資する「グロース投資」
  4. キャピタルゲインよりも、配当や株主優待を狙う運用方法
  5. 配当金の大きい「高配当銘柄」への投資
  6. 配当金ではなく、優待でリターンを得る「株主優待銘柄」への投資
  7. 株価の上昇のタイミングを狙う「イベント投資」
  8. まとめ:さまざまな投資の探し方を試してみよう

銘柄選びには、3つの基本的なポイントがある

金融
(画像= Freedomz/stock.adobe.com)

現在、日本の株式市場に上場している国内企業は3,745社もあります。その1つひとつをチェックするには膨大な時間が必要ですが、ポイントを定めれば効率よく選ぶことができるでしょう。銘柄選びの3つのポイントを押さえておきましょう。

銘柄を選ぶポイントは人それぞれですが、基本は「投資の目的」「投資可能金額」「投資手法」の3つです。

  • 投資の目的:どのような目的で投資をするのか
  • 投資可能額:投資金額はどのくらいなのか
  • 投資手法:どのような投資をするのか

投資する目的と投資に使える金額によって、最適な投資手法は変わります。まずは投資の目的と、投資可能額をしっかり検討するようにしましょう。

そして、この投資手法については、じつは多種多様です。投資期間も長期から中期、短期、さらに超短期とさまざまですし、「ファンダメンタル」と呼ばれる企業の業績や経済状況などの数値を重視するか、または、値動きのパターンや傾向などの「テクニカル」を重視するのかで、銘柄選びはまったく違うものになります。

人によって向き不向きや、好みもあります。また、複数の手法を組み合わせることが、投資目的に適った方針となる場合もあります。1つの手法にとらわれず、柔軟に組み合わせることも有効です。いくつかの手法を試し経験を積むことが、自分だけの投資戦略を確立する最短ルートかも知れません。以下に、代表的な5つの投資手法を紹介します。

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割安株を見つけ出して投資する「バリュー投資」

「バリュー投資」とは、現在の株価が、その企業の実際の利益水準や資産価値などから想定される価格よりも低く留まっている銘柄を買い付ける手法です。株価の上昇を期待するキャピタルゲインを目的とした投資となります。他の人がまだ価値に気づいていない銘柄を先んじて買うので、いずれ注目されて株価が上がれば利益になります。また、価格が低い段階で購入するので損失も比較的抑えられます。

バリュー株投資の基本は、以下のPERやPBRが平均値より小さくなっている銘柄を買うことです。

PER(株価収益率)

一株あたりの純利益を算出し、その額と実際の株価がどの程度離れているかを表したもので、数字が大きければ割高で、数字が小さければ割安といえます。

PBR(株価純資産倍率)

「株価÷1株当たりの純資産」の数値です。株価が1株当たりの純資産(企業の総資産から負債を差し引いた金額)の何倍になっているかを表したもので、数字が1より大きければ割高、数字が小さければ割安です。つまり、PBR1倍以上は企業の純資産以上に評価されていることになり、1倍以下は純資産以下でしか評価されていないということになります。

より大きな成長を期待して投資する「グロース投資」

グロース投資は、「成長株投資」とも呼ばれる、企業の成長性に投資する方法です。営業利益率が業界水準より高い、または大きく成長する可能性のある市場でビジネスしていることなどが、条件となります。これから企業業績が伸びると予想される銘柄に投資するという性格上、ある程度の長期運用と、成長要素を見きわめる目が必要です。

グロース投資の対象は、主に新興企業です。すでに投資家から評価されている銘柄も多く、株価も高くなっていることが少なくありません。また成長性重視の経営となることが多いことから、配当金がない銘柄も多いです。

株価が10~20倍、さらに100倍の上昇銘柄も

この5~10年の期間で、当初の株価の10倍、20倍、100倍以上になった主な銘柄です。

・RIZAPグループ(2928):12倍

2010年11月末終値:11.56円
2020年11月末終値:142円

・セリア(2782):26倍

2010年11月末終値:143円(株価分割後の値に調整した終値)
2020年11月末終値:3,675円

・GMOペイメントゲートウェイ(3769):65倍

2010年11月末終値:209.38
2020年11月末終値:13,600

・MonotaRO(3064):141倍

2010年11月末終値: 45.13円(株価分割後の値に調整した終値)
2020年11月末終値:6,370円

早い段階で、こうした企業の成長性に気づくことができれば、投資収益は大きなものになります。では、どのような指標に注目すれば、成長企業を見つけることができるのでしょうか。

「営業利益」と「経常利益」

成長するかどうかの判断をするために、まずは財務内容を確認しましょう。財務内容がしっかりしていれば、その企業の安定性が期待でき、短期的な株価変動に戸惑うことなく安心して長期保有することができます。

次に、売上高と利益が伸びているかどうかを確認します。とくに「営業利益」は、その会社の本業での収入であり、本業で稼ぐ力を表す最も大事な経営指針といえるでしょう。対して「経常利益」は営業利益に加え、家賃収入や配当などの営業外収益と、支払利息や有価証券売却損などの営業外費用といった本業以外の損益も含めたものをいいます。業態によっては大きく重要となる指標といえるでしょう。

経常利益を見ることで、本業だけでなく企業全体がどのくらい利益を出しているかがわかります。資本力もあわせた、会社の総合的な実力を把握することができます。

PSR

PSR(Price Sales Ratio)は、「株価売上高倍率」といいます。時価総額を年間売上高で割ったもので、売上高に対して株価が割高か割安かを判断する指標です。売上高が同等の2社を比較した場合は、この倍率が高いほど株価は割高と判断されます。この指標は、赤字や債務超過でも計算できることが特徴です。

PSRは、売上の伸びに着目した指標のためグロース企業(新興成長企業)の投資判断に使われる場合が多いです。PERやPBRでは赤字や債務超過のある企業では計算できないためです。

期待値も高いので成長が止まった場合の下落が大きい

グロース株の価格には、投資家からの期待の高さが反映されているため、総じて割高な株価となっていることもあります。その場合、経営不振や業界の冷え込みなど期待が薄くなった場合は急激に株価が下げに転じることもあります。また好決算を発表しても、その数値が投資家の期待値よりも低い場合、やはり株価が下がることもあります。株価の変動の動じず、保有し続けられることは、グロース株投資のもっともむずかしいポイントといえるでしょう。

キャピタルゲインよりも、配当や株主優待を狙う運用方法

ここまで、バリュー株やグロース株といった、株価の大きな値上がりを期待するキャピタルゲイン目的の運用方法を解説してきました。しかし、投資の運用方法は、配当や株主優待といった、長期保有するだけで得られるリターン(インカムゲイン)を期待するものもあります。このインカムゲイン目的の主な運用方法として、「高配当銘柄への投資」と「株主優待銘柄への投資」について解説します。どちらも大きな株価の下落は問題ですが、株価の上昇を最優先とせず、定期的なリターンを期待し、株価にそのリターンを含めた投資効果を検討する手法です。

配当金の大きい「高配当銘柄」への投資

高配当銘柄投資は、配当利回りの高い株に投資して配当金を得ること(インカムゲイン)を目的とした投資法です。

配当利回りに注目し銘柄を絞り込む

配当利回りとは、1株あたりの配当額を株価で割った数字で、購入した株価に対し1年間でどれだけの配当を受けることができるかを示す数値です。たとえば、現在の株価が1,000円で配当金が年20円だった場合は、20円÷1,000円では2%となります。

この配当金は企業の業績によって確定されます。決算発表後に確定されるため、確定される期日(権利確定日)に株主であることが、配当金受け取りの条件となります。長期保有をしていれば、配当金のある年は毎年受け取ることができます。

多くの上場企業では、1株当たりの予想配当額を会社予想として発表しています。これを株価で割ると配当利回りが表されます。Yahoo!ファイナンスや日本経済新聞のホームページでは、配当利回りの高い銘柄をランキングにより調べることができます。配当利回りから銘柄を絞り込む場合は、参考にするとよいでしょう。

業績や財務指標も要確認

配当利回りから銘柄を探すのは1つの方法ですが、たとえ配当利回りがよくても、業績が悪くて株価が値下がりするようでは、投資として本末転倒です。目先の数字にだけ着目するのではなく、他の指標も参照しながら銘柄を絞り込んでいくとよいでしょう。

「累進配当政策」とは?

「累進的配当政策」とは、「減配せず、配当水準を維持または増配し続ける」方針を指します。この場合、配当が増えることはあっても減ることはないため、安心して保有し続けることができます。ただ、国内でこれを宣言している企業は少数です。

▽累進的配当政策を宣言している企業と配当利回り(2020年12月18日現在)

  • 三井住友フィナンシャルグループ(8316):6.03%
  • 三菱商事(8058):5.16%
  • NTT(9432):3.74%
  • JT(2914):6.96%
  • 三菱UFJリース(8593):5.24%

配当金ではなく、優待でリターンを得る「株主優待銘柄」への投資

企業が株主に自社商品やサービスを配布する「株主優待品」を得ることを目的とした投資方法です。

株主優待を受け取るには、配当金と同様「権利確定日」には株主でいなければなりません。株式は買付してから2営業日目に受け渡されるため、「権利付最終日」(権利確定日の2営業日前)までに株式を買い付ける必要があります。

日頃利用しているサービスの優待やクオカード、図書カードなどで生活費の負担を減らせる

生活に密着した米や洗剤、食事券、菓子、食事券、映画優待券などの「優待品」は家計にうれしいばかりでなく、投資を家族で楽しめます。各証券会社のホームページには、優待を探すための情報が整理されて掲載されています。のぞいてみるだけでも楽しめます。たとえば、SBI証券や楽天証券など初心者に人気のネット証券では、優待の種類を写真入りで確認できるので、探す手間もかからず便利でしょう。

株価の上昇のタイミングを狙う「イベント投資」

株式市場に発生するイベントに注目した投資手法です。イベントが発生する時期に、株価が値上がりしたり値下がりしたりする傾向を利用して売買します。

新規公開株(IPO)

新規上場する株式を公募価格で購入して、上場後に売却して利益を出す手法です。2018年に上場した企業90社のうち、初値が公募価格を下回ったものは9社、2019年は86社上場したうち9社です。初値(上場後最初の株価)で 売却すれば9割は利益を出すことができるローリスク・ハイリターンな投資手法なので、初心者でも簡単にできますが、人気が高いため倍率の高い抽選に当選しなければいけません。しかし、当選すれば数万円~百万円超の利益を得ることもできるかもしれません。

▽2018年-2019年の新規上場時の初値騰落率(対公募価格比)の状況について

2018年 2019年
通年 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 通年
社数 90社 21社 17社 12社 36社 86社
平均初値騰落率※ 104.9% 85.5% 74.8% 36.6% 81.3% 74.8%
(最高騰落率) 988.9% 276.6% 209.5% 140.0% 372.4% 372.4%
(最低騰落率) ▲37.2% ▲2.1% ▲12.5% ▲7.5% ▲6.9% ▲12.5%
公募価格割れ 9社 1社 1社 3社 4社 9社

出典:あずさ監査法人「2019年のIPO動向について」

株主優待先回り買い

魅力的な株主優待株は、優待の権利確定日に向けて株価が上がっていく傾向にあります。また、権利確定日を過ぎると配当落ちといって下がる傾向もあります。その株価の動きの傾向を利用して投資をする手法です。

前年から株主優待や配当の変更がないかを確認して、権利確定日の数ヵ月前に買っておきます。権利確定日の直前で株価が上昇したら売却するという流れで行い、キャピタルゲインを得るものです。

指数組入期待銘柄への先回り投資

TOPIXや日経平均に新たに組み入れられる銘柄を先回りして購入していく手法です。新たに組み入れられることで、指数に連動したインデックスファンド(投資信託の主流の1つ)にも組み入れられるため大量の買い付けが入ることから、株価の上昇が見込まれます。その組み入れ日までの上昇を狙うのです。TOPIXの場合、組み入れ日は、新規上場日の翌月最終営業日です。

東証一部昇格狙い投資

東証二部や東証マザーズ、JASDAQから東証一部に昇格する際に、株価は値上がりする傾向があります。一部に上場することで、機関投資家や個人投資家の買いが増えるからです。この投資手法は、一部になることが決まった銘柄や条件を満たしそうな銘柄、目指している銘柄を先回りして購入する手法です。

まとめ:さまざまな投資の探し方を試してみよう

これまで、バリュー投資・グロース投資・高配当銘柄投資・イベント投資と4つの投資手法を解説してきました。それぞれに、メリットやデメリットが存在するので、どの投資方法が合っているのかは人によって違います。また、1つの方法だけでなく、いくつかの方法を組み合わせてその時々で利益を出していくこともできます。

注意が必要な点は、投資するスタンスによって、分析方法や株価下落時の考え方と行動が180度異なることです。「この銘柄は、どのようなスタンスで購入したのか」をしっかり把握し、最初に決めた投資スタイルに則った運用を貫くことがなにより大切です。

文・井上 美鈴
家計管理・公的制度の紹介・教育費や老後資金の貯め方・奨学金・投資など「すぐに役立つお金の話」を分かりやすく伝えるファイナンシャル・プランナーとして活動。 シングルマザーや子育て世代の女性へ向けて、公的機関でのセミナー講師業や個別相談(対面・オンライン)を中心に行っている。 資格:AFP(日本FP協会認定)・証券外務員1種

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