THE OWNER特別連載「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」第15回目は「サブスクモデルの盲点や将来起こりうる可能性にはどんなものがあるのか」という経営者のお悩みについてお答えします。

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【今回のご質問】
サブスクモデルが最近どの業界にも流行っているように見受けられますが、サブスクモデルの盲点や将来起こりうる可能性について教えて下さい。個人的には、安易にサブスクへ走るべきではなく、これまでのサービスをサブスクにするからには戦略的な勝算を立ててからだと思っています。

結論からいうと「体力勝負の消耗戦になりやすく、レッドオーシャンにもなりやすい」というリスクの高いビジネスモデルなので、中小企業にはあまりお薦めではありませんが、戦い方がない訳ではないといったところです。その理由を解説するためにも、まずはそのメリット・デメリットを確認することから始めましょう。

日沖 博道(パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長)
日沖 博道(パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長)
【略歴】アーサー・D・リトルでシニアマネジャー、日本ユニシスで統括パートナー、アビームコンサルティングでディレクターを務める。経営コンサルティングと事業会社経営(ベンチャー企業、合弁企業など)を交互に経験し独立、2012年より現職。
【学歴】一橋大学 経済学部卒、テキサス大学オースティン校 経営大学院修士(MBA)
【専門領域】事業戦略、マーケティング戦略、ビジネスモデル、BPRとBPM
【最新著】『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』
【パスファインダーズ社】少数精鋭の戦略コンサルティング会社として、新規事業の開発・推進・見直しを中心としたコンサルティングを提供。
URL:https://www.pathfinders.co.jp/

サブスクモデルのメリット

【第15回】サブスクモデルの盲点や将来の可能性はどんなものか?
(画像=THE OWNER編集部)

サブスクモデル、すなわちサブスクリプション・モデルとは、企業が顧客に対して商品・サービスを一定期間提供し、月単位や年単位などの利用料を回収するビジネスモデルです。サブスクモデルの主なメリットを以下に整理してみました。いずれも「売り切りモデル」との対比で考えられていることに注意してください。

サブスクモデルの盲点や将来の可能性はどんなものか?
(画像=THE OWNER編集部)

利用者とすると一番大きなメリットは、初期費用を抑えられるので、興味がありながらもこれまで高額でなかなか購入に踏み切れなかった商品・サービスをお試し感覚で気軽に使うことができる、というものでしょう。「お試し」して期待通りでなかったら、月単位の契約なら最初の1ヶ月で解約してもいいし、「買って損した……」という気持ちを味わうリスクが少ないと言えます。飽きたら別の商品・サービスに切り替えることも可能なので、新しい商品やサービスに出会いやすくなるとも云えます。

また、買い切った製品なら最後の廃棄処分にも費用が掛かりますが、サブスクなら返せばいいだけなので、捨てる手間や費用が不要になります。所有物として管理する手間も省けます(企業の場合は意外とこの要素も重要です)。

一方、提供者である企業からみたときには、利用者が「気軽に試せる」というメリットを感じてくれれば利用開始へのハードルが下がります。それを見越して低価格なプランを提供することで、さらに顧客層を拡大できると考える企業も多いのです。単価が下がっても、大量に新規のお客様が増えかつリピートすれば大きな売上げになると考えるのです。そして(当初無料を含め)低価格で利用を開始してもらうので、「売り切りモデル」に比べて新規開拓の労力が軽くなります。

そして一旦サブスク契約をすると、一定の割合の利用客は商品・サービスに不満を抱かない限り継続利用してくれます。結果として「売り切りモデル」のときよりむしろ多くの収入になるケースも少なくありません。つまり提供企業とすると、利用客が満足している限り、とても「おいしい」ビジネスモデルになり得る訳です。「売り切りモデル」の場合には毎期の売り上げが大いに変動することがよくありますが、サブスクモデルなら事業全体としては安定的に売り上げを積み増しできるという望ましい特性を持っています。つまり事業の安定度が増す訳です。

提供企業は利用契約を結ぶ際にお客とのコミュニケーション方法を確立できますので、利用客からの満足度やその他のフィードバックを受けることもできます。(IT企業の場合にはさらに利用者の趣味嗜好や生活スタイルのデータをリアルタイムに取れることも多く)そうしたデータを分析しながら素早く改善施策を打つことが可能です。

サブスクモデルのデメリット

一方でサブスクモデルにはデメリットもあり、主なものを以下に整理してみました。メリットの裏返しであるものが少なくありません(何事も、いい面があれば悪い面もついてくるものです)。

サブスクモデルの盲点や将来の可能性はどんなものか?
(画像=THE OWNER編集部)

利用料が比較的低額であるため、利用者としては大して利用しなくても何となく契約し続けることが少なくありません。一旦契約を解除して、また必要な際に利用契約を結び直すというのが面倒なのですね(ある意味、これが提供側企業の狙いでもありますが)。そして毎月の利用料は大した額でなくても、ずっと契約したままだと意外な出費になって「これなら買っておいたほうが割安だった」ということになるかも知れません。

また、(購入する場合にはシビアに少しでもコスパのよい機種を選ぶ人でも)「一時的に利用料を払えばいいのだし、せっかく試すのなら」と必要以上の機能を持った上位機種を契約する傾向があり得ますが、使いこなせないまま割高な利用料を払い続ける、というパターンに陥りやすいとも言えます。

それと、定常的に利用することで依存しやすいサービスの場合は、値上げのリスクを忘れてはなりません(サービス規約上、提供者側はいつでも価格の変更ができるようになっていることが一般的)。また、価格政策で「最初の〇〇ケ月はXX%オフ」とか打ち出している場合、利用者は当初その期間内でサービスを解約しようと思っているのに、実際は本来の価格に戻った(利用者の感覚では「値上げされた」)後も使い続けてしまう、というのもありがちです。

一方、提供企業にとっての第一で最大のデメリットは、簡単に解約されるリスクがあることです。「売り切りモデル」なら販売してすぐにまとまった金額を回収できますが、サブスクモデルは長期的に売上げを積み上げるモデルなので、資金の回収も遅くなります。例えば3年以上契約し続けてもらわないと資金回収できないのに、あっさりと半年で解約されてしまうと、(仮に中古市場に回して多少の回収をするとしても)かなりの「持ち出し」になってしまいます。

こうした早期解約がごく少数の顧客で発生するならまだしも、多くの顧客で同じように発生する、つまり平均解約率が高い場合、事業としては成り立たなくなってしまいます。特にサービス内容や提供製品が競合に見劣りしたり、何か顧客満足を下げてしまう重要な欠陥がサービスにあったりすると、一挙に解約率が高くなってしまいます。

したがって競争に打ち勝って顧客の満足度を高めるための方策を色々と講じる必要が出てきますが、そのための手間・費用が掛かることがデメリットになるのです。具体的には、競合に負けないよう、常に新しいコンテンツやサービスを用意する必要があり、息つく暇もありません。また、不満や問題を抱えた利用客が離脱しないよう、カスタマーサポート体制を充実させる必要がありますが、その負担が大きくなる傾向は否めません。

提供企業にとってのもう一つのデメリットは事業計画上のものです。事業モデルを「売り切り」型からサブスク型にシフトしようとすると一時的に売上が下がるのです。冷静に分析すれば、すでに述べたように事業の安定度は増す訳ですが、例えば株式市場などは単純に「売上減、すわ一大事」と捉えて株が売られるかも知れません。

サブスクは「強者が勝者になりやすい」ビジネスモデル

ここまでサブスクモデルのメリット・デメリットを見てきて何が分かるでしょうか。何か盲点があるでしょうか。どんな将来の可能性が秘められているでしょうか。

利用者(消費者または需要家)の立場からいえば、サブスクモデルというものは、合理的でマメな利用者には「お得なサービス」だが、非合理的または怠惰な(つまり大半の)利用者には「ついうっかり乗せられやすいサービス」といえそうです。

合理的でマメな利用者なら、必要な時に必要なだけサービスを利用できるので随分と割安になります。しかし非合理的または怠惰な利用者だと逆に、最初はメリットを享受する気になっていながら、いつの間にかデメリットにどっぷりはまってしまう(必要がなくなったのにずるずると利用料を払い続ける)ことになりがちです。

そして質問者の関心である提供企業側の立場からすると、サブスクモデルというものは、デメリット(解約リスクおよびその対策の負担)を相対的に制御・抑制できてメリット(利用のハードルを下げやすいこと等)を最大限に活かす企業が勝者になり、その反対にデメリットを抑制できない企業はメリットも十分に生かすことができずに敗者になりやすい、といえます。

それは見方を変えると、「強者が勝者になりやすい」ビジネスモデルだといえそうです。どういうことでしょうか。

サブスクモデルは一見、製品や技術に自信のある企業から見ると「おいしい」ビジネスモデルに見えますので、従来の「売り切りモデル」からの転換を検討する企業は少なくありません。しかもサブスクモデルを始めるための仕組み自体は技術的に難しいものではありません(そのためのプラットフォームを提供するサービスも存在します)。そのため参入障壁は意外と低いのです。すると、ある程度の需要が確認できた市場に対し我先に多くの新規参入者が殺到することになりやすいのです。

一方で、ここまで見てきて分かるように、サブスクモデルというのは最初にサービス基盤を確立するために一定規模の投資が必要ですが、売上から上がる利益による投資回収は少しずつしかできません。つまり体力がもともと必要な事業モデルです。しかも見てきたように「低価格で大量の利用者を集める」戦略が有効です。

すると、大きな資本力やもともと広大な顧客基盤を持っているような有利な立場にある大企業が、思い切った規模の投資をして広大な地理的範囲で低価格のサービスを展開してくると、小規模事業者では太刀打ちできません。仮に弱小企業が先行して小さな成功を収めたのを見て巨大企業が後追いで真似しても、悠々と逆転することが可能です。

しかも一旦体力に勝る大企業が「低価格で大量の利用者を集める」戦略に成功すると、体力に劣る企業はそれに対抗する術を持たず、段々と不利な立場に追い込まれ、やがて市場から退出を余儀なくされます。こうして市場に残ることができるのは一部の大企業のみとなりやすい、つまり「強者が勝者になりやすい」のです。

サブスクは「消耗戦」の「レッドオーシャン」に陥りやすい

問題は、市場から退出する企業の判断と行動です。「売り切りモデル」の場合には儲からないとなった時点で単純に損切りをしてしまえばいいのですが(製品によっては保守義務など細かい問題は残りますが)、サブスクモデルの場合には利用者に迷惑が掛かるため、なかなか退出の決断ができずにずるずると先送りして傷口を大きくしやすいという側面があります。

そして多くの場合、その迷惑度を抑制するため、利用者との契約ごと事業を競合に譲渡する形を取ることになります。すると勝ち残る企業はシェアを増やすだけでなく、退出企業の利用契約、つまり将来分の売り上げを労せずに受け取ることになります。実においしいですね。こうして一旦確立した市場から脱落者が出るごとに勝ち残り組は一挙に「太る」ことができる訳です。このパターンに入り込むと、それを繰り返したくなるのが人情です。

ゆえに、この先の大企業同士の生き残りを掛けた戦いは明確に競争相手をつぶすための「チキンゲーム」となって、互いに嫌がる低価格・高品質サービス競争の「消耗戦」に陥りやすく(この程度は顧客の離脱率の期待値次第なので、B2C市場とB2B市場ではかなり違ってくると考えられます)、こうなると典型的なレッドオーシャン市場です。

当然ながら利用者としては、将来逃げ出さない可能性が高い勝ち組のサービス事業者に集中する傾向をますます強くします。結局、1位企業が市場の多くと利益の大半を独り占めし、2位以下の少数の企業は苦しい事業経営を余儀なくされながらも他のサービスとの相乗効果や将来の逆転を夢見て我慢する、という構図になりがちなのです。つまり「勝者総取り」になりやすいのです。

こうしてみてくると、サブスクというビジネスモデルを、グローバル市場を相手にして” Winner takes all”の戦い方に慣れ親しんだ、世界的IT企業が先行して広めてきた理由も納得できるのではないでしょうか。

そして既に述べたように、体力の劣る中小企業にはあまり得意ではない「消耗戦」型のビジネスモデルです。ゆえに、ちゃんと勝ち残れるような戦略を描いた上でないと、安易な参入は大けがの元です。その意味で質問者のご指摘通りです。

中小企業に勝ち残りへの道筋があるとすれば、大企業がおいしいと思わないけれど自社がユニークな強さを発揮できるニッチ市場に絞ってサブスクモデルを先行展開し、中小同士の戦いで勝ち抜いて確固とした地位を築いた上で少しずつ守備範囲を広げる、という戦略シナリオが描けるかどうかです。いわば中小企業が肝に銘ずべき「弱者の戦略」の基本を徹底することです。

その先に市場がそれなりに広がって(例えば隣接市場でもサブスクが適用できるようになって)「美味しく」なってきたら、要警戒です。体力のある大手企業と組んで(場合によっては資本を引っ張り込んででも)、新規参入の大手企業とも戦える体制を築くという2段構えと覚悟が必要です。

リスクの高さを認識し、あえて参入するなら冷徹な勝ち残り戦略を描くべし

ではここまでの話を整理しましょう。次の3点が主旨です。

1)提供企業側の立場からすると、サブスクモデルというものは、デメリットを制御・抑制できてメリットを最大限に活かす企業が勝者になり、その反対にデメリットを抑制できない企業はメリットも十分に生かすことができずに敗者になりやすい。

2)サブスクモデルというものは「強者が勝者になりやすく、消耗戦のレッドオーシャンになりやすく、勝者総取りにもなりやすい」ビジネスモデルなので、中小企業が安易に手を出すのはリスクが高い。

3)もしやるのなら、大企業が参入したがらないニッチ市場に絞って「弱者の戦略」の基本を徹底し、いざとなれば資本力のある大企業と組んででも勝ち残るという覚悟をもって始めるべし。

以上です。周到な研究と準備、賢明なご判断を期待します。

文・日沖 博道(経営コンサルタント・パスファインダーズ株式会社 代表取締役社長)

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