本記事は、守屋実氏の著書『起業は意志が10割』(講談社)の中から一部を抜粋・編集しています

【新国語1】リモートコミュニケーションへの移行

オンライン
(画像=kai/PIXTA)

「新国語」について解説する。ビフォー・コロナからウィズ・コロナへの移行によって、「国語」のあり方は大きく変わった。「5年のジャンプ」で、もっともわかりやすく進化圧にさらされたのは、この国語の領域だったかもしれない。

何か話し合うべき案件がある時に、「ひとまず会って話しましょう」ということが成立しにくくなり、オンラインツールを活用したリモートコミュニケーションが一般化した。これは、対面2.0とでも呼ぶべき大きな進化圧となった。リモートコミュニケーションに対して、対面でのコミュニケーションを何と呼ぶべきか迷いがあるが、ここでは「ローカルコミュニケーション」と称することとする。ローカルコミュニケーションで重要視されたのは、丁寧さや礼儀だった。話す内容よりも、「きちんとしていて信頼できそうな人だな」という印象を与えることこそが重要だったのだ。

一方のリモートコミュニケーションにおいては、丁寧さや礼儀の重要度は格段に下がった。初対面の人とのオンラインの打ち合わせで、名刺の渡し方に気を配った人はいないだろう。そもそも名刺交換自体がなくなった。勧められるまでお茶に手をつけない、なんて発想もない。各々自分が手元にある飲み物を勝手に飲むだけだ。

菓子折りを持っていくとか、説明資料を人数分出力して持参するとか、クリーニングしたばかりのスーツを着ていくとか、そういった「礼儀」の粗方がなくなった。対面において重視されてきたビジネスマナーの要素が一掃されたのだ。

では、ローカルコミュニケーションからリモートコミュニケーションに移行すると、丁寧さや礼儀に代わって、何が重要となるのだろう。

それは、「簡潔能動」である。

まず、「簡潔」とはどういうことか。

リモートになると、行間を読んだ対話や相手の気持ちを察したうえでの提案などは、ほぼ不可能になる。すでに関係性がある人の場合には、「この人だったらこういうことが好みだろう」と思い巡らせて先回りすることができるかもしれないが、初対面でのリモートコミュニケーションで相手の腹を探ることは至難の業だ。

そのため、話しながら空気を読みながら着地点をすり合わせていくよりも、そもそも相手にはわかりやすく、シンプルに、こちらの思いを伝える準備をしておくことが善なのである。リモートにおいて前置きを長々とすれば、「で、この人は何をいいたいんだろう?」と重要な部分が伝わらない危険性がある。丁寧さは最小限にして、簡潔に主題に入っていくことが求められる。

もう一つの「能動」とはどういうことか。

これまで、外国人は自身の主張を明確にし、日本人は自分の心のうちを明かさないなどといわれてきた。「察する」ことに重きが置かれてきたために、その裏返しとして、自身の主張を明確にすることを得意としなくてよかったのである。

しかしながら、リモートコミュニケーションとなった今では、日本人同士のコミュニケーションにおいても、主体的に発言をしなければ相手に意図が通じないようになった。なぜなら、現代の通信技術では、リモートコミュニケーションは、ローカルコミュニケーションに比べて、圧倒的に情報量が少なくて、遅いからである。

対面とパソコンやタブレットなどの小さな画面越しとでは比べるまでもないが、情報量が激減する。会議の参加人数が増えれば、一人当たりの映像はさらに小さくなり表情も読み取れなくなる。一つの会議室に一つのカメラ(パソコン)で会議に臨む会社もあれば、初期設定でビデオ参加者全員の画面をオフにしている会社さえある。もはや、実態として参加しているのかいないのかもわからない。

その状況下で、さらに会話に時差が生じる。時間にすればわずかな時差であっても、クリエイティビティーを阻害するには十分な「遅さ」である。こうした不足を補うリモートコミュニケーションが確実に必要となる。

「簡潔能動」のコミュニケーションを取るために重要なポイントは2つある。

1つ目は、結論を先にいい、根拠を後付けする話し方を徹底すること。

2つ目は、「我が社」や「私」の話ばかりをしないこと。不思議なもので、話し手が主語の話は、対面で聞くよりもリモートで聞くほうがずっと長く感じるものだ。優先すべきは、「あなたのメリットはこれです」と「だからこうしたいんです」という相手に利益を設計したうえでの主張だ。

これは新型コロナウイルス感染症以前からの話だが、相手に対する提案書のはずが、「相手に考えさせる提案書」になってしまっていることが本当に多い。タイトルだけは「提案書」だが、書いてあることは「自社の強み」だけなのだ。つまり、「この強みを活かせる方法をあなたが考えて私に教えて」というコミュニケーションになってしまっているのだ。このコミュニケーションでは、これからは、まったくもって通用しない。このことは、くれぐれも肝に銘じておいてほしい。

リモートコミュニケーションでは、ボソッとつぶやいたことを誰かが「それいいね!」と気を利かせて拾ってくれることはない。そんなつぶやきを拾うほどパソコンやタブレットのマイクの性能は良くないし、他の人が話している時にミュートにしていれば自分の声は届かない。

「移動しなくて楽になったな」という感覚だけで、ローカルコミュニケーションと同じようにリモートコミュニケーションをおこなえば必ず穴に落ちる。新国語のコミュニケーションへ舵を切ること。これは本当に肝に銘じておいてほしい。

ポイント
リモートコミュニケーションは、簡潔能動であることが大事。

【新国語2】リモートトラストを築けるか

リモートコミュニケーションの先にあるものは、リモートトラストだ。リモートがコミュニケーションの主軸となった社会では、リモートだけでも信頼を築くことができる力が必須となる。そうして築き上げた信頼が、リモートトラストである。

今後、リモートコミュニケーションに長けている人と長けていない人とでは、いわゆる日本の歳出と税収の差で揶揄されるワニの口のごとく、差分が広がることは間違いない。リモートコミュニケーションの先に積み上がるリモートトラストにおいては、致命的な差分を固定化させてしまうことになる。

リモートコミュニケーションとなり、打ち合わせの時間の使い方自体に変化が生まれた。どういうことか説明しよう。

「オンラインで1時間、打ち合わせをさせてください」と時間を確保したものの、打ち合わせが早めに終わってしまったという経験はないだろうか。もしこれが対面の打ち合わせであれば、出されたお茶でもすすりながら、「最近の事業はどうですか」「じつは今回の件とは関係ないんですがこんなことがありまして」とちょっとした脱線話をしたのではないだろうか。それは「わざわざ足を運んでもらったのだから」という気遣いかもしれないし、「せっかくここまで来たんだから」というなんとなくの損得勘定かもしれない。

しかし、オンラインの場合には「1時間、打ち合わせの時間をください」と頼み、早めに終われば「では、また質問があればメッセージしますね」といい、接続を切ってしまうのではないだろうか。実際、何か不足があれば、その後メールでもメッセンジャーでも改めてのズームでも、いくらでも連絡の取りようがある。その日のうちに、「再度10分だけ打ち合わせしよう」ということもザラだ。

つまりは、時間の単位が、「1時間、2時間」の単位から「1分、2分」に変わったということである。もはや、一日は8時間労働ではなく、480分労働となったと見るほうが正しいだろう。

この変化は、何を意味するのか。これは、いい意味でも悪い意味でも打ち合わせ時間の中での「余白」がなくなったということを示している。余白がなくなったから、無駄な時間がなくなり、一日に10本くらいの打ち合わせを詰めることが可能になった。時空を跨ぎ、圧倒的な効率を手に入れることができるようになったのだ。

一方で、対面時にあった、余白の中からポロリとアイデアが生まれたり意外な趣味で意気投合したりする良さはなくなった。リモートコミュニケーションは、目的的なことに適したスタイルであり、偶発的なことに弱いスタイルであるといえる。

この特徴を活かすためには、打ち合わせ前におこなう予習が大事だ。打ち合わせのゴールは何なのかを踏まえたうえで、自分の主張と根拠を明確化して臨み、ぎゅっと濃縮した打ち合わせを心がける。

オンラインのミーティングでは、ゆるゆるとした時間の中で、なんとなくこちらの言わんとするところを察してもらうことはできない。事前に、入手できる最大限の資料を集めておいたり、自分が話したい資料を事前に先方に送っておいたりといった予習がこれまで以上に必要となる。

復習も同様だ。その打ち合わせで何か足りないことがあったら、サクッと質問を送っておく。この予習、本番、復習のコミュニケーションを、オンラインらしく軽やかなコミュニケーションとしてできるかできないか、そして、その積み重ねの先にあるリモートトラストをどこまで大きくできるかが、ウィズ・コロナ時代を生き抜く肝になる。

5年のジャンプを自然体で受け入れることができるか、強制的なジャンプについていけず、大事な変化を受け入れられないか、この先、大きな違いを生むことは間違いない。

ポイント
リモートコミュニケーションに長けることで、ビジネスに不可欠なリモートトラストを手に入れる。

起業は意志が10割
守屋実(もりや・みのる)
1992年ミスミ(現ミスミグループ本社)入社、新規事業開発に従事。2002年に新規事業の専門会社エムアウトをミスミ創業者の田口弘氏と創業、複数事業の立ち上げおよび売却を実施。2010年守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動。ラクスル、ケアプロの立ち上げに参画、副社長を務めた後、博報堂、サウンドファン、ブティックス、SEEDATA、AuB、みらい創造機構、ミーミル、トラス、JCC、テックフィード、キャディ、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会、JAXA、セルム、FVC、日本農業、JR東日本スタートアップ、ガラパゴス等の取締役などに加え、内閣府有識者委員、山东省人工智能高档顾问を歴任。2018年にブティックス、ラクスルを、2ヵ月連続で上場に導く。著書に『新しい一歩を踏み出そう!』(ダイヤモンド社)がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)