本記事は、守屋実氏の著書『起業は意志が10割』(講談社)の中から一部を抜粋・編集しています
7つの大罪
僕の失敗のいくつかをまとめたものとして、僕の30年の起業のプロの人生から得た「起業版7つの大罪」がある。「7つの大罪」は、ご存知の通り、キリスト教でいう「7つの死に至る罪」を指す。内容的には、罪そのものというより、「人間を罪へと導く可能性のある、7つの感情や欲情」だと考えられる。その起業版であるから、「事業を失敗へと導く可能性のある、7つの姿勢や行動」という意味になる。
その7つは、次の通りだ。
第1の大罪 意志なき起業 第2の大罪 経験なき理屈 第3の大罪 顧客なき事業 第4の大罪 熱狂なき業務 第5の大罪 挑戦なき失敗 第6の大罪 利他なき利己 第7の大罪 自問なき他答
第1の大罪 意志なき起業
本書では、「意志」の大事さについて、たびたび触れてきた。起業を考えているならば、その起点はあなた自身の意志でしかない。また、新型コロナウイルス感染症により、5年の時をジャンプした今、起業に限らずとも、企業内での新規事業においても、そして既存事業、本業であっても、意志の強さが求められている。人は心が原動力である。挑戦したいという熱量のない取り組み姿勢は、罪でしかない。
第2の大罪 経験なき理屈
起業は挑戦だ。にもかかわらず、挑戦から遠ざかった人間が、ナナメ上から言葉を発することがある。今ではとっくに通じなくなった昔の栄光からモノをいう年輩者はもちろん、いくぶん事業をかじった中途半端な経験でカタカナ用語を振りかざすミドル、未経験なのに小手先の理論でビジネスを語る若手まで、その出現率は高い。
たしかに、ビジネスのフレームワークは大きな武器であり、だからこそこうして僕自身、書籍にまとめている。ただし、間違えないでほしいのは、あくまで「学びは自らのおこないからしか生まれない」ということである。誰かのうわべだけを真似しようとするのではなく、また、学生の頃の穴埋め問題のような知識だけの学びではなく、あなた自身の実戦による実学に重きをおいてほしい。
第3の大罪 顧客なき事業
「顧客から考える」で、「あなた自身が『(事業を)やる!』と決めた時に、どのような事業をするのか、なぜやるのか、何を善とし、何を悪とするのか。この時のもっとも重要な決め手となるのが、『顧客視点』だ。つまりは、顧客の立場に立って、顧客の問題を見るということである」とお伝えした。さらに一般的なマーケティング用語である、「プロダクトアウト→マーケットイン」を、わざわざ「マーケットアウト→プロダクトイン」と書き換えてお伝えしたことを忘れないでほしい。
大企業での新規事業の場合には、顧客不在の外注丸投げ事業や社内政治事業に注意してほしい。あなたの仕事は、顧客に価値を生むことだ。業務を管理することや、上司に評価してもらうために努力をすることではない。スタートアップでは、起業とはこういうものだと思い込んで突っ走ったり、手段であるはずの最先端の技術ばかりを追いかけてしまったりすることに注意してほしい。顧客の価値を生み出すための手段や形式が先にきてしまってはいけない。
一方、顧客のことだけを見て事業全体の収支を見ないのでは、社会活動家になってしまう。顧客に対するあなたの思い入れだけでは、事業としては成立しない。マネタイズもセットにして考えなければならない。また顧客に対する市場調査や統計だけから導き出された事業は、生身の手触り感が希薄だ。「理屈だけの事業」「あったらイイナ事業」では、やはりマネタイズがついてこない。
事業がうまくいかない時、それは「顧客なき事業」である可能性が高い。
第4の大罪 熱狂なき業務
【新道徳2】では、「会社のプロ」から「仕事のプロ」へと時代の転換を示した。しかしながら、根強く残る「会社のプロ」としての習い性が、「過度な組織的思考」を発揮してしまいがちだ。
担当した業務を誠実に頑張る。しかも、新たな業務を生み出すことはほとんどなく、すでに生み出されている業務を管理したり、調整したりすることをずっと量稽古してきた。これは、組織人としては当たり前に大事な姿勢と行動ではあるが、起業においては上位概念の欠落につながってしまう「クセ」に他ならない。
部分よりも全体、手段よりも目的、現象より本質を追い求めてほしい。目の前の業務をこなすという作業を超えた、顧客価値の実現のために熱を持ち続けてほしいのだ。正しい「熱」は、必ず価値を生むはずだ。
第5の大罪 挑戦なき失敗
「3つの切り離し、2つの機能、1人の戦士」で、本業の影響力の危険性について書いた。保守的な企業は、失敗を不適切に恐れる。
たとえば、とあるメーカーでは、「間違っても間違わない」という100%の安全基準が徹底されていた。巨大な本業での製造現場では、それは正しい。しかしながら、それを新規事業に当てはめてしまっては、事業を進められない。とある広告代理店では、ありとあらゆる業界や業種にクライアントがいるという本業の構造が、新規事業とバッティングした。何を考えても、必ず既存のクライアントと競合し、思い切った手が打てないのだ。
これらの企業は、挑戦して失敗をするどころか、挑戦することもできずに失敗(参入さえできない)を年中行事のように繰り返しているのである。
第6の大罪 利他なき利己
「利己」とは、出世や保身、地位、名誉、金など、誰もが想像できる「ビジネスシーンの欲望あるある」を前提としている。
たとえば、組織のあるある保身サイクルは、「組織の成長→多様性のためのルール構築→ルールの定着→前任の踏襲→ことなかれ主義の定着」であったりする。
また、個人のあるある保身サイクルは、「個人の成長そして安定→守るべきものの増大→保守化」や、「個人の失敗そして不安定→守ることで精一杯→保守化」など、こうした事例には事欠かない。
利己がはびこる事業は必ず失敗する。起業で重要なことは、利他である。
第7の大罪 自問なき他答
本書ではここまで、さまざまなことをお伝えしてきた。
•コロナ禍によって、商機と勝機が大量発生したこと。 •動いた人にだけ、道が拓けるということ。 •起業において一番大事なことは「意志」であり、事業は「顧客から考える」こと。 •成功と失敗の定義。 •道徳、国語、算数の3科目の進化系としての新道徳、新国語、新算数。 •学びは自らのおこないから、という姿勢と行動。 •そして、本節の「起業版7つの大罪」
本書で僕は、自分の30年の起業経験の集大成としてまとめた経験値を、あなたの今後の取り組みに活かしてほしいと願っている。しかし、僕があなたでない以上、あなたにとって本書はあくまでも参考にしかならない。大事なことは、「他人の答えに頼らずに、自ら問い、自ら答え、自らおこなってほしい」ということだ。
本書は僕の経験を、可能な限りシンプルにまとめて伝えている。シンプルにしているのは、わかりやすさを取ったからだ。一方、バッサリと枝葉をそぎ落としたことですべてを表現できていないというデメリットもある。だからこそ、あなた自身で考えることを欠かさないでほしいのだ。
「Aだ」というと、「では、Bではないのですね」といわれることがある。可能な限りシンプルにしたから「Aだ」といっているのだ。より複雑に話せば、「状況によってはBであり、別の要素が加わればCかもしれず、そしてCにも3つのパターンがあり、C①、C②、C③とある。かつ、そのどれでもないこともある」というようなことさえある。大事な部分を抜き出してシンプルに「Aだ」と言い切っていることを理解してほしい。
「ヒトの経験談、他者から借りてきた小理屈」を、「深い思考とセットにせずに、うわべを単純参照する」ことは、決してしてはいけない。それは、悪手中の悪手だ。
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