本記事は、守屋実氏の著書『起業は意志が10割』(講談社)の中から一部を抜粋・編集しています

3つの切り離し、2つの機能、1人の戦士=大企業新規事業の失敗学

失敗
(画像=MaCC/PIXTA)

「5勝7敗5分け」の経験は、会社員時代の経験だった。僕の起業人生30年の中でいうと前半にあたる。残念ながら後半の守屋実事務所を立ち上げてからも、いくつも失敗を経験した。自ら代表として起業して失敗したこともあれば、スタートアップや大企業の事業開発部門に参画しての失敗もある。

「3つの切り離し、2つの機能、1人の戦士」は、その中でも「大企業の社内新規事業の非常勤メンバー」として参画させてもらった時の失敗からの学びだ。

この学びの精度は、相当高い。

何を言っているのかというと、「大企業の新規事業の失敗の99%は、この学びが当てはまる」からだ。

正直な話、大企業での新規事業の成功は簡単なことではない。しかし僕は、大企業のそれを諦めたくないと思っており、大企業が持つ力は甚大だと信じている。たとえば、JR東日本グループが展開している事業として、Suica事業がある。JR東日本グループ沿線にお住まいの方ならば、多くの方がSuicaを持っているだろう。この事業は、明らかにユニコーンである。もちろんJR東日本グループが提供しているカードサービスであり、株式会社Suicaというスタートアップがあるわけではないのだが。

同じく、セブン‒イレブン・ジャパンが展開するセブンカフェもユニコーンといえるかもしれない。こちらも株式会社セブンカフェというスタートアップがあるわけではないが。他にも大企業の中のユニコーン的な新規事業は多く存在する。こう考えると、大企業の新規事業が我が国に及ぼす影響は大きく、日本の再びの成長に大企業における新規事業が担う部分は大きい。だから、これからも大企業の社内新規事業の非常勤メンバーとして参画させてもらえる機会を得たいと考えているし、実際に参画をさせてもらっている。

では、大企業の新規事業に参画する僕が見つけた失敗の学び「3つの切り離し、2つの機能、1人の戦士」について、説明をしよう。

(1)3つの切り離し

「3つの切り離し」とは、大企業の中で新規事業を立ち上げる前に3つほど切り離すものがあるという学びだ。

大企業には、大企業にまで成長を押し上げた優良で強靱な本業がある。その本業が強ければ強いほど、そして長年続けていればいるほど、組織の隅々、参画者の全員が、「本業組織、本業人材」となっている。これは至極当然のことだし、だからこそ、その本業が強くあり続けることができる。

一方、当然ながら新規事業は本業ではない。つまり、本業≠新規事業、本業組織≠新規事業組織、本業投資≠新規事業投資、ということになる。この当たり前の構造が起因して、新規事業はすべて「本業の汚染」に遭っている。だから、新規事業を本業から切り離す必要があるのだ。

「3つの切り離し」の3つは、資金、意思決定、評価である。

「資金」を切り離すとは、単年度会計から新規事業を切り離すということである。

多くの企業は当年4月〜翌年3月の「期」で動いている。だから事業の計画も、組織の計画も、4月〜3月を1つの区切りとする。これは企業の理屈であって、顧客には何の関係もない。あくまで単なる会計上の区切りでしかないのだが、その区切りをもって、メンバーが変わり、上司が変わり、上司の上司が変わり、方針が変わることがある。その結果、予算が大きく変動する。つまり年度ごとに、これまで進めてきたことが止まり、頓挫し、もしくは時計の針が1年戻るようなことが起こる。単年度会計は、微に入り細に入り、ありとあらゆることに影響がある。

「意思決定」を切り離すとは、会議体から切り離すということである。

大企業には、ミルフィーユのような会議体がある。現場での会議、上司との会議、上司の上司との会議……と何層にも重なるミルフィーユだ。一方、新規事業は、その事業が初期段階であればあるほど、顧客のそばにいる最前線の人間が、その時その場の意思決定でどんどん動いていくべきである。

しかしながら、大企業内の新規事業ではそうはいかない。上司への報告や、上司の上司への報告をするために、丁寧なパワーポイントを用意する必要がある。会議体の格が上がれば上がるほど、社内向け作業の負担は大きくなり、新規事業を担当する部署自らの判断だけでなく、事前の関係部署への根回しや、経理や財務への確認、経営企画室の添削など、起案の前段階での実質的な承認の取り付けが必要となる。

そこまでして準備しても会議出席者は、その事業の顧客でもなければ、起業の経験者でもない。実のある議論ができるような状況ではないのだ。新規事業の立場から考えると、その時間があったら1人でも多く顧客を訪ねるべきである。

「評価」を切り離すとは、減点主義から切り離すということである。

大企業の出世レースでは、可能な限り失敗を回避したい。出世コースから外れたくないし、寄り道もしたくない。しかしながら、新規事業はうまくいかなくて当たり前だし、試行錯誤、悪戦苦闘の連続である。この相性は、相当悪い。

人事の平等性など、全社視点でいうといろいろあるのだろうが、新規事業については失敗しても手を挙げた時点でマル、もし事業を成功させていたらハナマルだというくらいがちょうどよい。もちろん、単なる評価ではなく、事業の責任者クラスには事業の成功の度合いに応じた利益分配的な報酬制度や、さらには、分社化したうえでの株式保有など、創業経営者であればごく普通で当たり前の仕組みもセットにして評価したい。

僕はこの3つの切り離しをおこなうことはめちゃくちゃ大事だと思っている。が、それがなされることは、ほぼない。それは、単なる新規事業施策というよりは、会社の基本設計に触れる部分でもあるからだ。結果、検討の俎上に載ることすらなく、従前通り時が過ぎる……。失敗の山が消えることはない。

(2)2つの機能

「2つの機能」とは、大企業の新規事業組織は、事業を立ち上げる機能よりもむしろ社内と戦う機能が必要だという視点である。

本来は新規事業なのだから、外に目を向けるべきである。顧客の声に耳を傾け、敵の動きを察知し、外で戦うための組織であるべきだ。しかし、「3つの切り離し」でも書いた通り、現実はそうはなっていない。本業の延長線上の新規事業となっている。だから、外戦部隊だけでなく、内戦部隊も必要となってしまうのだ。新規事業の最前線で戦っている仲間のために、環境を整える必要があるということである。

新規事業の現場で何が起こっているのか、本業のみんなに知ってもらい、力を貸してもらうための社内広報活動人材が必要だ。この機能がないと、せっかくの社内リソースを活用することができず大企業の有利を発揮できない。既存事業部は、新規事業に協力しても、労力だけ使い評価にはつながらないから協力するインセンティブがない。そこをどうにかして協力を取り付ける社内交渉機能が必要なのだ。

戦いの結果から得た知見を、次に活かすための記録として可視化、そして新規事業が生み出され続ける文化をつくる必要がある。この機能がないと、せっかくの経験値を蓄積することができず、いつまで経っても「初めての新規事業」になってしまう。担当者が替わるたびに、同じ失敗の上塗りをしてしまうのだ。

だからこそ、「2つの機能」が必要なのである。

(3)1人の戦士

「1人の戦士」とは、大企業の新規事業人材は、その企業における経営者候補であるべきだということである。

新規事業の勝負の分かれ目は、そうそう経験できることではなく、その経験は経営者候補の人材として間違いなく鍛錬となる。

大企業になればなるほど、参画者の担う領域は狭くなってしまう。たとえば、マーケティング本部長という立場は社内では「偉い人」かもしれないが、見ている範囲はマーケティング費という経費のひとつにすぎない。一方、新規事業の責任者は、マーケティング本部長よりも予算の桁は2つも3つも小さくなるかもしれないが、損益計算書(PL)はもちろん、バランスシート(BS)もキャッシュフロー計算書(CF)も見ることになる。この圧倒的な視野の広さが、経験の質を変える。だから、意志ある経営者候補の人材を躊躇なく投入する必要があるのだ。

「3つの切り離し」ほどではないが、この「2つの機能」と「1人の戦士」も、なかなかなされることはない。2つの機能を持てない理由は「新規事業にリソースをそこまで回せない」からであり、1人の戦士が立ち上がれない理由は「エースに異動されたら本業が困る」からである。結果、検討の俎上に載ることは稀で、従前通りのまま時が過ぎることが多い。やはり、失敗の山が積み上がることからは逃れられないのだ。

ポイント
大企業の失敗には、共通の原因がある。
「3つの切り離し」「2つの機能」「1人の戦士」を取り揃えろ!

起業は意志が10割
守屋実(もりや・みのる)
1992年ミスミ(現ミスミグループ本社)入社、新規事業開発に従事。2002年に新規事業の専門会社エムアウトをミスミ創業者の田口弘氏と創業、複数事業の立ち上げおよび売却を実施。2010年守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動。ラクスル、ケアプロの立ち上げに参画、副社長を務めた後、博報堂、サウンドファン、ブティックス、SEEDATA、AuB、みらい創造機構、ミーミル、トラス、JCC、テックフィード、キャディ、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会、JAXA、セルム、FVC、日本農業、JR東日本スタートアップ、ガラパゴス等の取締役などに加え、内閣府有識者委員、山东省人工智能高档顾问を歴任。2018年にブティックス、ラクスルを、2ヵ月連続で上場に導く。著書に『新しい一歩を踏み出そう!』(ダイヤモンド社)がある。

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