スマートグリッド化で日本はどう変わる?
上記のメリットを見ると分かるように、スマートグリッドは多方面にさまざまな影響を及ぼすため、企業がスムーズに対応するには今後の動向を予測しておく必要がある。
では、スマートグリッド化によって日本はどう変わっていくのか、ここまでの内容も踏まえて一緒に考えてみよう。
日本全体の省エネ意識が高まり、多くの関連分野との協力体制が築かれる
日本の停電対策はすでに優秀であり、なかでも電力供給の安定性は世界的に高く評価されている。欧州に比べても年間の停電時間は2分の1から3分の1程度であるため、停電対策という意味でのスマートグリッド化の必要性はそこまで高くないと言えるだろう。
しかし、その一方で日本は「環境意識が低い」と見られることもあり、過去にはCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)で化石賞(※皮肉を込めて授与される賞)を受賞した経験がある。SDGsやESG投資の重要性が世界中で唱えられるなか、日本の環境意識を世界レベルまでもっていくには、再生可能エネルギーを積極的に活用しなければならない。
このような意味合いで言うと、スマートグリッドの必要性は高まっていき、導入が進むとともに国内全体の省エネ意識も高まるはずだ。
ただし、スマートグリッド化をスムーズに進めるには、電気・電子工学はもちろんIoTの技術も必要になる。また、スマートコミュニティを全国的に発展させるとなれば、土木業や不動産業などあらゆる分野の協力が必須になるだろう。
したがって、このままスマートグリッド化が順調に進んでいけば、多くの関連分野(企業)が協力体制を築く可能性が高い。
2つの課題により、本格的な導入までには時間がかかる
スマートグリッドの実証実験は各地で進められているものの、現時点では以下の2つの課題を抱えていることも理解しておきたい。
○スマートグリッド化の主な課題
上記のなかでも【2】は深刻な課題であり、アメリカではすでにスマートメーターがハッキングされた被害が報告されている。セキュリティ対策を万全にした状態で導入しなければ、日本でも不正に電気料金を下げることを目的としたサイバー攻撃が発生するかもしれない。
2021年2月時点ではあくまで実験段階の技術なので、本格的にスマートグリッドが導入されるまでにはもう少し時間がかかるだろう。
すでに実用化されている? スマートグリッドの導入事例
スマートグリッドの導入には時間がかかるものの、すでに実用化に向けて動き出している地域や企業も存在する。スマートグリッド化に向けて準備を整えるには、現時点で「どの段階まで実用化が進んでいるか?」を押さえておくことも重要だ。
特にスマートグリッドとの関連性が強い企業は、以下の事例に目を通して現状を理解しておこう。
【事例1】スマートグリッド・シティの構築など、広い範囲での実証実験/アメリカ
アメリカのコロラド州ボルダーでは、すでに多くの実証実験が行われている。ボルダーはスマートグリッド化のテスト区域として、アメリカ初となる「スマートグリッド・シティ」に選ばれた。
2010年の時点ではコスト面などさまざまな課題が浮き彫りになったが、将来的には各家庭にスマートメーターを設置し、太陽光発電の導入も順次進められる予定だ。ボルダーは一般的な規模の都市(人口約10万人)であるため、この地域での実証実験の結果は世界中で参考にされるかもしれない。
また、アメリカはボルダー以外にも、カリフォルニア州やマサチューセッツ州、カンザス州など広い範囲でスマートグリッド化の実証実験を進めている。
【事例2】2030年の系統運用を目指したプロジェクト/東京電力パワーグリッド株式会社
東京電力の関連会社である「東京電力パワーグリッド株式会社」も、すでに実用化に向けて動き出している。2018年頃には東京都新島村に再生可能エネルギー設備を構築しており、蓄電や送電に関するさまざまな実証実験を行った。
また、スマートメーターについては、2021年3月末時点で約2,840万台設置されている。同社は2030年の系統運用を想定しているため、これから10年足らずの間に世の中は大きく変わるかもしれない。