種苗法の改正で何が変わる? 知っておきたい2つのポイント

ここからは、種苗法の改正内容について詳しく解説しよう。細かく見るとさまざまな点に手が加えられているものの、主な改正点としては以下の2つが挙げられる。

1.登録品種の育成者が、許諾なしで輸出国や栽培地域を選べるようになる

ひとつ目の改正点は、登録品種の輸出先に関する内容だ。新種苗法が施行されると、種苗の育成者(開発者)が輸出国や栽培地域を許諾なしで指定できるようになり、これに違反し指定の栽培地以外に持ち出した者には罰則が科せられる。

指定できる範囲は国内のみ、もしくは特定の都道府県のみとなるが、種苗が海外に持ち出されるリスクを抑えられる意味合いは大きい。また、育成者には差し止め請求をする権利も付与されるため、種苗の持ち出しに後から気づくようなケースにも対応可能だ。

2.登録品種の自家増殖をする場合に、育成者からの許可が必要になる

登録品種の自家増殖が制限される点も、農業関係者が押さえておきたいポイントになる。

これまでは、自治体などが優良な種苗を安く販売しており、その種苗を自家増殖させて利益を得る農家が存在していた。しかし、2021年4月からは育成者の許可を得ない限り、登録品種を自由に自家増殖させることができなくなる。

ちなみに、この制限の対象には個人も含まれるが、食べることのみを目的とした栽培は規制の対象外だ。あくまで、登録品種の持ち出しによる利益を規制するための改正なので、その点は誤解せずに覚えておきたい。

種苗法改正で日本はどうなる? 農業や食、ビジネスへの影響

では、実際に種苗法が改正されると、日本にはどのような変化が生じるだろうか。改正による影響は多方面に及ぶため、以下では「農家・一般家庭・企業」の3方面に分けて想定される変化を解説していく。

1.農家への影響

種苗法が改正されると、まず登録品種の育成者の権利がますます強まる。

例えば、個人的に種苗を開発する農家は長年にわたって独占的な販売体制を築けるので、育成者の利益は増える可能性が高い。また、ほかの農家による自家増殖を許可する代わりに、金銭を受け取れる可能性がある点も育成者にとっては大きなメリットになる。

その一方で、登録品種の自家増殖によって生計を立てていた農家は、経済的に大きなダメージを受ける。特に登録品種の割合が多い農作物を育てている農家は、別の農作物への転換を余儀なくされるケースも出てくるだろう。

2.一般家庭への影響

種苗法の改正によって農作物を転換する農家が増えると、特定の農作物の供給量が減ってしまう。その結果、これまで普通に購入していた食材が高騰したり、近所のスーパーに陳列されなくなったりといった影響は十分に想定されるので、一般家庭への影響も軽視はできない。

また、種苗の多様性が失われると、特定地域の食文化が衰退していく恐れもある。なお、前述の通り自家消費を目的とした栽培は規制対象外であるため、家庭菜園に関しては特に影響は生じないと予想される。

3.企業への影響

企業への影響については、業界や業種によって変わってくる。そこで以下では、業界・業種別に想定される影響をまとめた。

○種苗法の改正によって生じる主な影響

食材高騰の可能性も?農家を守る種苗法とは?

上記は必ずしも生じる変化ではないが、今後の動向次第では十分に可能性があるものだ。登録品種を取り扱う企業には少なからず影響が生じるため、該当する企業は世の中の動きをこまめにチェックしておきたい。