新型コロナワクチンにまつわる、科学的根拠のない情報が世界中のSNSで拡散されている。「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンはDNAを改ざんする」「人体にマイクロチップを埋め込むためのビル・ゲイツ氏の陰謀」など、これまでさまざまな偽情報が世間を騒がせて来たが、ワクチン接種が進むにつれて偽情報も増加傾向にあるという。
今回は日本だけでなく、世界中で話題になっているコロナワクチンのフェイクニュースをご紹介しよう。
SNS上の約7割のワクチン偽情報は、反ワクチン派が流している?
インターネット上で拡散されている偽情報の中には、海外で「ミーム(Meme)」と呼ばれる、画像に一言コメントを付け加えたジョーク要素の強いものもあれば、人々を混乱させ、不安をあおるような悪質なものもある。
コロナワクチンは実用化の歴史が極めて浅いため、接種後の副反応や中期・長期的な影響に関しては、引き続きデータを収集しながら対応するしかない。それゆえに、通常ならば本気にしないような偽情報でも、真剣に受けとめてしまう人もいる。
Facebookを筆頭に、多くのSNSは悪質な偽情報やヘイトスピーチに規制をかけているが、すべてを排除するには至っていない。最近では、「SNS上で出回っている65%のコロナワクチンの偽情報が、12人の反ワクチン派によって流されたもの」であることが、デジタルヘイト撲滅を目指す非営利団体センター・フォー・カウンタリング・デジタル・ヘイト(CCDH)の調査で明らかになった。12人の中には、医師や代替医療(自然療法)ビジネスの起業家などが含まれていたという。
4つのワクチン偽情報
以下、SNSで話題となった偽情報をいくつか見てみよう。
1.「アストラゼネカのワクチンを打つと猿人なる」
英製薬会社アストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発したワクチンは、コロナの遺伝子の一部を無害化したチンパンジーのアデノウイルスに組み込んでいる。このアデノウイルスがベクター(運び屋)の役割を果たすわけだが、「チンパンジー」という単語のインパクトが強烈だったからであろうか、「アストラゼネカのワクチンを打つとエイプ(猿人)になる」という偽情報がSNSで炎上した。もちろん、科学的根拠はゼロだ。
噂の出所であるロシアのSNSやニュース番組には、さまざまな「猿人」のイメージが出回った。最も反響を呼んだのは、英ジョンソン首相の顔を猿人に置き換えて、「ビッグフット(未確認動物)ワクチンでご機嫌」というメッセージを付けたミームだったという。
チンパンジーのアデノウイルスと聞いた瞬間、映画『猿の惑星』が頭に浮かんだ筆者としては、自分自身も含めてあまりの馬鹿々々しさに失笑せざるを得ない。ちなみに、「ロシアのワクチン(スプートニクV)を打つと、5分後に熊になる」というバージョンもある。
2.「著名人の接種写真では、注射針が引っ込むジョーク注射器が使用されている」
ビル・ゲイツ氏やバイデン大統領など、数々の著名人や政治家などのワクチン接種写真がメディアやSNSで公表されているが、「実は注射針が引っ込むジョーク注射器を使用して撮影したもので、本当はワクチンを受けていない」、あるいは「ビタミン剤や食塩水を代用した」という偽情報が流れている。
「ワクチンに対する潜在的な危険性を懸念して、大衆で人体実験をしている」といった猜疑心が、偽情報の根底にあるようだ。
3.「ワクチンを接種すると、PCR検査で陽性が出る」
このように主張するのは、非営利医師団体、アメリカズ・フロントライン・ドクターズ(AFLDS)だ。この団体は他にも、WHO(世界保健機関)などがコロナの治療薬として推奨していない抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンや抗生物質のアジスロマイシン、亜鉛を、「コロナの治療薬」として推奨したり、「マスクは不要」と断言したりするなど、米国を騒がせている。
2020年、当時の米大統領トランプ氏が同団体の動画をリツイートしたところから火が付き、視聴回数が数百万回に達した。動画はさまざまなSNSで拡散されたが、「コンテンツに不適切な情報を含んでいる」という理由で、いずれも削除されたという。
「AFLDSの主張はまったく科学的根拠がない嘘っぱち」と専門家から批判されているにもかかわらず、同団体は「作為的に感染者数を増やし、人々の生活を圧迫することが目的だ」と悪びれる様子もない。
4.「ワクチン接種後に腕を回し続けると、痛みが和らぐ」
ワクチン接種後に、腕の痛みを訴える人が多い。ショート動画アプリ「TikTok(ティックトック)」で話題になっているのが、そんな副反応を和らげる方法で、「風車のように腕を振り回す」と痛みが軽減されるという。
コメントを求められたファイザーやジョンソンエンドジョンソン、医療専門家は、「人体には無害だが、効果がまったく期待できない上に、非常に馬鹿げている」と一笑に付した。
根拠に基づく情報で真偽の見極めを
その他、「故米大リーグのハンク・アーロンはワクチンが原因で死亡した」「ゲイツ氏は自分の子どもにはワクチンを接種させない」「ワクチンは流産や不妊症を引き起こす危険がある」「ペルーではワクチンを拒否すると逮捕される」など、ありとあらゆる情報がインターネット上で拡散されている。思わずクスリと笑ってしまう偽情報ならまだしも、いたずらに人々の不安をあおることが目的の悪意ある情報は、今後、さらに厳格な取り締まりが必要となるだろう。
それと同時に、情報を得る側も無条件に信用するのではなく、根拠に基づく情報であることを確認するなど、真偽の見極めを意識するべきではないだろうか。
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)