「アクションラーニング」とは?5つの効果や基本ルール、進め方を解説
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

世界中の企業や組織で今、アクションラーニングが注目されている。これは単なる研修と違い、今ここにある問題を通じて組織と個人の能力を向上させるための手法だ。

目次

  1. アクションラーニングとは何か
    1. 現実の問題を通じて行うグループワーク
    2. 1930年代に開発されて現代に
  2. アクションラーニングが持つ5つの効果
    1. 1 .効率的な問題解決
    2. 2 .リーダーシップの育成
    3. 3 .チームビルディングの実現
    4. 4 .「学習する組織」の構築
    5. 5 .個人の能力の開発
  3. アクションラーニングの6つの構成要素
    1. 1 .問題
    2. 2 .チーム
    3. 3 .質問と内省(リフレクション)
    4. 4 .問題解決の権限
    5. 5.学習の重要性を認識する責任
    6. 6 .コーチ
  4. アクションラーニングで押さえたい2つの基本ルール
    1. 1 .質問中心
    2. 2 .コーチはいつでも介入できる
  5. アクションラーニングの4つのステップ
    1. 1 .問題を明確にし、全員で共有する
    2. 2 .目標を設定する
    3. 3 .行動計画を作成する
    4. 4 .話合い全体を振り返り、解決策を実行に移す
  6. アクションラーニングでチームと人材の両方を育成

アクションラーニングとは何か

最初に、アクションラーニングの内容を見ていこう。

現実の問題を通じて行うグループワーク

アクションラーニングとは、現実にある組織の課題についてチームが解決策を考えることで、現場で役に立つ問題解決力を養い、組織を活性化する学習手法である。

参加者が自ら行動して学んでいくため、個人のリーダーシップや主体性を培うだけでなく、能力を開発するというメリットがある。また、チームで取り組むため、役割分担や話合いを通じてチームの連携を強化することができる。

1930年代に開発されて現代に

アクションラーニングは今、ボーイング社やドイツ銀行、ジョージ・ワシントン大学など、著名な研究機関や企業で注目されているが、つい最近開発されたものではない。

1930年代、イギリスの物理学者であるレグ・レヴァンスによって提唱された。彼は、当時勤務していたケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所で、多くのノーベル賞級の研究者と交流した。第二次世界大戦後は、炭鉱業界のトレーニング業務をマネジメントする中でアクションラーニングの構想を固め、人材育成や高等教育の場面で広く実践したのである。

その後、1960年代や1970年代も、ヨーロッパ各地でミドルマネージャーの能力開発の手法として用いられ、1980年代にはアメリカでリーダーシップ開発手法として注目を集めるようになった。2000年代以降は、WIAL(世界アクションラーニング機構)がコーチの育成を行うようになり、現在、アクションラーニングは企業にとどまらずNPOや政府機関、大学などでも活用されている。

アクションラーニングが持つ5つの効果

アクションラーニングには次の5つの効果がある。

1 .効率的な問題解決

アクションラーニングでは1人で問題解決を図ることはない。チームの複数人でどうしたらいいかを考える。多様なメンバー同士が議論を重ね、問題を明らかにして解決策を練るのだ。

そのため、同じ部署や部門にいるメンバーだけでは思いつかないような新たな視点による解決策を編み出すことができる。結果、効率的に問題解決を行うことができるのだ。

2 .リーダーシップの育成

アクションラーニングでは、メンバーの主体的な参加が求められる。目標達成のために積極的にメンバーとコミュニケーションをとり、積極的に行動していくことで徐々にリーダーとしての素質が養われていく。

なお、主体的な行動は、チーム1人だけではなく全員に求められる。つまり、アクションラーニングは、単なるチームで活動しながらリーダーを育成できるのである。

3 .チームビルディングの実現

チームビルディングとは、共通の目標にむけて、チームの全員がそれぞれの能力やスキル、経験を主体的に発揮できる組織を作ることだ。

アクションラーニングでは、問題解決がチームの課題であって、チーム内のメンバーに序列はない。そのため、参加者全員にそれぞれが持つ力を発揮することが求められる。

また、能力を発揮するには安心できる環境が欠かせない。そのため、それぞれが抱えている不安や悩みを共有できることも自然と行われる。その結果、協力しやすく、かつ、率直に話し合えるチームを作り上げることができる。

4 .「学習する組織」の構築

「学習する組織」とは、チームのメンバーそれぞれが、新たな知識や技術を積極的に習得しようとする組織のことである。先ほど、メンバーそれぞれの能力を遺憾なく発揮できる効果について触れた。

この効果は、今あるスキルや知識、経験以外のものを新たに習得しようとする意欲をかき立てることにもつながる。それにより、個々人の能力がさらに向上するだけでなく、組織全体の能力が底上げされるのだ。

5 .個人の能力の開発

以上4つの効果は、最後には、個人の能力を開発することにつながる。これは単に、その人が元来持つスキルや能力、経験値を伸ばすことを意味するのではない。それまで弱いと見られた能力を開花させることもある。

例えば、一人で研究するばかりだったメンバーがいたとしよう。アクションラーニングではチーム全体で問題解決に当たるので、コミュニケーションが欠かせなくなる。

その結果、質問や応答の能力が磨かれ、相手の考えを知るための傾聴力も向上する。また、他のメンバーから新たな視点を得ることで、視野が広がり思考力も鍛えられる。アクションラーニングにより、研究する力だけでなく、人間力も磨かれることになるのだ。

アクションラーニングの6つの構成要素

ではここから、アクションラーニングを構成する6つの要素を確認しよう。

1 .問題

アクションラーニングでは実践力を養うため、取り扱う問題は個人や組織にとって重要で、かつ緊急性の高いものとなる。また、個人の問題か組織の問題かでアプローチの仕方が変わる。

個人の問題を扱うときは「マルチプル問題アプローチ」を採用する。これは、メンバーが持ち寄った複数の課題に、チームで取り組む方法だ。

問題提起するメンバーは立候補でも他者からの推薦でも構わない。課題を提示したメンバーは問題提示者となり、提案された解決策を実行する。

組織の問題を扱うときは「シングル問題アプローチ」を採用する。この場合、組織が問題提示者となり、メンバー選定を行う。チーム全体で解決策を編み出し、実行する。

2 .チーム

アクションラーニングはチームで行うが、メンバーの人数は4~8人が最適だ。また、多様なメンバーで構成することが大事となる。新たな視点や価値観を持っているメンバーから斬新なアイデアを提示してもらうことが問題解決のカギとなるからだ。

ただし、メンバーの誰か1人は問題の背景や状況を理解していなくてはならない。

3 .質問と内省(リフレクション)

アクションラーニングでの話し合いは、質問が中心となる。意見を言えるのは質問されたときだけだ。さらに、内省(リフレクション)の時間には、「話合いがうまく行っているか?」「自分や他のメンバーの意見は適切だったか?」などを振り返る。

4 .問題解決の権限

話合いに参加するメンバーは主体的に行動することが求められる。同様に、問題解決の権限も、特定の誰かではなく、メンバー全員に与えられる。

5.学習の重要性を認識する責任

個々のメンバーは、学習の重要性を認識しなくてはならない。そのため、質問や内省を積極的に行う必要がある。行動しなくては、学習ができないのだ。

6 .コーチ

話合いには、コーチが必要だ。ここでいうコーチとは、話合いの進行役・まとめ役である。話合いごとにメンバーが交替で担当してもいいし、外部の誰かに依頼しても構わない。ただし、コーチには次の役割が求められる。

・担当した話合いの問題解決には、直接関わらない
・全メンバーが話し合いに集中できるよう、学習につながる質問をする
・話合いの進行を務め、時間を管理する

アクションラーニングで押さえたい2つの基本ルール

アクションラーニングは、全員が問題解決力を養い、チームの底上げを図るべく、次の2つのルールが設けられている。

1 .質問中心

話合いは、質問を中心に進められる。既述の通り、意見を言えるのは質問に答えるときだけだ。メンバー全員に質問を義務付ければ、他のメンバーの話に耳を傾けるし、特定のメンバーによる会話や主張を避けることもできる。

また、質問第一にすることで、「意見を言いたい」「判断を下したい」という衝動を「傾聴」「内省」といった態度に変化させることができる。

問題解決のための対話を生み出すには、質問と意見のバランスを保たなくてはならない。話合いの場はあくまでも問題解決のためであって、個人の主張の場ではないからだ。

2 .コーチはいつでも介入できる

コーチは、メンバーのエネルギーと注意力を常に学習に対して向けなくてはならない。そのため、問題解決に巻き込まれてはいけない。

代わりに、いつでも介入できる。グループの学習度合を鑑みつつ、チーム学習を促すべきだと思ったときや話合いがうまく機能していないと感じたときは、問題解決に導くべく、介入を行うのである。

このときメンバーは、問題解決への取り組みを中断し、コーチの質問に耳を傾け、答えなくてはならない。

アクションラーニングの4つのステップ

実際のアクションラーニングは次の4つのステップで行う。

1 .問題を明確にし、全員で共有する

問題はチームのメンバーか組織から提示される。ただ、いきなり解決のための話合いをするのではない。コーチが問題提示者に対し、2~3分で内容を説明するように求め、その後で参加メンバーが質問を行う。

このときの質問は誘導的・尋問的であってはならない。「この問題が起きた原因は何か」「この状況をもう少し詳しく説明するとしたら、どういった内容になるのか」など、あくまでも問題を掘り下げるような質問に留める。そして途中で内省の時間をもち、再度、問題を再定義する。

2 .目標を設定する

「本当の問題は何か?」を再定義したら、メンバー全員で共有する。そしてその後、問題解決のための質問を行う。

3 .行動計画を作成する

問題の解決策が提示されたら、問題提示者は解決策を実行するための行動計画を練り、メンバー全員に提示する。全員の同意が得られた後、メンバーはそれぞれ、自分自身が当事者として協力できることを発表する。

4 .話合い全体を振り返り、解決策を実行に移す

最後、5~10分程度の内省の時間を持つ。話合い全体を振り返るためだ。そして問題提示者は、行動計画に従い、メンバー全員の協力を得ながら解決策を実行する。

アクションラーニングでチームと人材の両方を育成

アクションラーニングは、組織の問題を解決し、危機に対処する効果的かつ革新的な手法である。もっとも、メリットは組織だけにもたらされるわけではない。人材のリーダーシップスキルを開発し、よい業績を上げるチームを構築する手法でもある。

今、どの企業も生産性を向上させる必要に迫られている。単に研修を受けるのではなく、眼前にある問題を活用してアクションラーニングを行えば、個人も組織も大きく成長するに違いない。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)

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