節約率とは? 具体例を用いて分かりやすく解説

節約率とは、忘れた知識を再び記憶しようとした場合に、当初と比べて「どれくらい時間を節約できているか」を表す数値のことだ。以下では、エビングハウスの忘却曲線から読み取ったデータを使って、分かりやすい例を紹介する。

○エビングハウスの忘却曲線から読み取ったデータ

エビングハウスの忘却曲線

例えば、ある人物Aが無意味綴りを10分で記憶したとする。無意味綴りは意味をもたないため、多くの人は60分も経てば内容を忘れてしまうだろう。

しかし、Aが60分後に同じ無意味綴りを記憶しようとすると、次は5分36秒(5.6分)で覚えられるようになった。このとき、初めて記憶したときと比べて節約できた時間は4分24秒(10分-5.6分)であり、これを割合に変換すると44%(4.4分÷10分×100)になる。

この数値こそが、エビングハウスの忘却曲線で使用される「節約率」だ。つまり、1回目の記憶にかかった時間に比べると、2回目の記憶時間は44%節約できたことになる。

上記で紹介したグラフを見ると、節約率は時間の経過によって低下していくため、復習のタイミングを早めるほど記憶は取り戻しやすいことがうかがえる。

エビングハウスによる実験と最新研究の動向

エビングハウスは1879年から1884年にかけて、人の記憶定着に関する実験を2度にわたって行った。本実験は、無意味綴りの音節の長さをN、覚えられるまでの学習回数をnとして、Nとnの相関関係を究明しようとしたものである。

結果的に、nは対数とNを使った式で表せることが分かり、nが長いほどNはますます大きくなることも判明した。この実験結果をもとに考案されたものが、エビングハウスの忘却曲線である。

参考:J-STAGE「エビングハウス"実験心理学への貢献 記憶について"-第5章 音節系列の長さと学習の速さの関数関係について,対数関数が見つかった-

エビングハウスの忘却曲線は、時代をこえて現代の教育やビジネスにも活かされている。特にIT技術が進歩した影響で、学習支援システムの開発は多方面で行われている状況だ。

ここからは、人の記憶に関する最新研究について紹介しよう。

1.忘却曲線に合わせた復習システムの開発

日本デジタルゲーム学会の第13回年次大会(2023年2月開催)では、エビングハウスの忘却曲線に基づく復習フローシステムに関する研究が発表された。

本システムは、使用者がクイズパートで間違えた問題について、24 時間後・1週間後・1ヵ月後のタイミングで復習を促すものである。汎用性を高める目的でテスト問題はCSV形式で実装されており、将来的にはTOEICや基本情報処理技術者試験などの学習支援に用いられる予定だ。

参考:日本デジタルゲーム学会「忘却曲線に基づく CBT テスト対策支援システムの試作

同様のシステムは、人材教育をする企業でも実装できるかもしれない。例えば、座学の後にテストを行い、間違った問題のみ最適なタイミングで復習させるシステムを構築すれば、知識・スキルの定着に役立つだろう。シンプルな仕組みではあるが、このようなシステムはひとり一人のレベルに合った学習につながる可能性がある。

2.記憶定着を助けるVRシステムの研究

米国のメリーランド大学は、2018年に没入型の仮想現実(VR)が記憶定着に及ぼす影響についての研究を行った。本研究は、メモリーパレス(※)と呼ばれる場所に記憶したいものを配置し、VRを使った場合とデスクトップ画面で操作をした場合の記憶力を比較したものである。

(※)よく知っている場所をイメージして、そこに記憶したいものを配置する記憶法のこと。

2つのグループに分けて実験をしたところ、VRシステムを活用したグループのほうが記憶の正確性が高い結果となった。

参考:SpringerLink「Virtual memory palaces: immersion aids recall

つまり、没入型の仮想現実は、人の記憶定着を助ける可能性がある。パソコン用のツールなどで人材教育を行っている場合は、VRシステムの導入によって効果を高められるかもしれない。