記憶や忘却のメカニズムとは?読んで覚えるには何回必要なのか
新しい情報を受け取ったときに、人は「記銘・保持・想起」の3ステップで記憶すると言われている。
- 記銘(情報を受け取ること)
- 保持(情報を保つこと)
- 想起(情報を呼び出すこと)
上記のうち「記銘」は重要な情報に限定されるため、本人が重要性を認識していない情報は定着しない。簡単に言うと、情報を受け取る段階で無意識のフィルターがかかってしまうのだ。
また、脳も老化によって衰えるため、年齢を重ねるほど「想起」の機能が低下すると言われている。したがって、記憶が必要になる知識は繰り返して学習し、しばらく経った後も復習をすることが望ましい。
具体的な目安には諸説があり、一般的には3回・4回・7回とされる。学習内容や人によって適した回数は変わると考えられるため、状況に合った復習カリキュラムを組むことが重要だ。
エビングハウスの忘却曲線を活用する3つの方法
資格の勉強や受験勉強と同じく、企業研修の内容もたった一度で定着することはない。管理職から見ると、30代は脳年齢が若いと感じるかもしれないが、実はすでに多くの人が記憶力に不安を抱えている。
例えば、リスキリング(※)に興味がある人に限定しても、30~40代の約4割は自身の記憶力を不安視している。
(※)実務に役立つ知識やスキルを学び直し、キャリアアップや転職などを目指すこと。
20代の新人社員についても、一度の研修ですべての内容を覚えるのは至難の業だろう。では、エビングハウスの忘却曲線を研修に取り入れるには、どのような点を意識すれば良いだろうか。
1.活用する範囲(研修内容など)を慎重に見極める
エビングハウスは忘却曲線を作成するにあたって、「意味を持たない音節の記憶(無意味綴り)」に関する実験を行った。つまり、エビングハウスの忘却曲線は関心がない情報を記憶したときのグラフなので、教育を受ける人材が強く興味をもった分野であれば、節約率は全く違った数値になるだろう。
したがって、忘却曲線を人材教育に活用する場合は、「どの範囲に活用するか?」を慎重に見極めることが重要だ。例えば、以下のような知識を覚えるための研修であれば、実際の節約率はエビングハウスの忘却曲線に近づくと考えられる。
- 文字の羅列に近い情報
- 他分野との関連がない新しい知識
- 大量の単語や専門用語
など
すべての人材教育にエビングハウスの忘却曲線をとり入れると、かえって学習効率が下がってしまう恐れもあるので注意したい。
2.記憶に定着しやすい学習環境を整える
エビングハウスの忘却曲線からは、主に以下のポイントを読み取れる。
○エビングハウスの忘却曲線から読み取れるポイント
・ほとんど関心がない知識を学ぶ場合は、時間をかけてもすぐ忘れることが多い
・1回目の学習より、2回目以降の学習のほうが記憶に定着しやすい
・関心がない知識でも、復習を重ねるごとに定着しやすくなる
上記のポイントを一つずつ意識すると、人材教育に最適な環境を整えやすくなるはずだ。例えば、人は一度に多くの知識を学ぶよりも、複数回に分けて学んだほうが記憶に定着しやすくなる。したがって、教育担当者は長時間の研修ではなく、短い時間の研修を毎週実施するような方法を考えたい。
また、同じ範囲を復習する機会を与えることも、人材教育の効率を高める重要なコツになる。ただし、節約率は時間が経過するほど下がっていくので、できれば短いスパンで同じ範囲を復習させることが重要だ。
教育担当者の立場からは、もう一つ押さえたいポイントがある。2023年に実施された実証実験(※)では、映像広告よりも音声広告のほうが記憶しやすいことが示された。
(※)株式会社radikoと株式会社Neuによる、脳科学の見地からの実証実験。
(参考:PR TIMES「音声広告は映像広告と比べて記憶の維持率が高い!radiko、その理由を脳科学的実証実験で解明|株式会社radikoのプレスリリース」
映像が望ましいケースもあるが、内容によっては音声研修のほうが有効になるかもしれない。例えば、営業の流れや顧客とのやり取りを教えたい場合は、録音した営業トークを教材にするような方法が考えられる。
この点も踏まえて、より記憶に定着しやすい学習環境を検討してみよう。
3.学習内容をアウトプットできる機会を設ける
研修内容などの復習は、単にノートやメモを見直すだけでも一定の学習効果を期待できる。しかし、見直しは単純作業になりやすいため、なかには途中でモチベーションを失ってしまう人材もいるだろう。
そこで意識しておきたいポイントが、学習内容を「アウトプット」させることだ。知識として身につけさせるだけではなく、実務を通して復習できる環境を整えれば、知識・スキルはさらに定着しやすくなる。
前述の節約率のデータを見ると分かるように、復習のタイミングは早ければ早いほど効果的である。そのため、座学の後に小休憩を挟み、すぐに復習として現場に立たせるなど、知識・スキルをアウトプットできる機会は早めに設けておきたい。